『法具店アマミ』初めての常連客と、トラブル体験 1

「テンシュさーん。ちょっといいですかー?」

 セレナが店主に声をかけながら入って来た。


「んぁ? また俺に縋って……。自分で何とかしようとか思わねえ……また客か? 俺は知らねぇぞ。お前の客だろ?」


 セレナの方を睨むと、彼女の後ろから店に入ってきた者が五人。店長と似たような体つきで、体の要所を守る鉄製の防具を身につけている若者がおずおずと前に出る。


「あ、えっと、初めまして。俺は人種のワイアットと言います。『風刃隊』っていうチームのリーダーをしてます」


「買い物客か? 見ての通り新装開店の準備の真っ最中だ。それが終わったらまた来な」


「じゃあ私達もお手伝いしていいでしょうか? 他の店ではなかなか相手をしてもらえなくて困ってるんです」


 丁寧な言葉遣いをする男は、セレナの身長の半分くらいの背丈。最初に名乗った男よりは重装備。下に着ている衣服のほとんどが鎧の下に隠れている。


「「お願いします! どうか話を聞いてください!」」


 二人同時に頭を下げたのは、どう見てもトカゲ。トカゲが人間の体をしているのが、ローブ越しでも分かる。

 声質からすれば若い女性のようだ。


「……セレナ。これの倉庫の移動、どんくらいかかる?」


「移動だけなら時間は取らないけど、倉庫に置きっぱなしにするわけにはいかないのよね。倉庫だからきちんと整理しないとダメなんだけど三時間くらいかかるなぁ」


「こいつらに手伝わせたらすぐ済むか?」


「手伝ったら話聞いてもらえるんすか?!」


 店主と同じ人種族の男よりもさらに軽い装備の長身の男はセレナとほぼ同じ。その男の言葉遣いに店長は礼儀を感じられないが、彼にとって別に気にするほどのことではない。


「話を聞くだけならな」

 その言葉と同時にセレナから指示を仰ぐ五人。門前払いばかりされてきたようで、喜んで仕事に取り掛かる。


 急に店の再開に向けて賑やかになったセレナ達を横目に、店主は静かに考える。


「防具はカウンターに近いところにして、武器の類はショーケースに近い方。でも頭部の防具はケースの中に入りそうなのもあるな。飾りめいたものはケースの上に上げてもいいか……」


 壁にはフックがいくつか備え付けられている。セレナが長い物を立てかけやすくするための工夫の跡のようだ。

 目についた順に壁のフックに立てかけたり引っ掛けたりして飾ってみるが、店長がそれらを判別しながら眺めても、どうもしっくりこない。見た目の派手さと力の有無が一致しない。

 店主は飾る順番に悩む。


「テンシュさん。倉庫の整理も終わりました。そっちはどうですか?」

 セレナが手伝ってくれた五人と一緒に、いつの間にか店主の傍にいた。


「ん? おぅ……まぁ話だけは聞くか。手短に用件だけ話せ。長くなると疲れるぞ。立ち話で済ますつもりだからな」


(((((立ち話で済ますんだ……)))))


 五人は気落ちしたが、話を聞いてもらうことすらなかった今までの事を考えると、ほんの少しだけは希望を持てた。


「えっと、俺達は……」

「お前らが何を希望してここに来たのか。それだけでいい。俺は物を作るしかしねぇからな」


 店長は五人の自己紹介すら許さない。

 不愛想すぎる店長にセレナは一言入れようとするが、人種族の男の話の方が早かった。


「力が増幅したり成長が早かったり、足りない力を補ってくれる武器や防具、道具を俺を含めてみんなに作ってほしいです」


「五人なら一人一品ずつにする。金とかその代わりになるような物はそんなに持ってないだろ? まぁ初めての客だから、一品ずつと言う条件なら出せる分でいい。宝石とかならかえって都合がいいがな」


 トカゲの二人が声を上げる。

「「私は」」


「回復」

「攻撃」


「「と補助の魔法の道具がほしいです」」


「どっちがどっちか分からねぇよ。まぁ作ってほしいっつーのは分かった。ほかは?」


「私は武器を。丈夫で攻撃力が高い物でなるべく軽く」

 背の低い男が答える。


「俺は防具だな。これじゃ心許ない。なるべくこいつみたいに露出が少ない物を……」

 背の高い男は背の低い男の装備を差しながら答える。


 最後に人種族の男が答える。

「両手持ちの剣を希望する。その攻撃が弾かれないような物がいい」


「お前ら、ここにある物でこんな物が欲しいって思える奴はあるか? なきゃ無理して言わなくていい」


 トカゲの二人は、太めの杖を手にする。片方は肩から床まで着く長い杖。もう一人は腕の長さほどの杖。

「私のは回復と補助の力がこれにあれば」

「あたしのは攻撃と補助がいい」


 背の低い男は、二本一組の斧を手にする。

「これで丈夫さを優先してもらえれば」


「一人一品つったけど、一組っつんなら目ぇつぶるか」


 背の高い男は困った顔をしている。気に入った物がないのか何も選ばない。

「一つだけなんだろ? 胴だけじゃなく腕や足も防御できる防具なんて一つじゃ間に合わねぇよな? 背が高ぇから一つだけで全身覆える物ってねぇよなぁ……」


「そういうことなら問題ねぇよ。まぁ今よりはマシな防具作ってやる。セレナ、こいつの体型とか調べといてくれ」

 店主は何かアイデアが浮かんだらしい。


「俺はこの幅の広い剣に、鍔が柄の周りを囲うような感じの物が欲しい」


「日本刀の鍔みてぇなもんか? まぁいい。問題は杖だ」


「私たちの選んだ道具に問題があるの?」


「どっちがどっちか分かんねえだけだよ。間違って作っちまったらまずいだろ」


「長い方が回復で、短い方が攻撃の魔法。それにどちらも補助の魔法が強くできるような機能を付けてほしいな」


「何日かかるか分からん。だがなるべく早めに作る。デザインはこっちに任せてもらおう。でないと間違いなく長引くぜ?」


 全員は店主にすべてを任せ、店主は『法具店アマミ』の初めての買い物客五人の注文を聞き入れた。

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