客じゃない客の置き土産 4

 店主が『法具店アマミ』の二階で朝食を食べていると、いつものように調査員二人がセレナを迎えに来た。


「じゃあ行ってくるわね。テンシュ、入り口付近と一番奥、それから大体等間隔で適当に拾ってくればいいのよね」

「あぁ。だが転がってる石はやめとけ。蹴飛ばされたりして移動した石なら正確な判定もできないからな。後は地図。洞窟のところだけでいい。まぁ期待してねぇから無理矢理は持ってこなくていい」


「まぁたそういう適当なことを言うし。じゃあウィーナちゃん、ミールちゃん。後片付けお願いね」

 セレナは例の割烹着を脱ぐと、フィールドワーク用の装備がその下から現れる。

 二人のいってらっしゃいの声に送られて、いつもの調査員二人と現地に向かって出発した。


「テンシュ、無関心の割には前向きに取り組むよね」


「……石がな、やっぱり魅力的なんだよな。メリットがありゃ食指も動くってことだよ」

「食指が動く?」

 ウィーナの聞き返しを聞いて、店主は呆れたため息。


「こっちでもそう言うかどうかはわからねぇがよ、教養身につけろってのはそういうことだよ。持ってきた辞書で調べろや」


「うねうね~」


「触手だろうが、そりゃ! って、ここじゃそういう生き物もいるのか……」


「テンシュ、それ、差別。そういう種族で冒険者の人もいるんだから」


「お前から言われるたぁ思わなかったよ! そこらへんがこっちとそっちの日常の違いぐれぇは考慮に入れろ! 他意はねぇよ!」


 そう言いながら店主は、『クロムハード』のメンバーにそれっぽい動きをする人物がいたことを思い出す。

 予想できないことに恐怖する心理はどちらの世界の住人の心の中に存在する。

 例え危害を加える気持ちが存在しなかったとしても、相手が見た目の姿をどうとらえるかによってその恐怖は心の中に生まれる。

 その思いを持つ者が膨大な権力を持った時に、防衛手段も大掛かりになる物になり、それがぶつかり合うときに戦争が起きる。

 見た目から覚える恐怖よりもはるかに絶大な信頼関係を築く。

 これが成されないうちにはセレナを自由にこちらの世界に来させることは出来ない。

 こちらの世界にはない魔力が日常で使われているのだから。


「どうしたの、テンシュ? 物思いにふけちゃって」

「あ、あたしなんか悪い事言ったかな? ごめんね、テンシュ」


 二人の声で店主は我に返る。

「お、おう、悪いこと言った。お前ら、うん、頭の悪い事言ったな、確かに」


「「またそういうことを……」」


 ミールが頬を膨らませる。

「ちょっとは本気で悪いこと言っちゃったなって思ったんだよっ。全くテンシュはぁ」


「気にするな。お前らの知識がまだ足りなさそうなのはよく分かってるからこっちも気にしてねぇよ。とにかくさっさと食い終わるからここ、よろしくな」


 店主は飲み込むように目の前の料理を平らげる。


「歯を持つ種族は、よく噛まないとダメなんですよ? 健康には気を付けてもらわないと」

 ウィーナからの注意に店主は諦めのため息をつく。


「こっちに何人俺の保護者がいるんだよ……」


「倒れられたら困ります。バイト料貰ってからならいいですけど」


「そ、そうだな。うん、ウィーナもだいぶ分かって来たじゃないか。そういう気持ちを持ってないとこの仕事やっていけないぞ」


 二人の会話をドン引きで聞いているミーナがウィーナの心を貫いた。

「お姉ちゃん、テンシュがうつった……」


「風邪か何かのウィルスか、俺は……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る