異世界ファンタジー

アイオライトの心臓  (完)

作者さま:識島果

キーワード:ファンタジー 魔法 宝石 呪い シリアス ジュブナイル


あらすじ

忌まわしい呪いの印とともに少年「ロクド」は生まれた。村から旅立つことを強制された少年の出会いと成長。そして、世界の過去の秘密。


感想

なかなかに本格的で良質なファンタジー。冒険者・魔王・ダンジョン・ゴブリン・エルフ……そういったテンプレ要素がまったく出てこず、まさにハイファンタジーと呼ぶにふさわしい世界観。

魔術に関わる1つ1つの物や動作の描写が細かく、脳内にイメージが浮かびます。


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産婆を恐れさせたのは、どす黒い痣だった。


 ちょうど左の指先から手首までを、深い深い暗闇の沼に浸したような、異常な痣。変色した部分の皮膚はがさがさと硬化して鱗のようにひび割れ、赤子に似つかわしくない禍々しさを放っていた。


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初めの方はマルバアサガオの種を煎じたりテッポウユリの根を刻むこと、砕いた鉱石を布袋の裏地に縫い込んだりすることを任された。これはネルギの村で学んだまじないに通じるところがあったが、ロクドが知るそれよりもずっと繊細なものだった。あるときカレドアは、乾燥させた月桂樹の葉と孔雀豆とを中綿と一緒に詰めた布製のお守りを見せ、これと全く同じものを十作るように指示した。


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サリマトは部屋の四隅に魔を払う漆の蝋燭を置き、魔術で小さな火を灯した。寝台の周りに紫水晶アメシストを砕いて粉末にしたものを少しずつ撒きながら、一周する。次に、ルースの祝福を受けた塩を使って同じようにもう一周。それから、サリマトは瓶につめた植物の汁に人差し指を浸すと、紫水晶と塩の線を踏まないようにして寝台に近づき、男の額に印を描いた。額の上で印はすぐに乾いて、見えなくなる。遠目にも、男の呼吸が微かに和らいだのが分かった。最後に、そっと男の手を取り上げ、瑪瑙の欠片を握らせた。


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使われる物、動作などが丁寧に書かれているとリアリティがぐぐっと増しますねぇ。「地球人の空想」ではなく「その世界に根付いた技術」に思えるというか。

ストーリーも無駄のない進行で長すぎず読みやすい。死人も出て重い展開だけど、それゆえに迫力と深い読後感がある。第3章からの流れは主人公たちと一緒に精神をゆさぶられますね……

あと、カクヨム版にのみ日常パート的な番外編があるんですが、これも良い。この順番だからこその重みと良さがある。

ハイファンタジーが読みたい! という人に強くおすすめできる作品です。


状態:完結

文字数:250,379文字


個人的高評価ポイント

◎ 高い完成度!

☆ 私の特に好きな作品です!


作品URL

小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n4382cr/

カクヨム(番外編あり) https://kakuyomu.jp/works/1177354054880251722

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