空想絡繰都市奇譚
ねこぜ
プロローグ 「空想絡繰都市-〇〇壱」
時代の節目というのは、思っていたよりも平凡だった。
2018年、平成最後の年。
私が生まれた時は、新世紀だなんて皆お祭り騒ぎで、華々しい未来を想像していたらしいのだけれど、今まさに私が直面している時代の終わりは、くだらないニュースに流されてばかりで、私の日常とはこれっぽっちも関係がないみたいだ。
残り僅かの高校生活も、思い返せばとても平凡なものだった。
仲のいい友人もできたし、部活もそれなりに頑張ってきたし、勉強は…受験を控えてちょっと焦ってるけど。
それから、柄じゃないけど恋なんてものもしてみたりもした。
おおよそ青春と呼べるような経験を、自分なりになぞってきたつもりだ。
私はそんな平凡な、どこにでもいるような女子高校生だった。
少なくとも、彼に出会うまでは。
金曜日の放課後、友達からの誘いも断って、私はいつもの路地裏に向かう。
一世代前のスマートフォンを取り出して、母にメッセージを送った。
「またお泊りしてくる 日曜の夜には帰るから」
もう何度目かもわからないこのメッセージを、母はどう思っているのだろうか。
心配しているかもしれないし、しょっちゅう男の家に転がり込むふしだらな娘だと呆れているかもしれない。
けど、どう思われていても本当のことを言うわけにはいかないのだ。
だってこの扉の先のことは誰にも言ってはいけないと、彼と約束しているのだから。
路地裏の突き当り、古ぼけた扉に手をかける。
ひとつ深呼吸をして、その扉をゆっくりと開く。
「おかえり、ナナミ」
彼はいつものように出迎えてくれた。
「ただいま、ハジメ」
私もいつもどおりに彼に応える。
これは平凡な私の、平凡で特別な記憶。
誰にも言えない、私だけの思い出だ。
空想絡繰都市奇譚 ねこぜ @nekoneko_nekoze
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