休店開業 で散々な思いをした者は皆、これっきりにしたいと思った
「テンシュ、帰ったあ?!」
彼らのいない間の事をセレナが話すと、『ホットライン』とスウォードが驚く。
作り上げた防具の効果を確認するまでもなく気にも留めていない店長の様子を伝えると、七人は呆れるやら感心するやらで言葉が出ない。
「依頼は最後って話の撤回をお願いしたかったな……。だがそれとは別に詫びだけは入れなきゃと思ったんだが……」
「でも自分の作った物の出来栄えを確かめずに帰ったってのは相当腕に自信があるからなのか……」
「作った物は間違いなくそのように動いてくれるって確信があるからだろ。寸法や外観を同じくするっていう条件で今までよりも高性能な道具を作った腕は確かにすごいが……」
「ていうか、どうしてそんな条件受けちゃったのさ、リーダー」
口々に好き放題言われ、リーダーと呼ばれたスウォードはしょげている。
「いや、そりゃ……成り行きっつーか……って言うか、あの人の人格っつーか性格っつーか、天邪鬼なんてもんじゃねぇだろ! もっと詳しくブレイクが教えてくれたらこんなことにはならなかったんだよっ!」
「お前の早合点のせいだろ!」
間もなく閉店時間になる『法具店アマミ』に入ってきた面々は、店長が作った防具の解説をした後に鍛錬所へ向かった者達にさらに数名加わっている。
革で出来た鎧を身に着けている、全身が亀の甲羅のような皮膚で覆われている獣人族の男。
ブレイド達と遜色ない体格と装備をしているが、樹木が人間の姿をしているような男。
セレナとそんなに変わりのない体格だが関節がなく、タコかイカのような軟体で、体の表面には粘膜で覆われている女。
ヒューラーに似た装備をしている、ダチョウがスリムになったような姿だが翼の先には手のひらがある、鳥の獣人族の女。
エルフ族だが、背中の羽根がトンボのように透けた四枚の羽を持つ女
新たに加わっているのはこの五名。
「で、次はいつ来るの? あたしも作ってほしいなー。ねぇねぇ、その人ってどんな人が好みかなぁ? あたしの依頼でサービスしてくれるとうれしいんだけどなぁ」
鳥の獣人族の女は相当感銘を受けたらしい。まだ見ぬ相手に自分の理想を押し付けている。
「明日の朝七時過ぎって言ってたけど……」
「やめとけよ、ニードル。昨日の今日だろ。自分らの事ばかりじゃく、セレナさんの事も考えてやれよ。ここで一旦解散だな。こんな日に、なんか押しかけてしまってすいません、セレナさん」
ニードルと呼んだ女に、セレナの答えを聞かせないように両手で制しながら甲羅の男がセレナに恐縮する。
「あ、ご、ごめん、セレナ。あの防具の効果見たらつい……」
ニードルと呼ばれた女が謝罪する。
彼らはセレナの事情を『ホットライン』のメンバーから大体のことを聞いていた。
心情は理解したものの、それ以上に鍛錬所でのことが強烈に彼らの印象に残ったらしい。セレナはその防具の効果は見ていないが相当のものだとは判断できた。
報告を受けずとも想像はつく。店長ほどではないにしても。
「気にしなくていいよ。ニードル。でもそんなに楽しみなら明日おいでよ、ね?」
セレナはニードルに向かって笑みを浮かべるが、どことなく力がない。
それが逆に全員に気を遣わせる。
来たばかりではあったが、全員思い止まることなくそそくさと帰り支度を済ませ一階に下りる。
別れの言葉もそこそこに店から出るが、最後に残ったキューリアはセレナに尋ねた。
「……テンシュにキチンと言えた?」
俯いて首を横に振るセレナ。
「はぁ……ダメじゃない。きちんと言わなきゃ……。で、今日は一人で大丈夫?」
やはり何も言わない。
しかしうなだれ気味から縦に振る首に力は入っている。
「明日、七時過ぎに来るって言ってたんだよね? そのあたりに私も来るから。もっとシャンとしなさい! ……じゃ、おやすみ」
キューリアが励ますようにセレナの肩を二度叩いて別れを告げる。
誰にとっても『法具店アマミ』で過ごす長い一日がこうして終わった。
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