イソラ (完)
作者さま:藤井機斎
キーワード:SF ロボ バトル 深海 文学的 愛国 日本
あらすじ
深海に眠っていた謎の人型ロボット「イソラ」。秘匿された兵器を使って始まる、世界の裏側を支配する勢力との戦い。しかし、敵も正体を探ろうと情報戦を仕掛けてくる。はたして主人公たちの本懐は達成できるのか。
感想
古めかしい単語に、詩情あふれる描写。なんというか「文学的」な文章が非常に美しく重厚。まぁ難しい漢字が連打されるのでやや読みにくい部分もあるけれど。
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「そろそろ時間、ですか」
老人の穏やかな声景色は、山中で人知れず流れる瀧を描いた墨画の清浄さが湛えられていた。
老人の視線の先――開け放たれた書院障子の先では、深海の其れとはまた異なる射干玉(ぬばたま)の夜(よ)が、虫の涼やかな鳴きに透度を高め、限りなく満月に近い太陰は紗(しゃ)と棚引く雲で其の口許を隠していた。笹の囁く葉擦れが沈みゆく季節を儚んでいる様子は、生で膿みゆく心に何故か響く何かがあった。
既に老境の山を登り始めたというのに老人は矍鑠(かくしゃく)たる精気に満ち、しかしながら輝きを深めて重く照る刃紋の如く、其の精気を鋭い怜悧さで押し潜めていた。
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いかがでしょうか……う~む、これはすごい文章力ですよ。web小説でここまで格調高いものは非常に貴重。
そして、これ系のこだわりある文章というのは詰め込みすぎで読みにくいパターンが多いんだけども、本作では表現のこだわりと読みやすさのバランスがしっかり調整されているのも見事。
ちょっと一部を引用しただけじゃ凄みが伝わりませんね、ぜひ自分の目で読んでいただきたい文体です。
そして、ロボものとしては
・武器が巨大な日本刀のみ
・戦場となるのは深海
という独特な設定が実に魅力的。
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当然、水という抵抗を与えられて剣速は鈍ったものゝ、修めた剣の技は些かも狂いなく、海中に於いてもなお刃筋は鋭く――否、むしろ海中であるからこそ、太刀筋の曇りの無さが浮き彫りとなる。光無き深海で振るわれた太刀は、視界を封じられているとは思えぬ程正確に原潜の外殻を叩き、そして減衰の振動吸収材の更に深部へと割り入った。
装甲を割断する斬撃。比叡丸の一刀を皮切りに、残るイソラ三艇も同様に、推進力と膂力を併せた潜水剣術を駆使し、原潜へと殺到し斬り通った。
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深海を進む潜水艦に、ロボットが日本刀で切りかかる! 絵になりますね~。潜水剣術! 実にロマンです。
水陸両用の奇襲兵器。だからこそ水圧に耐えられ深海でも威力を発揮する日本刀こそが最適な武装となる。
ここら辺の設定・論理付けは作者さまのロボ好きを感じますね。なるほど~、って感じ。やはり、それなりのリアリティがあってこそのSFでしょう。
また、中心人物となる「安曇野正義」のキャラ造形がすばらしい。固い信念と「怪物」とまで呼ばれるほどの情報戦の上手さ。周りに優しく堂々としていながらも、決して全てを明かさない闇と謎を持っている。
めったくちゃ良い味しまくってます。超かっこいい。実際、話的にはロボットよりこの人がメインですからね……
ストーリーとしては日本の現状に苛烈な憂国の士が決起する、という内容であり少し読む人を選ぶかも。いわゆる右な話なので。物語として読む分には気にならないと思いますが。
文学的な物語に、上手くロボバトルアクションを融合させている。非常に独特な作品です。
状態:完結
文字数:221,659文字
個人的高評価ポイント
◎ 高い完成度!
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