ゾンビ愛護法環境下のマタドール

ちびまるフォイ

殺しません、勝つまでは

ゾンビがコロシアムに解き放たれて、続いてマトドーラが登場する。


「みなさん、お待たせしました!

 これより華麗なるショウをお見せしまSHOW!」


「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛」


ゾンビはマタドーラめがけて突っ込んできた。

マタドーラはひらりと半回転して受け流す。


「っと、今回のゾンビの気性は荒いようですね。

 見ごたえのあるショウになること、お約束しますよ」


「ニ゛ク゛ゥ゛ゥ゛」


「では、第一幕:興奮の場です!!」


マタドールは羽織っていたマントを不審者のように広げる。

マントの下にはいくつもの肉がぶら下がっていた。


肉をつかんだマタドールはゾンビに向かって投げ始めた。


「ニ゛ク゛ゥ゛ゥ゛!!」


ゾンビは血肉のにおいを感じ取り、目を充血させて猛ダッシュ。

マタドールの放つ細切れの肉を追いかけるようにコロシアムの場内を走り回った。


まるでマタドールの指示に従って動いているかのように、

ゾンビを縦横無尽に操っている。


「ゾンビも大変興奮してきました! すでに危険度はMAX!

 では、第二幕と行きましょう!!」


「モ゛ッ゛ト゛、ニ゛ク゛ヨ゛コ゛セ゛ェ゛ェ゛ェ゛」


「第二幕:演舞の場です!!」


マタドールは真っ赤な布をひらひらさせた。

ゾンビは判断力が低下したのにくわえ、さっきの血の色が脳裏に焼き付いているので

マントに向かって猛ダッシュをしかけた。


「はっ!!」


マタドールはすんでのところでゾンビをいなしてかわす。

突進してくるゾンビをひらりと翻弄した。


死んでいるとはいえ、ゾンビの体力も無限ではない。


何度もマタドールの横をダッシュしたゾンビは息が上がってきた。


「演舞はこれにて終了です!

 最後の大一番、第三幕:真実の瞬間にいきましょう!!」


マタドールは腰に差していた剣を抜いて、仕留めにかかる。


「ニ゛ク゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛!!」


我を忘れたゾンビが突進をしかけてくる。

マタドールは上手くかわしつつ、むきだされた首筋に――



「待って!!」



観客席からの声にマタドールの剣先が止まった。

声の主は観覧席から場内へとずんずんやってくる。


「なにやってるんですか、危ないですよ!?」


「お願いです。命だけは、命だけは取らないでください!!」


「いやもう死んでるんですけど。ゾンビですし」


「どんな姿になってもうちの子はうちの子なんです!」


「えっ!?」


言われてみれば、血色が悪くなっても顔つきが似ている。

マタドールは剣をひっこめた。


「わかりました、このショウは中止しましょう」


「マタドールさん、いいんですか?」


「ゾンビ闘牛士を快楽殺人鬼だと思っているんですか? 違いますよ。

 僕たちはゾンビと命を懸けた戦いを行う戦士であり、

 観客に最高のパフォーマンスを届けるエンターテイナーなんです」


「あなたは本当に素晴らしい人ね。

 今回のショウを台無しにしてしまって、ごめんなさい」


「気にしないでください。次がありますから」


マタドールはマントを再び広げると、札束がぶら下がっていた。

札束のひとつを場内に放ると、親が目を充血させながら食いついた。


「カ゛ネ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!!!!」




「さぁ、ショウのはじまりです!」


マタドールは再び剣を抜いた。

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