法王のジジィが日本文化の道具作製を依頼した先は宝石職人 1

「セレナ、お前が絡むと話進まねぇんだよ。飯の注文でもしてこいや。お代はジジィ持ちでな」

「テ、テンシュ! なんて失礼な!」


「ほっほっ。セレナ嬢、ええんじゃよ。三人して食事にしようじゃないか」


 そう言うとウルヴェスはさっさとテーブルの前の座布団に座る。

「誰が何のためにこの部屋を予約したのかわかんねぇな」

「ほっほっほ。そう言いなさんな。ワシの奢りで構わんぞ。好きなの選びなさい」


 何か裏があるのでは?

 そんなことも考え始めて、ウルヴェスからの好意をなかなか素直に受け取れないセレナ。


「いい加減にしろよ、セレナ。少なくともオメェに災いもたらすことはねぇんだよ。少なくともこのジジイが俺に頼み込むまでは、俺の命も保証されてる。でなきゃこんな田舎まで来やしねぇよ、な? ジジィ」


 店主の言葉に声を上げて笑うウルヴェス。


「なかなか面白いことを言う。友人にして正解じゃった。退屈せんのお。じゃがワシは皇太子みたいなことはせんぞ? ちょいと疑り深いようじゃの。まぁ経緯が経緯なだけに仕方がないとは思うが、そこは済まないと思っとるよ。……さて、テンシュ殿も昼のメニューを決めたようだし、後は嬢ちゃんだけじゃぞ? 決まり次第注文に行ってええからの? で、テンシュ殿、話の続きじゃが単刀直入に言おう。『闘石』という遊具の道具を作ってもらいたい。……遊具というより、知的戦略模擬戦と言ったところかの」


「『闘石』? まさか……」

「戦争の手伝いしろってのか? 温泉の個室でする話じゃねぇだろ」


 三人分のお茶を淹れつつ、『闘石』と言う言葉を聞いて驚くセレナ。胡坐で座っている店主は呆れ顔で体の後ろに手を突く。


「遊具と言ったじゃろ? 娯楽の一つ、知的遊戯じゃよ。それで生計を立てとる者もおる。先の国の王も推奨し、その組織を庇護もしておった。無論ワシもな。……お、丁度えぇ。嬢ちゃん、昼食の注文のついでにその道具も持ってきてくれんか」


「あ、は、はい」


 急いで受付に昼食を注文するために、メニューを必死で見ているセレナ。

 『闘石』という言葉が出てから、心なしか彼女の表情は和らいだように見える。

 ウルヴェスから新たに注文が出た。取り急ぎその道具を持ってくるために受付に向かう。


「……骨休みにここにきたんじゃが、嬢ちゃんがあんな風じゃとちぃっとも休まらんのぉ」


「場所選びに間違いがあるってことに気付けよ。……で、分かってると思うが、俺は石の加工しか能がねぇんだぞ? 巨塊騒ぎだって、ただの知恵をぶん回しただけだ。しかもこっちの世界とは違う立場の人間として首突っ込んだだけで、宝石加工の本職の腕が冴えたなんて話はどこにもなかったんだから」


「……巨塊……か……。ついこの間のような気がするし、ずいぶん前のような気がするのぉ。じゃがな、お主抜きでは事態はここまで落ち着かなかったことも事実じゃ。ましてや犠牲者はあれ以上増えることなくな。この世界の者ばかりが頭寄せ集めて考えても、討伐以外に選択肢はなかったぞい」


「話ずれてる。ボケたかジジィ? 俺に頼むってことは、石関連じゃねぇと力になる事はほとんどねぇぞ? それにそこまで緊急事態かよ。つーか、『闘石』って何だよ」


「うむ、『闘石』……。地域によっては『陣取り』とも言うの。『覇面』とも呼ぶものもおる」


「呼び名が統一されてねぇのか。なんなんだそりゃ」


「もうじき嬢ちゃんが持ってきてくれるぞい。口で説明するより見てもらった方が早いの」


 その時襖が開いてセレナが入ってきた。何やら重そうな物を持ってきたが、それが『闘石』と呼ばれる道具らしい。


「戻りました。『闘石』も一式持ってきました」

「おぅ、待っておったぞ。うむ、ここに置いてくれ。ところで嬢ちゃんはお昼は決めたかの?」


 部屋を出るよりもにこやかな顔をしているセレナ。

「はい、受付で決めてきました。猊下もこれでお遊びになられたことはあるんですか?」

「もちろんじゃ。テンシュ殿は見たことはあるかの? この世界の独自の、自慢の文化の一つじゃよ。これに長けた者を知恵者として、政の人材として登用することもある。自慢……いや、文化の誇りの一つじゃな」


「ちょっと待てや……どういうことよこれ」


 今度は店主の顔が青ざめる。

 厳密には違うだろうが、和室、襖、畳、座布団。

 そして今目の前に置かれたそれは……。

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