店と村 それぞれの勝手読み

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「……と言うことで、ベルナット村からテンシュとセレナは去ることになりそうです」


「巨塊への坑道の、宝石の掘削が進んで産出量が減ってきた辺りからその声は強くなっていったと判断します。さらに調査した結果、そのようにそそのかした者がいるようです」


「……まぁ仕方のないことだな。たとえそそのかすのが悪行だとしても、村人が二人に村から出て行ってほしいと思ったり願ったりすることは悪いことではない」


 天流法国の首都、ミラージャーナにある皇居の玉座の間にて、ウルヴェスに事情を報告するライリーとホールス。

 皇居の者からも、この二人は皇居の案内人としか思われていない。

 ウルヴェスは二人を後継者として社会勉強をさせるため、休みを取った日には国内の事情を知ってもらう目的も兼ね、いろんな地域で羽を伸ばさせている。


 その二人も店主のことを気に入り、事あるごとにベルナット村に足を運ぶ。

 そして店で聞きかじった引っ越しのことを詳しく知るため、店を出た後に方々に話を聞きに行き、玉座の間で誰もいない時間を選んで法王に報告していた。


「それに妾の膝元に置いておくというのも悪くはない。しかしテンシュ殿はここを嫌っておるからな。引っ越し先はこの付近を選ぶことはまずあるまい」


「それに、必要なのは店舗だけではありません。倉庫、工房も必要とするでしょう。首都に移るとすれば客数も増えるかもしれません。今と同じ面積では手狭になると判断します」


「引っ越し先の候補がいくつかあるなら、材料が手に入りやすい所を選ぶのではないかと愚考します。そして宝石加工を中心とするなら、山のふもとには注目すると思います。ただ、崖の上や下になる場所は崩落の可能性がありますのでそこは避けるかと」


 当人達の意思には触れず、それぞれの思惑を基にして三人は話に夢中になっていった。


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 数日後。


「あれ? 『しばらく休みます』だって……。風邪でもひいたのかな」


 巨塊の坑道に向かう前に『法具店アマミ』へ立ち寄って買い物をする予定だった『クロムハード』。

 目の前で予想外のことが起きて戸惑っている。

 年中無休の店が、期間が明確にされずに休店となっていた。


「よう、スウォード。そんなとこに突っ立ってどうした?」


 予定外、予想外のことが起きると、それに対応することが難しくなる時がある。

『クロムハード』のメンバーがまさしくそれ。

 そこに通り掛かった『ホットライン』のメンバー達。


「お、おぉ。テンシュ、風邪でもひいたのかなってよ」


「お店今まで休んだことなかったよね?」


 スウォードとスリングが事態を確認するように『ホットライン』に話しかける。


「うちのシェイク、知ってるだろ?」


「シェイク……。あぁ、お前の従姉妹……リメイクの妹、だったよな? 確か」


 リメイクとは、『クロムハード』の副リーダー、リメリアの渾名である。

 店主が法王からの依頼の作業に取り組んでる時、店主に弟子入りのために押しかけた彼女の妹がシエラ=ドレイク。

 シェイクとは、彼女に付けられた渾名である。


「シェイクがテンシュから言われたんだと。一か月くらい休むってさ。坑道から採れる、テンシュが欲しい宝石が少なくなってきたとか」


「掘削作業がどんどん進んでくもんねぇ。そりゃ減る一方だわ」


「そう言う我々もそうですがね」


 『ホットライン』も宝石採掘の依頼を受けてやって来たのだった。

 冒険者達が欲しがる場合もあるが依頼人からの要望も多く、その依頼を受ける者が冒険者の集団なのだから当然人手は増えていく。

 欲しい宝石の量の上限がなければ掘れるだけ掘っていく。

 埋没されている宝石の量がどんどん減るのは誰でも予想できることであった。


「ほかの宝石がたくさん埋まっていそうなところを調査しに出かけたんじゃないかってシェイクの想像」


「素材がなければ成り立たない仕事だから、秘密の場所をキープ出来たら強みになるもんな」


「それにしても一か月? セレナもかな?」


「二人一緒らしいぜ?」


 エンビーの答えにがっくりする『クロムハード』。

 長期の依頼を受け、現地で調達する予定の道具を省くわけにもいかない彼ら。

 ないよりはましということで、心もとなく感じるものの近くの道具屋で事を済ませることに決めた。


 冒険者関係の者達は、自ら口を閉ざした店主に降りかかった状況の変化を知る由もない。


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