休店開業 6
「な? 俺が武器を作る前に言ったことと変わらねぇだろ?」
素のままの方が効率がいい。
愛着のある道具にケチをつけたようなことを言われたと思い込んで店主に突っかかり、険悪な雰囲気にした店主の一言の一つ。
店主は始めからそう言っていた。
持ち主を助ける力を持つはずの道具が何もしてくれないのなら、道具が持つ力をアテにするつもりでいる持ち主は、その分道具に足を引っ張られているのである。
「それともう一つあるんだが、物は力を持っている。その力を表に出さないとその効果は表れない。しかし持ち主が希望する効果とそれは一致するとは限らないかもしれないってことだ」
「ややこしい言い方されると分かんないんだけど」
「例えばこの店が火事になったとする。消火活動が必要になる。水を出す道具を手にした」
質問したヒューリアに店主が分かりやすい例えを持ち出したつもりだった。しかしものの例えはひどすぎた。全員顔をしかめている。
「ヤな例えだな。それで?」
「ところが水は出るんだが、コップに注がれる飲み水の量を出すのが精いっぱいだったらどうだ、ブレイド? 火事を食い止めるには火や火元に向けて水を届かせないとだめだろ?」
「そりゃそうだ。火事なら消火するくらいの水量と勢いがなきゃ水を出す意味がない」
「何度も言うが、俺の世界にはこの世界のような魔法や魔術はない。だから推測の域を出ないんだが、物が持っている力があれば、その力を引き出し、その力に目標を持たせ、効果を表し、目的を達成させるのが魔法の役目じゃないか? 魔法に限らず、目的を持って作られた道具もそうだと思うんだが」
店主の推測は、一つの理論としては及第点以上という判定をリメリアからもらう。
「じゃあ例えばその道具に意志を持たせ、その意志により道具自ら進んで力を出し、効果を表す性質を持たせたらどうだ? 魔法の役割は減るんじゃねぇか? その分持ち主の魔力を消費せずに済むんじゃないかと思うんだが」
「じゃあ俺の今まで持ってた防具は……」
「力をフルに発揮するなら、お前さんが満足するほどの効果は出る。だが作った人は、素材の性質までは読み切ってなかったようだ。ただ力を詰め込んだだけ。どれかの力を出そうとしても、それを阻止したり妨害したりする性質が同時に働くこともある。それと複数の力を同時に出せず、個別でしか発動されない。力を混ぜたり組み合わせたりしたこともあったろうが、防具の力のどれか一つと使用者の力の組み合わせのみだったんじゃねぇか? 防具がもつ複数の力が混ざることはなかったはずだ」
スウォードは店主の言葉に、言われてみればと呟きながらこれまでの事を思い出す。思い当たる節があったのか、時々小さく頷く動きをする。
「そういう判断が出来る人物が作ったのなら、何の意味があって作ったのかさっぱりわからん。力は分かるが個性、性質までは分からなかった人物が作ったのなら、こういう物が出来上がった理由は納得できる」
「するとこれに似せてテンシュが作ったこの防具、力の放出を妨げる個性や性質を取り除いたのがテンシュの作った物?」
「はい、その答えを出したキューリアには、ハリセンで思いっきり頭をひっぱたく刑に処します」
「……ハリセンって……何?!」
聞いたことがない名前だったらしく、どんな技なのか、どんな武器なのかとキューリアが不安なそうな顔をする。
しかしセレナと同じくらい店主の扱いに慣れて来たのか、キューリアは店主の説明を求める。
「しょーもないことはいいから。真面目なテンシュ素敵だからもっと続けて」
キューリアからのそんな煽てに乗ったわけではないだろうが、店主はそれに応える。
「俺の作ったそれの材料は、力は当然鑑別したがその性質も鑑定しながら作り上げた。なるべく外見をそれに似せて作ったが、効果は全然違うはずだ。で、その防具に散りばめられた宝石は七種。中心となる力はすべて別の物にしている」
「五大元素がらみだろう? 木火土金水。それとも四大元素か? 地水火風。それに空と陰陽を加えれば七種だ」
「はいエンビー間違い。廊下に立ってなさい」
「廊下ってどこだよ……」
店主の話は次第に普段の店主の言動が混ざって来る。
店主のそのテンションだけは何とかしたいと考え込むエンビー。しかしそのエンビーをほったらかして話を進める店主。
「確かに五大元素や四大元素を力として宿している物はある。けど、木の力ってなんだよ。土の力ってなんだよ。俺はそこまで詳しくないからちょっと理解不能なところはある。武器に土の力をつけるってばどういうことなのか」
「土の力がついた武器は、壊れづらくなるのが利点。木ってば成長の象徴だから変化したりすることもあるか」
エンビーからの解説には頷くが、用途の目的が変わると効果も変わる。
その経験者が未経験者に分かってもらいやすくする説明はなかなか難しい。
戦場などの、道具を使う現場を見たことがない店主への説明はなかなか伝わらない。
「その効果は、武器を使用する相手へのダメージとは違うよな。俺はそこんとこ分かんねぇから、別の視点からの効果の要素を取り入れてみた」
「元素とは無関係なのか? それはちょっと興味あるな」
ブレイドが身を乗り出して店主の説明を聞き入る。
「まず防具にどんな効果を持たせるかってことから考えた。火炎とか氷結とか電撃なんて話は、俺んとこのコアな客との雑談の中で出て来るんだが、結局防具の価値ってのは、身に付ける者の負担がなるべくないようにするのがいいんだろ? で、お手伝いしてもらおうかな。発言が少なかったっぽいリメリアにお願いしよう。ちょっと立って」
立たせたリメリアの体を全力で押す。鍛えられているとはいえ、彼女は少しバランスをくずした。
「俺の手が例えば風だとする。こんな具合に風圧が来る。では次、今度は水圧だとしよう」
同じことを繰り返す。また同じかと身構えたリメリアは、店主から体当たりを食らい、一歩後ずさる。
「ちょっと、何の意味があるのよ」
「うん、セクハラだなんだと訴えられずに女性の体に接触する方法の一つとして確認したかった」
「……テンシュ、殴っていいかしら?」
リメリアはすべての手を全力で握りこんで、一度に四発叩き込もうとするしぐさを見せる。
もちろんまともにくらったら間違いなく店主は死亡。しかし店主は構わず説明が続ける。
「こんな風によろめいて動いた。動いたことで被害は最小限に抑えられた。とは言え、体に圧がかかった以上何らかのダメージはある。回復するための時間は必要としないまでもな。風だろうが水だろうが火だろうが、受けるダメージを何とかする必要があるなら、それを補助する力をこの防具に込めたらどうかと思ってな」
店主の回りくどい説明が続き、結局何が言いたいのか分からない。
その説明の先を求めた。
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