交わりたくない相手と密会 3

 店主はふと思う。


 『法具店アマミ』に早く行きたいという気持ちで移動したことは何回あっただろうかと。

 現実世界に存在しない、数多くの宝石と出会えた。

 現実世界に存在しない、とてつもない力を持つ数々の石と出会えた。

 辛うじて興奮を抑えることもあった。

 誰かに伝えたいくらいうれしい思いで手にすることもあった。


 それでも『法具店アマミ』に来るときはいつもいつも気が重かったように思えた。

 気が進まないことをやらなければならない。

 決してそれは義務ではないが、果たさなければペナルティがあると言われれば少なからずそのような思いに誰でもなるだろう。

 しかも相手が店主に対して親近感を持っているのだとしたら、店主にとっては質の悪い脅迫である。


 セレナとともに店主は『法具店アマミ』に到着した。

 店内にいたのは救出計画のときにいた背広姿の三人。

 相変わらず後ろの二人は背広の下に何かを着込んでいるのか、フードを被っている。


「あー、またお会いしましたね。まさかあなたがこの国のトップの方だったとは。お見逸れしました。謁見できて光栄でございます。と言うことで私はこの辺で失礼を……」


 何の感情も込めず、淀みなく三人に挨拶をする店主。


「テンシュ……分かってて言ってるんでしょ。ホントにもう……」


「テンシュさんのお話は伺ってます。しかし聞くと見るとでは大違いですね。なかなか強烈な個性で何と言いますか」

 

 店主に一番近いスーツ姿の男はそうは言うものの、その言葉とは裏腹に笑顔は全く変化せず、動揺どころか心のかすかな動きも見られない。


 しかし店主にはもっと気になる事が『法具店アマミ』に存在していた。

 生物や鉱物全てに力を感じられるようになった店主は、どれにどんな力があろうとも、気に入るかどうかは別として気にならなくなった。


 しかし店内の何もない空間に今でに感じたことのない巨大な力の存在を感じている。

 もちろん店の壁や柱からも力は感じる。だがその巨大な力の発生場所が物体ではなく何もない空間。

 店主がこれまで生きて来て、何もないところに力を感じることは全くなかったわけではない。いわゆる心霊現象と呼ばれるもの。そう店主は解釈している。

 

 この店内でセレナが一番強い力を持っている。しかし彼女の力とは比べ物にならないほどの何かが店内に存在している。それはスーツ姿の三人の力ではない。

 セレナが巻き込まれた爆発の力はどれほどのものだったかは店主には想像はつかない。

 だがそれに似た現象ではないかと推測した店主は、何でもいいからこの場からすぐに去る理由をこじつけてまで、一刻も早くこの場から去ろうとする。


 ところが店内にいる他の四人には、店主の冗談としか受け取らない。


「ちょっとテンシュ、どこに行くのよ!」

 セレナが両手で店主の片手を掴み、その場に留まらせる。


「お、お前もまだ体調戻ってねぇだろセレナ! とっとと……」

 休め。


 そう言いかけて止める。


 何が原因か分からないが、その力が暴走したら、再び爆発とやらが起きるのではないだろうか。

 彼女ならば魔力や魔法で何とかなるだろう。

 しかし自分にはその力はない。現実世界に帰る以外に身を守る術はない。

 彼女から守護の力をもらった。しかし小男から殴られたりしたときにはその効果は発揮しなかった。

 その力が働いたとしてもその力が暴走したら、それで防ぐことは出来ない事故になるだろう。


 自分の身は自分で守るしかない。

 店主の行動に迷いはない。全身の力で彼女の両手を振り切る。


「何かがいそうなんでな。一番非力な俺は一番安全なところに逃げて避難する。それだけだ。何が起きても悪く思うな」


 今までとは違った店主の冷たく冷静な反応と言葉にセレナは驚く。

 巨大な力の持ち主はその力の存在を隠そうとしているのだろうか、彼女ばかりではなくその三人もその力に気付いた様子はない。


「お待ちくだされ」


 突然店内に響く老人の声。

 店主は怯える表情を隠そうともしない。とうとう耐え切れずしゃがみ固まる。

 四人はその声の出所を探している。

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