7.
渡辺家は確かに名家と言うだけあって古式ゆかしい立派な日本建築の家だった。
見た感じ農家なので
「ここです」
そう言って奥に入って行こうとする胡桃を俺は呼び止めた。
「おい」
「はい、何ですか」
「家に入る許可を一言くれねえか」
玄関で立ち止まる俺を不思議そうに見た後、合点がいったのか胡桃は言った。
「どうぞお入り下さい」
その言葉と同時に俺は屋内に一歩を踏み出す。
「邪魔するぜ」
よし、入ることが出来た。
「お前は家の人間だから大丈夫のようだが、鬼は基本人間の家にはその家の人間から招かれなければ入れないんだ」
「失念していました。どうぞお許し下さい」
胡桃が頭を下げてくる。
まあ、謝ることじゃない。
「私は妹に、先に逃げるように言ってきます。赤江さんはここでしばらく待っていて下さい」
「一人でいいのか。西島が出るかもしれないなら俺も行くが」
そう聞いたが、胡桃は首を横に振った。
「いえ。この時間ならいつも自室にいるでしょうし、妹は人見知りなんです。いきなり貴方のような男の人が現れたらびっくりして声を上げちゃうかも」
確かに否定はしない。衣服を着替えないまま来ていたのではっきり言って今の俺は見た目がぼろぼろであるし、それでなくても身長は二メートル近くあるのだ。妹さんが男嫌いかは知らんが、怯えられて逃げたところを西島に喰われたりしたら本末転倒だしな。
「はい。だから待っていて下さい。すぐ帰ってきますから。大丈夫、私は逃げません」
それは分かっているが。第一、逃げたところでこの俺から逃げ切れる奴なんていない。
「では、行ってきます」
そう言って胡桃は奥へ足音を立てず去って行った。手持ちぶさたの俺はその場へ腰を下ろす。
いつまで経っても胡桃は帰ってこなかった。
まるでコントのような状況であるが家の奥はうんともすんとも言わないのだ。
流石におかしいと思い始めたのは柱時計が日付が変わることを告げてきた時だった。いくら何でも遅すぎるだろう、これは。
俺はやおら立ち上がり、家の探索を始めることにした。と言っても勝手の分からない家だ。一体何処から探せば良いのか。
ふと思案したとき、先ほどの胡桃の言葉を思い出した。広い客間。そうか。西島が居所にしているという一階にあるその部屋を探せば良いのだ。何かあったとしてもそこを見れば何かが掴めるはずだ。
客間はすぐに見つかった。相変わらず音はしないが鉄錆のような臭いが鼻をついた。遅かったか。チッと舌打ちする。
しかし、何が起こった。俺は
中の様子を見て、呆気に取られて暫し沈黙。そう。この俺が呆気に取られたのだ。
それほど、この場に起こっていることは理解不能だった。
数秒後、ようやっと口をついて出てきたのはこんな言葉だ。
「なんだこりゃ」
俺が見た光景。
それは喰いかけであろう不完全な身体で沈黙する胡桃の母親らしき女の死体と、頭から上が消失した男の死体(西島か?)。
そして、首がない渡辺胡桃の死体だった。
そうだよな。鬼には首を落とすのが一番の対処法で対抗法なのだ。
『私を鬼にして下さい』
だから止めとけと言ったのだ。責任を問われるのは、後始末をするのはいつも俺なのだから。
起こってしまったことは仕方ない。終わってしまったことは戻らない。
そうであれば、俺がするべき最後の役目をしよう。
後始末を、始めよう。
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