物性理論大学院生の日常〜研究室は解散しました  (完)

作者さま:新井パグナス

キーワード:現代ドラマ 大学 研究 職業 物理学


あらすじ

研究室のグループリーダーである准教授が突然の異動。実は定年制のポジションではなかったらしい。主人公「佐々木」は移籍できる研究室を探して奔走するはめに。修士論文、博士課程、就職……はたして無事に未来をつかむことができるのか。


感想

理論系大学院生の研究生活と苦労が伝わってきておもしろい。マニアックな理系の世界を覗くことができる。

例えば日本の研究環境はいろいろと問題がある様子。


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「私のポジションのT大学の准教授は、任期付きです。定年退職まで居られるようなポジションではないのです」

 猪俣先生が任期付き? 佐々木は知らなかった。でも佐々木が高校生の頃からT大の先生だったはずだ。

 猪俣は続ける。

「10年間の任期のあと、業績やら獲得外部研究費やらの審査を通れば任期の定めのない職になるテニュアトラック、というポジションでした。残念ながら、外部研究費総獲得額が研究科共通の規定を満たさなかったようで、今年の3月末でこの研究室は解散です」

 そう言う猪俣を眺める大学院生達は、まだ、何を言っているのか?という顔をしている。


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准教授になっても10年で大学が求める結果を出せないと解雇……厳しい。また博士号をとっても2年単位のポスドクとして、さまざなま研究室を渡り歩く不安定な日々……う~む。

かなり文章力があり、「研究内容」が理解できなくても、「どんな雰囲気でやっているのか」を見ているだけで十分に楽しめるでしょう。例え・説明がすごく上手いです。


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修士論文は、A4用紙で大体50枚から100枚くらいが相場だ。修士論文には研究の背景、その研究を始めるに至った動機、その他の先行研究、などが必須で、学部を卒業し大学院に入ったばかりの初学者がその修士論文だけを読んで問題点とその解決策を理解できるのが望ましい。推理小説で言えば、どんな事件が起きたか、どんな状況なのかを説明した後、犯人を特定し、その犯人が犯行に至った動機についても述べているのに似ている。理論研究の場合、最終的に研究に使った理論手法の詳細な記述はもちろんのこと、その理論手法の土台となるような基本的な理論についても書かなければならない。


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なるほどぉ。やっぱ理系の修士・博士となると学生とはいえガチガチの論文を書くんですね。

もちろん説明だけの小説ではありません。物語としてもおもしろい。いきなり研究室解散というのはインパクトありますし、移籍した先も超ハードなブラック研究室だったり、合コンで失敗、海外の発表会で問題が起きるなどなど……

最後の博士論文の審査会はダイナミックな描写でバトルもののような盛り上がり。

ただし、リアルな空気感でキャラ要素は薄め。何というか「キャラ」じゃなくて「登場人物」。天才肌の変人ちゃん、みたいなのは出てきません。「ラノベ」じゃなくて「小説」。

理系だし非ラノベだし、読む人は選ぶかもしれませんが……ここまでの説明を読んで興味を持てる人なら間違いなく楽しめる作品だと思います。


状態:完結

文字数:123,028文字


個人的高評価ポイント

◎ 高い完成度!


作品URL

カクヨム https://kakuyomu.jp/works/1177354054882886305

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