『風』--ナレ有り--(3人用/1:1:1)

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■役紹介

海斗(かいと):男性

飄々として掴みどころの無い性格だが、怒ると手がつけられない。

女性には絶対手を上げない。

身長188cmのがっしりした骨格。見るからにでかい。

殴り合いの喧嘩だと負けたことが無い。

曲がった事が大嫌いな昔かたぎ。


風子(ふうこ):女性

海斗よりも先に手が出るタイプ

海斗が怒るよりも先に怒って殴りかかるので、海斗は

止める側に回って怒る暇がないほど。

空手の有段者


ナレ:不問

優しく、リスナーが風を感じるように意識してください。

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◆配役表

♂海斗:

♀風子:

♂♀ナレ:

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◆注意事項

※性別変更不可

※過度なアドリブもご遠慮ください。

 語尾の変更、お前→おめぇ などは可

 やくざ言葉が得意な方は、がんがん迫力出してくださいませ。

※ナレーション以外は関西弁や広島弁などでやっていただいてもOKです。

※著作権は放棄しておりませんが、ご利用はご自由にどうぞ。

※ニコ生などで上演される時は台本のタイトル、URL、作者名を書いて

 いただけると尻尾を振って聞きに行きますw

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、

 実在のものとは関係ありません。

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■出会い


ナレ:冬の凍てついた風が、道行く人々の肩を強張らせ、容赦なく吹き付けていた。

   夜のコンビニ前に一台のバイクが直管(ちょっかん)の音を響かせて

   入ってくる。


   まだ客足が減る前の時間帯なので、店内にはチラホラと客が入っていた。

   そこへ、一般人なら明らかに目を合わせたくないタイプの

   ライダースーツを着た海斗が入ってきた。


海斗:ひー! さみーさみー!(周りの迷惑を考えず大きな声で)

   ……ん? 何見てんだ?


風子:やかましいから見ただけじゃねーか!


海斗:なっ! ……おいおいねーちゃん怖ええな~。何怒ってんだよ。


ナレ:海斗は屈託のない笑顔で風子に近づき、頭をポンポンと軽く叩こうとする。


風子:……ふんっ! (いきなり殴りかかる)


ナレ:風子は伸びてくる手を避けながら、海斗の顔に向かって

   掌底(しょうてい)を放った。

   しかし、海斗は笑顔のまま掌底(しょうてい)を受け、微動だにしない。


海斗:ん? ……俺と殴りっこしてーの?面白いねーちゃんだな~。

   よしっ! ちっとこっち来いよ!


風子:お、おい、何しやがんだてめー!


ナレ:海斗は風子の肩を抱くようにして外へ引っ張り出した。

   海斗の力は圧倒的で、風子は抵抗できずにそのままコンビニの外へ

   引きずられていく。


風子:こらっ! 離せよ!


海斗:よーっし。ここらへんでいいか。


ナレ:海斗は自分のバイク近くまで風子を連れてくると、子供のような

   笑顔をたたえて向き合う。


海斗:あ、これ俺の相棒、どうだ? いけてっだろ?


風子:知るかよ! ぶち壊してやろうか! あ?


海斗:なあ、どうしたんだお前? ストレス溜めてんのか?

   ……俺が聞いてやろうか?


風子:るっせー! せいっ!(殴りかかる)


海斗:おっと!(腕をつかみ抑え込む)


風子:……くっ!離せ!


海斗:はいはいおとなしくしようねえ。俺は女を殴る趣味はねーからよ。

   それとも中身は男ってーんなら、ちったあ対応変えてやるぜ?


風子:……。


海斗:どっちなんだ? 女か? それとも男か?

  (先ほどとは違って殺気を含んで凄む)


風子:……や、やかましい! くっ……離せや! ……このクソ野郎が!


海斗:お前さ、俺と一緒に来ねーか?


風子:は? 何言ってんだ?


海斗:風、感じさせてやんぜ


風子:……、てめー、頭、湧いてんのか……?


海斗:ほれメット(自分のヘルメットを女に投げる)


風子:……はぁ……なんなんだてめーわ……。


海斗:あ!しまった! コーヒー買うの忘れてたじゃねーか。

   お前も何か飲むか? 怒らせたお詫びにおごるぜ。


風子:……熱いコーヒー


風子:(M)これが海斗との出会い。まるで子供みたいな笑顔に負けて、

   あいつのバイクで海まで走った。

   バイクの風は容赦なく体温を奪って、痛みすら感じなくなるのに、

   あいつの背中の温もりが余計に優しく感じてしまう。

   風に包まれて、あたしたちは意気投合した。

   そして、そのままあいつの家に転がり込んで、一緒に暮らすように

   なったんだ……



■日常


ナレ:二人が同棲を始めて1年半。梅雨が明け外ではセミが鳴きはじめていた。

   穏やかな風が風鈴を鳴らしている。


風子:ふんふんふ~ん♪(適当に鼻歌もしくは、好きな歌を口ずさんでください)

   さてさて、あたしの愛情たっぷりカレーが出来たよ~♪


風子:……ん? あれ? あんた? ……くそっ!

   まーたパチンコ行きやがったな!


(SE:トイレのドアが開く音)


海斗:…………ふ~すっきりしたー。……ん?


風子:え? い、いたの?


海斗:お、おう? どした?


風子:な、なんでもねーよ! ……さっ! メシだメシ!


海斗:お、お、おう……。ほほーカレーか、うまそうじゃねーか……。

   だがしかし! 油断はできん! こないだのカレーは見た目普通なのに味が

   コーヒーだったからな……


風子:あん? あれは隠し味のインスタントコーヒーが、ちょっと多めに

   入っただけじゃねーか。


海斗:ちょっと? あれでちょっと? コーヒーの味しかしないカレーが?


風子:ん? 何か言ったか? よく聞こえなかったがもっぺん言ってみ? あ?


海斗:……さ、さて腹減ったな~。

   風子の愛がたーーーっぷり入った、とーーーーってもおいしい

   カレーが食べたいなー♪


風子:ぐだぐだ言ってねーでさっさと座れや!


海斗:うぃーーー。

   おお、来た来た~。(もぐもぐ)

   うお!こ、これは!……


風子:ど? おいしい?


海斗:ふむ……おかしい……めちゃくちゃ…………うまい!


風子:よし! いっぺん表出ろこら!


海斗:なんだよ、ほめてんじゃねーか。


風子:……もういい……喰うな……


海斗:おいおいすねるなよ。


風子:すねてねーよ! くっそ……


海斗:ふっ、おいで。


ナレ:海斗は風子を引き寄せ頭をポンポンと叩く。

   風子は満足したように笑顔で海斗の首に手を回し抱きついた。

   二人はいつまでもこの幸せが続くと思っていた。



■門出


ナレ:夏が過ぎ二人を包む風は、熱気を含む夏の風から豊かな秋風となっていた。


海斗:なあ風子。


風子:なに?


海斗:お前、みっちゃん先輩覚えてる? 前に一回紹介したろ?


風子:……ん~……あー! あのどこからどう見ても極道にしか見えない

   スキンヘッドの?

   (笑いをこらえながら)


海斗:そうそう。そのみっちゃん先輩にさ、こないだバイト帰りに

   たまたま会ったんだよ。

   見た目極道に磨きかかってるから「先輩、今何してんすか?」って

   聞いたんだよなぁ。

   そしたら、まじでヤクザになってやがんの。


   何だか目ぇキラキラさせて、道を極めるんだとかって言っててさ。

   ……俺も来ないか? って誘われちまったよ。


風子:あ?てめー極道になるつもりじゃねーだろうなー

   そうでなくともラーメン屋のバイト風情に、極道がつとまると思ってんのか?

   頭わいてるなら、てっぺんから熱湯かけてやんぞ!


海斗:それはかんべん。

   ……けどさ、俺思うんだよな~……

   バイトだけでいつまでもフラフラしてるわけにもいかねーしよ。

   びしっとヤクザの世界で生きて行くのも悪くねーんじゃねーかって。


風子:殺すぞてめー!

   どうしても極道になるっていうなら、あたしが先にぶち殺してやるよ!


海斗:わーった、わーった。落ちつけよ!

   だけどなあ……もう入っちまったもんはしょうがねーんだよなあ……(小声)


風子:え? あんだって!? てめー! あたしにだまって何勝手してやがんだよ!


ナレ:風子は、何か覚悟を決めたように、大きく一つため息をついた。


風子:……はぁ。……で? ……どこの組だよ?


海斗:鬼翔会[きしょうかい]の直参[じきさん]で、黒川さんとこの

   天保組[てんぽぐみ]だ。

   みっちゃん先輩もいるし、黒川さんにはよく可愛がってもらったからさ。

   俺もこの世界で名前うって、でかくなってやろうって腹くくったんだよ。

   まあ最初は電話番とか便所掃除からだけどな。


風子:本気なんだね?


海斗:当たり前じゃねーか!


風子:じゃあ約束しろよ、絶対中途半端な事だけはしねーって。


海斗:まあ見てろって、必ずお前を幸せにしてやっからよ。

   ……って! お、おい。(いきなり風子が抱きついてくる)


風子:くだらねーことで簡単に死ぬんじゃねーぞ!

   あたしを置いて行くような事しやがったら、もっぺんあたしが

   殺してやるからな。


海斗:ああ(力強く風子を抱きしめる)


ナレ:この時の二人には、まだ過酷な運命が待ち受けている事など

   想像すら出来なかった。



■下手打ち


ナレ:それから、あっという間に5年の歳月が流れた。

   海斗は、元々の腕っぷしの強さと男気で若い者頭[わかいものがしら]になり、

   舎弟を二人持つまでになっていた。

   もちろんその裏で風子の内助の功[ないじょのこう]が大きかったのは

   言うまでも無い。

   だが、すれ違いの日々の中、二人を包む風が吹く事は無かった。


海斗:くそっ! くそっ! くそっ!(タンスの中を引っ掻き回す)


風子:ちょっとあんた! どうしたの!?


海斗:うるせー! ちょっと黙ってろ!

   ……おい! 俺のサラシと道具どこやった?


風子:ちゃんとしまってあるわよ!

   その前にきちっと説明して!あたしに言えない事なの?


海斗:兄貴が……みっちゃん先輩が下手打って、飛びやがったんだ。

   止めようとしたカズヤが撃たれてる。

   とにかく俺は兄貴を捕まえて、何とか組事務所まで連れて行って

   納めなきゃならねえ。


風子:下手打ったって何したのよ?


海斗:俺にまでだまって、シャブさばいてやがった……

   シャブは組のご法度だ。

   黒川の親父から呼び出しくらってカズヤが迎えに行ったら、

   兄貴は反省してるどころか、逃げようと身支度してやがった。

   カズヤがなだめて止めようとしたら、兄貴自身もシャブ

   食ってたみたいでな……

   錯乱した兄貴は、カズヤをヒットマンだと思ったらしく、

   カズヤを撃って逃げたって事だ。


風子:嘘でしょ! あの、みっちゃん先輩が!?

   ……カズヤ君、容体は?


海斗:何とか命はとりとめた。そっちは心配ねー。

   だけど、このままじゃ確実に兄貴は殺される。

   俺が一緒に頭下げて、二人でエンコ(小指を切り落とす事)飛ばして

   差し出せば、何とかおさまるかもしれねー。

   とにかく一刻も早く兄貴を捕まえないと。


風子:わかったわ。

   ……だけどあんた、シャブ食ってる奴はまともじゃないんだ。

   禁断症状出てたら、あんただって撃たれるかもしれないから、

   気をつけるんだよ。


海斗:バカ野郎! いくらシャブ食ってても兄貴が俺を勘違いするかよ!


風子:だからあんたはお人好しだって言われるんだよ!

   シャブは……シャブだけはダメなんだよ!


海斗:いいじゃねーか、お人好しでよ。

   お人好しの極道なんてカッコよくねーか?

   ともかく兄貴を安心させるのに、チャカは持っていかねーから。


風子:やばいと思ったらすぐに引くんだよ?


ナレ:風子は、押入れから、きちんと畳んである真新しいサラシと

   匕首[あいくち]を取り出した。

   海斗の服を脱がせると、慣れた手つきでサラシを巻き始める。


風子:ひさしぶりだね、あんたにサラシを巻くなんて。


海斗:3年ぶりか……あん時はまだ駆け出しで、背負う物なんてなかったが……


風子:やっぱサラシ巻くと、ビッとするね。

   ……でもあたしは、初めて会った時のライダースーツが一番好きだけど。


海斗:あぁ、あのコンビニで会った時かぁ……

   今だから白状するが、あん時ゃド肝(どぎも)ぬかれたな。


風子:何が?


海斗:俺を見て言い返してくる女がいる事にだよ。

   普通はだいたい目をそらされるからな。

   だけどお前は殴りかかってきやがって、なんてー女だって思ったぞ。

   ……あの掌底一発で惚れちまった。


風子:何こっぱずかしい事言ってんの! もっと気合入れな!

   あたしはカズヤ君とこ行ってから、黒川の姐さん(ねえさん)に

   逢って来るから。


海斗:すまねー。頼むわ。

   ……風子……愛してるぞ。(サラシを巻いてくれている風子を抱きしめる)


風子:バッ、バカ野郎! ほら出来た!

   (巻き終わったサラシの上からポンと叩きながら)

   さっさと行け!(照れながら身体を離す)


海斗:おう!


■結末


ナレ:土砂降りの雨が横殴りの風にあおられ、容赦なく窓を叩いている。

   そんな中、風子は電話が鳴っている事に気づく。


風子:もしもし。……はい。……そうですが。……警察?。……え!?

   海斗が!?……はい、はい。……わかりました。

   すぐに行きます。(受話器を置く)


ナレ:風子は電話の内容をすぐに理解できず、あわてて家を飛び出し

   警察病院へ向かった。





ナレ:警察病院の霊安室に横たわる海斗。

   刑事に連れられて風子が入ってくる。


風子:あんた……。

   はは……嘘だよね……。

   ……変な冗談やめろよ……つまんねーから……。

   おい、てめー何寝てやがんだ? 起きろよ! 起きろって!!!


   (海斗の胸を何度も叩きながら)


   くそぉおおおおおおおおおおおお!


   ……なぁ、あんた……なんで出て行く時、らしくねえ事言いやがったんだよ!

   今まで一度だって言ってくれた事ないくせに!

   慣れねえ事するからこんなことになるんじゃないか……


   ……ばかやろう……勝手に先に行くなって……

   私だけ……置いて行くなって……人の言う事聞けバカヤロー!(号泣)


海斗:(M)ごめんな。結局籍も入れてやれなかったな。


風子:……あたしがそっちに行ったら、絶対結婚式挙げさせてやる!

   だから指輪用意して待ってろよ! 安物だったらしめるぞ!(泣き笑い)


   ……あんたの骨、あの海にまいてやるよ。

   ほら覚えてる? 初めて会った時に連れてってくれた海だよ……



■【エピローグ】


ナレ:風が吹いていた。


風子:(M)いつからかな? ……風を感じる事が無くなったのは……。

      あんたはこの世界に足突っ込んでから走りっぱなしで……

      あたしも風を感じる余裕なんて……


風子:(M)……やっとこれで二人静かに風を感じていられるね。


ナレ:風は、風子を優しく抱きしめるように通り過ぎていく……。

   風子は空っぽになった骨壺を抱いたまま、いつまでも

   思い出の海に佇んでいた。


海斗:(M)……風子……愛してるぞ。



終劇

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