再会・玉座の間にて 5

 天流法国皇居の玉座の間で、『闘石』と呼ばれる碁に似た知的競技の大賞戦と呼ばれるタイトル戦の賞品選びがウルヴェスの下で行われ、店主が作り持ってきた碁盤と碁石のセットが選ばれて終了した。

 他の候補者と衛兵が退室し、玉座に残ったのが今は妖女の姿の法王ウルヴェスと店主。彼が連れて来たセレナとシエラ。そして……。


「あの五人もなかなかおっかねえがジジィほどじゃねぇな」


「この姿を見てもジジィ呼ばわりとは、テンシュ殿もなかなか頑固者だの」


「あの五人って……大臣達……だよね? あの方々だって相当なもんだよ……?」


 店主とウルヴェスの会話にセレナが入って来る。

 店主は、ここで初めてあの五人がこの国の行政担当の者達であることを知る。

 しかし店主はあまり動じない。


「それなりの体格だったからな。それよりも怖ぇ奴がいる」


「ま、まだすごい人達がいるんですか……? げ、猊下でもう十分です……」


 シエラはまだ怯えている。

 そんな彼女を見たウルヴェスがにこやかな笑顔を見せながらいくら懐かせようとしても、彼女は腰が引ける一方である。

 そんな二人を冷めた目で見る店主。


「ドアの傍に突っ立ってる二人だよ。ジジィにゃ負けるしあの五人と同レベルって感じ。問題は、あんな普通の体つきでそこまで力が備わってるってところがおっかねぇ。怖さってのは、どんなに恐ろしくてもある程度予想出来たらそれほどでもねぇんだよな。どんなに小さくても予想が出来ねぇ力を発揮されるのもある意味怖ぇ。あの二人は後者だな」


 店主がセレナと一緒に初めてこの玉座の間に来た時に案内してくれた係の者に向けて指を差す。

 その二人はシエラと似たような年にも見えるが、種族が見た目だけではよく分からない。

 人なのかエルフなのか、別の物なのか。


「ふふ。良く見ておる。流石テンシュ殿。前にも言うたろ? 皇族の若い者を後継者として育てていると。その二人がそれよ。大臣達もそこまでは知らぬ。まさか宝石職人に見破られるとは大したものよ」


「……ならあまり知らないうちにおさらばした方が良さそうだ。皇居っつったよな。違うだろ。伏魔殿っつーんだぜ、こういうとこは。このジジィ、腹に一物どころじゃねぇや。二つも三つも抱えてやがる。こっちの身が持たねぇっつーの。今回の依頼の報酬は、今すぐにこっから撤退すること。それだけだ」


「テンシュ殿は冷たいのぉ。もう少し甘えさせてもらいたいものよ」


「ぞっとする話だわ。得体のしれない国のトップから甘えさせてくれってどんな地獄だよここは」


 店主とウルヴェスの冗談とも本気とも区別がつかないやり取りに、セレナとシエラは鳥肌が止まらない。


「猊下。畏れながら申し上げます。我々も、そのテンシュ殿と今後とも懇意にお付き合いさせていただきたく存じます」


 案内係と思われた次期後継者の二人から、ウルヴェスの後に続いて頭を下げられる店主。


「お断りだ。言っただろ。腹に二つも三つも抱えてる奴って。その後継者だぜ? 怖いなんてもんじゃねぇよ。こっちの寿命が縮んじまう」


「テンシュ、さっきから二つも三つもってどういうこと?」


 セレナの質問に目を丸くする店主。


「気が付いてねぇのか? 先王は暴君だった。だがそれでも支える者が何人かいたんじゃねぇかってこと。その生き残りがまだいる。そいつらに目を光らせて、どう取り締まるか考えてたところに、おいしい餌を見つけたってわけ。その餌だけ食われても痛くも痒くもなし。燻り出せたら儲けもん。その餌にされかけたんだよ、俺達は」


「人聞きの悪いことを言うでない。確かに妾の反対派はおる。そやつらは皇太子の支持派でもあった。確かに見つけられれば儲けもんだが、唯一無二の人材じゃぞ、お主は。囮や餌などどう考えても釣り合いがとれぬ」


「どうだかな。さらにそのやり取りを見せて、国の指導者たる者は云々などと教育と称してその二人をこの場に居合わせるってのもな」


 店主が案内役の二人をちらりと見ると、同時に二人が軽く店主に会釈する。


「囮だのにするよりも、もっとテンシュ殿を有意義に扱う方法があるのじゃが、聞いてみる気はないかの?」


「聞いたらもう後には引けないって話もあるんだよなぁ。聞かない方が無難かもな」


「そんなことはない。法王の地位にいる間、妾を補佐してもらいたいのだがの」


 店主ら三人は硬直する。

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