幕間 二:店主が仕事以外の話をしてくるんだけど……モフモフって何? って聞かれて困ったってさ
▽ ▽ ▽ ▽
「セレナー、いるーっ?」
『法具店アマミ』にリメリアとキューリアの二人が来店したのは今日の、いつもの閉店時間になる前。
だがセレナは昨日と今日を店の休業日とした。
昨日店主の世界に転移する前は店を開く気力はまったくなかったし、帰って来てからは店主の予想通り、モフモフしていたため、開ける気がなかったらしい。
それでも半日で気持ちが回復できるわけではない。自分の身長より長いぬいぐるみと一緒にベッドでゴロゴロしていたとのこと。
よくベッドにこんな大きいぬいぐるみと一緒に寝られるものだと店主は感心するやら呆れるやら。しかしそのぬいぐるみがなぜ目も当てられない姿になっているのか。
駆け足で店内に入って来て声をかけたのは『ホットライン』のキューリア。その後ろから、「駆け込むと危ないよ」とキューリアを諭すリメイクことリメリア。
「ショーケースが入り口のそばにあるんだから、ぶつかったら割れちゃうでしょっ。テンシュ……さんはいないみたいね。誰もいないの? せっかく朗報持ってきたのに。」
「こんな時には上にいるのよね。」
駆け足で上がるキューリア。それに遅れるリメリア。
二階に上がってキューリアの目に入ったのは、ベッドで窮屈そうに得体のしれない者と一緒に横たわっているセレナの姿。
セレナは、店主に買ってもらったお気に入りのぬいぐるみをモフモフして和んでいた。
本能的にキューリアは、得体のしれない物体のみに被害を与える攻撃魔法をぶちかます。
階段を上りかけていたリメリアは、何事かと駆け足で二階に上がる。
心配する目でセレナを見るキューリア。
一瞬にしてモフモフが消えて呆然とするセレナ。
ベッドの布団と床に散らばっている何やらわからない物の中でそんな二人を見て、目をぱちくりするしかできないリメリア。
三人で現状を整理して気持ちが落ち着かせる。改めてテンシュにどう言おうか悩んで相談しているところに店主が登場したという流れ。
△ △ △ △
「「「ほ、本当にごめんなさいっ!」」」
キューリアは、ぬいぐるみに一発かました張本人ということばかりでなく、店主との初対面の時のことがまだ気にかかっているようで、一番深く頭を下げている。
店主はそんな三人を見て、ついたため息は自然と深くなる。
「まず頭あげろや。話聞け」
恐る恐る頭を上げる三人。
三人の仲違いの巻き沿いを食らったわけではない。それだったら三人に弁償させるか、セレナが必要ないと言えば三人とこの現場は放置しても構わない。
だが、まずこの世界で見慣れない物であったこと。セレナにぬいぐるみのの話だけをして説明しなかったこと。二階に上がって来る者の存在を忘れていたことと、見慣れない物にいきなり敵意をむき出しにする者がいるとは思わなかったこと。
以上の店主が見落としていた点。
そして、ぬいぐるみをこんな無残な姿をした理由が、セレナが見たこともない者に襲われていると第三者に判断されたことと、そのセレナを守ろうとした行為の結果であること。
この二点について考えなければならない。
キューリアの慌てようを責めることもできなくはない。だが彼女らの生業は、ほとんど命の危険に晒される危険な現場が仕事場。それを考えれば、キューリアの判断は間違いとは言えなくはない。
彼女にとっても大切な存在を守ろうとしただけの事。そして見たこともない物と彼女らは無関係だし、得体のしれない物と友人の命の両者の安全を天秤にかければ、その答えは誰でも同じである。
そして、大切な存在を数多く失ったばかりの者達がこうして自分に頭を下げている。
そこまで考えてしまった。
そこまで考えてしまったらば、何か話そうにも胸が詰まって言葉が出ない。
「気にするな。魔法で戻せないのか?」
ただ単にそう言おうとした。
そしたらきっと「はい、大丈夫です」「戻せます」とか「難しいです」「ホントにすいません」という彼女たちからの返事でこの話は終わるはずだった。
本当にこの世界と縁を切りたい店主が、そんな店主なのに何とか口を突いて出た言葉。
口に出して、俺は今何を言った? 何でそんなことを言った? そんなことを言う義理はないだろう。
そんなふうに言った直後に、自分の神経を疑うように後悔した。
「……助けられて、よかったな」
と。
三人は店主の意図を察した。
三人は互いに見合わす。直後店主の存在をすっかり忘れ、三人は抱き合いながら泣き崩れた。
軽い自己嫌悪を感じながら、店主はメモに『元に戻したきゃ魔法か何かで勝手に直せ』とメッセージを残し、そんな三人に聞こえない声で「俺んとこに来るより、朗報とやらを持ってきてくれる奴の方に縋れよな」と呟き『法具店アマミ』を後にした。
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