常連客二組目との出会いもトラブルでした 6

「ダメって……引き受けないの? 材料なら倉庫にある物使い放題にするけど」


 腕組みをしたまま宙を見詰めた後、眉間にしわを寄せて考え込む店主。セレナは彼の話を聞き直す。


「引き受けるも何も、こいつらが活動中にどんな力を使ってどう動くかってのがほとんど分からねぇから何ともならん。あのひよっ子どもは初心者っぽかったから頼れる道具を作ってやりゃそれで良かったろうが、こいつらは見てみねぇことにはさっぱり分からん。大凡の想像はつくが、俺の思い違いとかがあったらまずいだろ」


 冒険者達が活用できる道具作りのために、使用者の動きを見るためには実践に立ち会うのが一番分かりやすい。


 だがそのためには店外に出る必要があるし、店主の世界でも時間が経過してしまう。店主が行方不明扱いされ警察沙汰になってしまう可能性もあり、そうなるとこの世界の存在が露わになる。

 この世界のことを何も知らない店主が、何かしらの責任を問われる可能性が生じる。

「鍛錬所で見てもらうのが一番手っ取り早いんだろうけど……時間の経過が気になるし……」

 まさかこの店に鍛錬所のような場所を作るわけにもいかない。

 他に方法はないかとセレナは思案する。


「問題ないんじゃないか? こっちに来るときは午後の十時。二時間くらい経過しても問題ないだろ。まぁ向こうの明け方までかかったってこっちで睡眠とってから行けば向こうでも普段の日常を過ごせる。時間経過のからくりさえ分かりゃ仕事に集中できるってもんだ」


 ところが事態が拗れると大事になることは間違いないにもかかわらず、そんな道具作りを後押しする意見は当の店主から出た。

 セレナは仰天するが、おそらくセレナから説明を聞いてその重大さを理解していたのだろうこの六人も驚いている。


「こないだの杖の実験で、鍛錬所までの往復で確か二時間経過してたよな。実験の準備にも時間が割とかかったが今回は……準備運動が必要か? まぁいいや。外に七時間もいるわけじゃないだろうしな」

 この八人の中で店主が鍛錬所に一番行きたがっているようにも見える。


 だが実際のところ、店主の世界で時間経過による不都合が起きなけば、存分に腕を振るえる仕事に専念できる店主には何の抵抗もない。

 セレナは少々不安な思いは持つものの、店主の乗り気が消えないうちに彼らの依頼を達成する分には異議はない。

 店主には自分達からの謝罪をしっかりと受け取ってもらっていないと感じている六人。

 それどころか、その六人の希望に応えようとしてくれている。

 セレナ以上に不安げだが、余分に時間をかけなければ問題ないとセレナから鍛錬所行きを急かされたことと店主に報酬をはずむというアドバイスを受け、店主に実戦を見てもらうことを決めた。


 店主は本当にこの世界の事には関心がなく、『ホットライン』の彼らについても何も知ろうとしなかった。しかし名前だけは聞いてもらわないと困ることもあるだろうということから、彼らは出発前に簡単な自己紹介をした。


 『ホットライン』のリーダーは腕が四本ある男、ブレイド=ドレイク。ブレイクというニックネームで呼ばれている。


 副リーダーは同じ種族の女、リメリア=ドレイク。ニックネームはリメイク。兄妹かと思いきや、リーダーの従姉とのこと。二人は体中を覆う、見た目重くて硬そうな金属の防具を身につけている。


 店主と同じ人種ではあるが人族ではなく、超人族と呼ばれる種族の男、エンビー=ライジー。

 普通の人間よりも体格は大きく能力も高い。平均寿命は人間の二倍以上は長いとのこと。彼の装備はブレイドとリメリアの二人とは違い、体の要所だけを覆う防具を身につけている。


 ネコ科の大型肉食獣のような顔と姿の男、ライヤー=ステイドは体力ばかりではなく魔力も高く魔法も扱える獣妖種。エンビー同様体の露出部分が多い防具で材質も金属ではなく動物の皮を連想させる物。おまけに尻尾もむき出しになっている。


 ヒューラー=クウガという女性は獣妖種。獣の要素は鳥。体の全面はほぼ完璧に覆うが、背中からは申し訳程度に羽がついていて、その部分と腕の下の羽も露出している。背中の羽は飾りだが、張り子の虎も張り子と分からなければ虎も同然とは本人の談。


 そして店主達に詰め寄りその非礼を詫びた女、キューリア=マーバル。

 彼女は獣妖種ではなくエルフで蝙蝠の系統の亜種。獣妖種とエルフ亜種との違いは耳の形のみ。そこに何かの力が込められているとかということではなく、身体的特徴が一番目立ち、感情表現もできることから。


 冒険者たちが仕事を受ける斡旋所の職員は休憩時間や休日はある。しかし斡旋所やその中の施設の利用は年中無休でいつでも受け付けている。

 店外では店主は周囲との会話は通じない。

 そのこともセレナからの説明で『ホットライン』の全員も知っている。手続きなどは殊の外スムーズに進む。


 鍛錬所に着き、この六人が三人ずつに分かれて模擬戦に取り掛かる。

 実戦では六人一緒に行動をとる。模擬戦では実戦の半分しか連携はとれないことになるので、三人の組み合わせを変えて行わなければ全容が見えてこない。そこまで徹底的に解明するには時間もないし、判定する店主の集中力も薄まることもある。

 模擬戦一戦につき十五分ほどの時間を三通りの組み合わせで行うことにした。


 冒険者達は、完全な休日以外は常にいつでも戦場に出向くことが出来る格好をしている。

 住民たちの住む地域は住民たちが決めたこと。魔物達には住民達の都合などお構いなし。

 魔物討伐の場は戦場になる。普段からの彼らの装備は、住民達が安心して住める地域づくりの一環である。

 彼らもそれに遵った姿。模擬戦の準備にも全く手間取らない。

 ただ頭部の装備は外している。町中の日常に差し障りが多くあるため。

 全員が装備を検め、いよいよ模擬戦が始まった。

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