優しい雨に透かされて

桜井 かおる

第1話

いい天気だ。


朝起きた瞬間、窓のカーテンも開けずにそう思った。

重苦しい雲、今にも泣き出しそうな空。


うん、最高の天気だ。




僕はベッドから飛び起きて、急いで支度を始めた。

雨が降ってしまうと意味が無いんだ。

早くしなくちゃ。


「あら、今日は学校だったかしら」


「いや、休みだよ。でも写真を撮りたいんだ」


朝ごはんを用意してくれた母親の顔も見ずに、返事をした。




今日は土曜日。学校は休み。

普段なら昼まで寝るところだが、僕が飛び起きたのは午前7時。


珍しい、と母親は目を丸くした。

無理もない、僕もそう思うのだから。



僕の趣味は写真を撮ることだ。

高校の入学祝いとして去年買ってもらった一眼レフで、写真を撮っている。


写真に興味を持ったのは、中学三年生の頃だ。

父親のカメラで写真を撮ったことが始まりだった。


春は桜。夏は海。

秋は山。冬は雪。


四季折々の写真はやっぱり楽しくて、僕はすぐにのめりこんだ。

入学祝いに何がいいか聞かれた時は、迷わず「カメラが欲しい」と答えるほどに。



四季だけでは飽き足らず、いろんな場所に行って写真を撮った。


電車に1時間揺られて田舎に行ってみたり。

山の上に登ってそこからの景色を撮ったり。


カメラがあれば、引きこもりがちだった生活まで改善できた。



そんな僕は、最近曇の日が好きだ。

雨が降り出しそうな、そんな空が。


どうしてかって…それは、あの子に会えるから。

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