客じゃない客の置き土産 1

『法具店アマミ』があるこの町から、この国である旧オルデン王国、そして今の天流法国の首都の方角を背中に向けるとそのほぼ正面が隣町の中心部が存在する方向。さらに奥の方向の、この国の端にあたる山脈の地中深くに巨塊がいる。


 巨塊の出現場所は、オルデン王国時代に名を馳せた魔導師の住処であった山中の洞穴。

 そこから命を持つ者の肉体を吸収し、体は増大していく。その体は粘液体で出来ていたため、隙間に入りこみ下へ下へと潜っていきつつ、さらに成長するに適した空洞を見つけたらしく、現在はそこに留まっている様子。

 第一次討伐に際し、その元住処を取り囲むように四方向からトンネルを掘りそこに到達する道を作った。

 第二次討伐ではそのトンネルから下方向に枝分かれをし、巨塊に到達すると思われるトンネルを新たに掘っていった。しかし現在はすべてのトンネルの途中で巨大な岩が現れ通り抜けることが出来なくなっているのだという。


「行方不明の人達の中には、その岩の向こうにもいるかもれしないって話なんだけどね」

「普通の岩だったら何とかなったかもしれなかったのに……」

「岩に少しでもヒビがあったらその中に水とか入れて凍らせれば割れるかもしれないんだろうけど」

セレナが聞いた話はウィーナとミールも心を痛める。


「その爆発とやらの位置は討伐隊のどこで起きた?」

 突然の店主からの質問。


「え? えっとかなり前だったと思う。いずれその現象に誰も足を踏み入れてないよ。私、先陣の部隊の副長で一番後ろにいたんだけど、隊長が行軍中にトンネルの中で岩に当たって亡くなって、そこから先頭になって進んで行ったんだけど……」


「そんな話の映画があったような気がする。まぁいいや。その岩ができたのはその現象の位置か? それとも手前か?」


 この世界に無関心だったはずの店主が急にその話題に食いついてきた。

 しかしそのことを双子は気にせず、店主とセレナの会話に耳を傾けている。


「多分奥じゃないかな? 目印なんかあるわけないし、歩数っていうか、距離感考えると討伐の時よりは少し長く歩いたような気がした」


 考え込んだわずかな時間での店主の結論はありきたりなもの。

「……普通の爆発なら、その岩より奥に吹っ飛ぶってことはないとは思うがな。ま、普通じゃない現象なら何とも言えんけどな」


「結局何が聞きたかったの?テンシュ」

「ややこしいこと言うのはいつものことなんでしょうけどねぇ……」


 食事の手を休めずに聞かせるともなく声を出す店主。


「まぁ俺にはよく分からん話だってことに気が付いた。なんせ地図もねぇ。状況がわかんねぇ。そして何より俺とは関係ねぇ話……」


「テンシュ、やっぱり冷たいね」

「でもお昼のときに言ってたじゃない。自分の身は自分で守れって。流石にそんな事故……って言うのかな、それは予想もつかなかったんでしょうけど」


 ウィーナは昼に言われたことを口にする。そして彼女ら双子にとって決して忘れてはならない戒めでもある。


「でも、予想もつかないことかもしれないけど、それでも予想しなきゃいけないこともあるし、自分達だけで危機を乗り越えなきゃいけないんだけど……」


「どのみち俺から首突っ込む気はねぇな。何せ誰も俺に情報を寄越さない。昔話をしてくれた人が一人だけじゃとても話にならんしな」


 情報という言葉で思い出したのか、セレナは立ち上がって調査の時に持っていったバッグを取りに行って戻って来た。


「テンシュにお土産あったのを忘れてた。まぁ情報の一つかもしれない……けど、宝石の種類にはあまり興味ないんだったよね。参考になるかどうかわからないけど……」

 料理が並んでいるテーブルの上の開いている場所に置いたのは、バッグから取り出したいくつかの宝石。


「ほぉ? でも調査とは言いながら、そんな私用を持ち込んでいいのかね?」


 セレナにしては気が利いている。しかしセレナのその行為を店主は評価するどころか、皮肉を口にする。


「調査とは特に関係なかったっぽいし、係の人にも来たから問題ないよ。どう? 価値があるかな?」

「価値ってお前……。いや、ちょっと待て。そう言えば……」


 店主は『ホットライン』と『クロムハード』から受け取った石の事を思い出した。

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