3.

 その子供は何故かじっとこちらを見ていた。観察するように、警戒するように。

 知らない子供にガンを付けられる謂われはないが多分動くものが珍しいんだろう。ここは動かないものしか大方いないからな。

 背丈は俺より頭二つ分くらい小さいがそれでもガキにしてみりゃけっこうでかい。

 ぼろぼろの着物を身にまとって、裾から痩せた手足が木の枝のように生えている。赤毛の長髪が前まで垂れていて表情はよく見えないが何故こちらを見ているのが分かるかと言えばやけにギラギラした目が、それだけが髪の隙間から覗いて殺気を投げかけているからだ。

 全く、ガキらしくない。

 それでもまだ子供だと分かるのは顔が小作りで丈夫そうな若々しい肌をしているからだ。

 よし、こいつの他には誰もいないみたいだしいっちょ声をかけてみるか。


「おい、お前は誰だ?ここはどこか知っているか?」


 おそらく地獄絵に描かれた地獄なんだろうが。


「……」


 子供は無言。俺は続けて問う。


「知っていたら教えて欲しいんだが、ここを出るにはどうしたらいい」

「……」


 子供はまたしても何も言わなかった。

 気分的には盛り下がるな。木や岩に喋っているのと変わりない。まあ喋ったことねえけど。

 初めて会った話の通じそうな奴にはしゃぎすぎたのかもしれない。それくらい子供は無反応で俺の声だけが虚しく響いた。一瞬こちらの声が聞こえていないのかと思ったがそうでもないらしいことが次の言葉で分かった。


「……ここはお前がいるべきところじゃない」


 子供は低い声で、無愛想にそう言った。

 ああん?なんだそりゃ。

 俺が首を傾げた時、空気が凪いだ。

 突然殴りかかってきた子供の手を弾く。

危ねえ、危ねえ。ちっこいくせに良い動きするじゃねえか。拳は重く、俺は勢いを殺すために数歩下がらざるを得なかった。

 ったく、しょうがねえな。どこの誰とでも喧嘩したいお年頃って奴か。

 だが一つ分かったことがある。話す気は無いが攻撃してくるっってことは情報を取るのは力尽くでってことか。

 いいぜ。俺もそういうの嫌いじゃないからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る