メリーさん、トレンド入り

marowak

第1話メリーさん、キャスティングミス

三日月がきれいな夜。ひとけの無い薄暗い森の奥にある小さな泉。そこで一つの怪異が復活を遂げようとしていた……


「あたし、ふっかーつ!」


 怪異というには余りにも快活な少女。整った顔立ちにちょっとばかり長いストレートの髪。申し訳程度に幸が薄めの顔立ち。そんな幸薄さとあたりの薄暗さを吹き飛ばすような明るく元気な声には怪異らしさはかけらもない。

 その少女はあたりをきょろきょろと見渡し、誰もいないことを確認するとどこからともなくスマホを取り出した。生意気なことに大手通信会社の最新機種だ。


「十年前は酷い目にあったわ。みーんな私のことを知ってるんだもの。電話が普及してイタズラの相手が増えるのはいいけど勘弁してほしいわ。ま、今回はうまくやるわ。」


 まったく。と軽くため息を吐きながら、スマホを触り始める女。今の携帯はこんな形なのかと横についたボタンで起動しいざ現代技術の積もった現代の携帯をいざ使おうと画面に手を伸ばし……


「ん? ……んんんっ? なによこれ、全く動かせないじゃない。どうなってるのよ!」


 あたりまえである。怪異という実態を持たない存在がスマホの画面を動かせるわけがない。

 んー、あーと悪戦苦闘する怪異女だがついに諦めて古き良きガラケーを魔法のように取り出した。現代技術は早かったみたいだ。さながら現代に対応できないおばあちゃんである。


「ん“ん”ん“っ、時代はやっぱりこれね。仕組みがわかりやすいし。」


 ほほをピクピクさせて一人言い訳する姿は滑稽だ。わざわざ口にださなければいいのに。


「いいわ。こんなのに時間とられるのはもったいないし。電話さえできればなんでもいいのよ。……よし、一件目行くわよ!」


 プルルル、プルルル、ガチャッ


掛かったわね……。よし


『あたしメリー。今泉の前にいるの』

「……っ、フヒッおんにゃのこが電話かけてきた。これはお付き合いのチャン」


ガチャ ツー ツー



 少しこもった声の典型的なヲタボイス。生理的嫌悪感ある相手はNGである。怪異にも相手を選ぶ権利がある。メリーさんは深くため息をつきもう一度電話という名のガチャを引く。



『あたしメリー。今泉の前にいるの。』

「……っ」


次は息を飲む音が聞こえ電話が切れた。相手の反応に気をよくしたメリーは口角を上げ軽い足取りで森を進む。獲物を今の相手に決めたようだ。電話主の居場所を怪異パワーで特定し歩きだす。

さて、怪談メリーここに始まる。








オタ島キリト@otazima_asuna 5分前

今メリーと名乗るおにゃのこから間違い電話がかかってきたお。電話なんて小学校以来、しかも幼ボイスで緊張して全く声が出なかったなり。ヲタクコミュ症ここに極まるぜ。

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「あたしメリー、今森にいるわ!」

相変わらず高めの明るい声を上げるメリーさん

メリーさんはチラチラと時間を気にしてテクテク歩く。電話を掛けるタイミングはその時々で異なるが、少しずつ間隔を短くしていくのがいつもの流れ。森を抜けてからが本番だと拳を握りしめ気合をいれるメリーさん。





オタ島 キリト @otazima_asuna 8分前

ありり? またメリーたんから電話がかかってきたお? これはもしや間違い電話ではない? まさかぼくに気が(以下童貞の妄想

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「あたしメリー、今〇〇川の前にいるわ。」

「............っ!!!!」

反応の良さに思わず笑みがこぼれるメリーさん。今回ほど上手くいくのはいつぶりだと森を超え整備された道を歩きながら今までの怪異を思い出す。迷子に間違えられたり、ストーカーに追われていると勘違いされ警察に身柄を保護されかけたり。しかし、今回は、電話五回かけ五回とも相手は驚きどもっているからうまくいってると安心しきってるみたいだ。


実際のところはただ相手の男がコミュ症なだけであるが。


「あたしメリー、今〇〇スーパーの前にいるわ。」


ちゃくちゃくと相手に近づくメリー、相手の居場所が家から大きな公園に移動しているのを確認し、思わず笑みがこぼれる。ここまで来れば残り3回の電話でチェックメイトだ。


「あたしメリー、今〇〇公園の前にいるわ。」





オタ島キリト@otazima_asuna  50分前

メリーたんからの電話またきた! 今、森を抜けたらしいお。次電話きたら録音しとくお。

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タルタルタケシ@tarutaru_takec  49分前

@otazima_asuna

嘘乙……と言いたいところだが、オタ島氏が嘘を言うとは思いにくいな。オタ島氏、ちょっと○○公園に来てくれないか?

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えんどおいリアル@horobiro_riaru 48分前

@otazima_asuna

オタ島氏、その話が本当ならメリーって確か怪異のことだけど気づいてる?

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オタ島キリト@otazima_asuna 40分

また電話来たお。メリーたんって怪異なん? 今ググってみたら確かに現在住所と名前を告げる現代感覚のなさと電話するたびに近づいてるのは一致してるが。とりあえず○○公園に移動するお あ、これ電話音声だお

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オタ島キリト@otazima_asuna 10分前

ヤバイ……メリーたん本当にこっち来てるお。興奮してきたwww。

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タルタルタケシ@tarutaru_takec 10分前

メリー見たさに公園に人が集まってるの草。もうすでに50人はいるんだが、オタ島の影響力よ。

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オタ島キリト@otazima_asuna 1分前

もう公園前ですと……いよいよ、メリーたんと対面の時。決めたお。ぼく、メリーたんに告白する。この電話は運命。あぁ、緊張してきた。公園のみんなもこの投稿を見てくれてるみんなも応援してくれ!

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「あたしメリー、今滑り台前にいるわ」

 おかしい……とメリーさんは困惑を隠せない。深夜近くの公園に人が集まっているのだ。ここまで順調だったというのに。

みんな滑り台のほうにスマホを向けている。今はまだ姿を現してないのに……。見知らぬ人からたくさんの視線を浴びるのは恐怖でしかない。今から脅かし、絶叫させるのは私だというのに不安の、恐怖の声が漏れてしまいそうになるのをどうにかこらえるメリーさん。

 人が集まっているくせに電話相手の男の周辺には人がいない。いないというのは語弊があるか。その人物を囲うように円を描いて人が立っているのだ。この奇妙な光景にもメリーさんは足が竦みそうになるが電話相手の男の様子をみて安堵した。全身から汗があふれ、足がガタガタ揺れ、息が荒く周りに視線を絶え間なく動かしているのだ。服装が清潔でオシャレなのもそれを際立たせる。公園がおかしいのは気にしすぎなのだと気を持ち直し。今も動悸が激しい男の後ろに立ち、身体を実体化し、最後の電話を掛ける。


「あたし、メリー、今、あなたのうしろにいるわ」


 決まったと、勝ったと勝利の喜びを心で叫ぶメリーさん。あとは絶叫をきくだけだと男の反応を待つ。男に集中するあまりメリーさんは周りの人間たちにスマホを向けていることに気づけない。

男はおそるおそる振り返り目を見開き、大きく息を吸い込む。


 (決まったわっ......!)


「す、すす、好きです! ぼくと付き合ってください!」

「……はっ?」


周りの人間は歓声をあげ、動画を撮る。メリーさんは混乱する。



その日から一週間。SNSのトレンドにメリーさんが入った。


メリーさんは怪異をやめた。

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メリーさん、トレンド入り marowak @wuy007k

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