嵐の後で 1
朝一番、とは言い難い時間帯にやってきた『ホットライン』。
彼らから見た店主と双子の様子が、いつもよりとげとげしく感じている。
「お前らが来るのが遅すぎてイライラしてたんだよ」
「来るのが早すぎてもイライラしてたじゃねぇか。あ、昨日はミールちゃんのことすいませんでした」
昨日のことを思い出し、急に謝りだすブレイド。
そんなことよりも道具の話を進めたがる店主。
「どんな気分であれ、引き受けた依頼はなるべく早く終わらせたいんでな。お前がこないだ連れて来た、俺に難癖つけた奴いたろ?」
「スウォードでしょ? 名前忘れづらいとか言ってませんでしたっけ?」
細かいことは気にすんな。
そう言って話を続ける。
「お前らと相性が合う元素の力を組み込んだ。模擬戦見たからそれは問題ない。だがな……」
何か問題があるようだ。
だが問題があると感じているのは店主ばかりではない。
模擬戦の途中からほとんど目を離していた店主の態度は全員が気にかかっている。
「あぁ、その件だが、その後で話したよな? 自分の力を誤解してる部分があるようだと。その誤解を解きほぐす効果を持つ力も持たせた。だから使いこなせないうちは間違いなくお前らの足を引っ張る。だが使いこなせるようになったら、おそらく効率の良い戦い方とか達成率が飛躍的に上がるとか、そんな効果が現れる。これは間違いないと断言できる」
真剣な顔で話を続ける店主。スウォードの件を思い出した全員は、その言葉には信頼に値することを確信した。
「で、具体的には? 説明なしで使っても、その効果はわからないままだぞ」
「四本腕の二人とでかい人間だが、お前らが思っている以上に移動の素早さは高いと思う」
「だから名前、憶えてくれよ……」
でかい人間と言われたエンビーがこぼす。
「蝙蝠は、意外と筋力があるんじゃないかと。飛行スピードで物を言わせてたが、そればかりじゃいつか詰んじまう。それと虎男」
「蝙蝠て……」
「と、虎……外れちゃいないんですが……」
二人からの嘆きも構わず店主は続ける。
「跳躍力は、もっと開放できると思う。それを補助する効果もつけた。そして一番説得に難儀しそうなのが羽根女」
「わ、私? って、ヒューラーって名前覚えやすくない?」
ヒューラーの戸惑いも構わず、店主は説明を続ける。
「最後の最後まで迷ってた。背中の羽、お前自分でモドキって思ってるだろ」
「モドキ……飾りっていうか、ファッション?」
ヒューラーの言葉を否定する店主。
「飛行能力の主力はそれだぞ。今までは腕の羽を使ってただろ。それは魔力必須じゃねぇと飛べねぇ」
「ウソっ!」
ヒューラーは反射的に声が出る。
全員も目を丸くしている。
「そのウソホントってやつだ。信じるかどうかはあなた次第。だが間違いなくそういう力はある。ま、その能力を見極めた上で完成させた道具だし、信じずに使わないのもあなた方の自由。信じて使う際には報酬は貰いたいとは思うがね」
「もちろん使わせてもらうさ! 当然報酬も用意する! だがその前に試運転を……」
呆然としているヒューラーの隣にいるブレイドが即答。
「存分に使ってみるといいさ。感想を聞かせてもらえるとうれしいかな。アドバイスとかできるかもしれんしな」
ブレイドの申し出に、どうぞお好きにと言わんばかりに店の出口へ手のひらを伸ばして快諾する店主。
それを見て『ホットライン』のメンバーは急いで『法具店アマミ』から飛び出した。
「は、早い……」
「よっぽどうれしかったんだねぇ……」
一言も発しなかった双子がぼそりと呟く。
「さてっと。もう一つ依頼があったよな。あいつらより簡単に出来そうだ。徹夜でやりゃ明日の朝一で呼んできてもらうかな」
「え、徹夜? 『ホットライン』の人達の分はかなりかかったよね? すぐに出来るの?」
思いもしない言葉が店主の口から出てきたのを聞いてミールは驚く。
スウォードの装飾品を完成させるまで、約七時間かかった。
これは彼の持ち物と寸分違わぬ物という条件が付いたため。
『ホットライン』のように実戦を見ることをせずに作る装備品の効果が、スウォードの道具のように元素の力ではなく別の物とするという条件だけならほとんど問題はない。
今回の作業では一番時間がかかると思われる工程は、体格の寸法を採ることと彼らの能力測定。しかしそれは既に完了している。
「素材がきちんと揃えられりゃ、くっつける作業はセレナに任せりゃすぐできる。んじゃカウンター任せるぜ。倉庫行ってくら」
店主はそう言うと、材料集めのため隣の倉庫に入っていった。
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