第169話あらやだ! 楽しい旅だわ!

 馬車にゆらゆら揺られながら、ランクSの三年生一行はアリマ村に向かう。

 道中はいろんな話をみんなでした。ランドルフとヘルガさんの結婚話をクラウスがにやつきながら根掘り葉掘り聞いて本気で怒られたり、デリアがレオからもらった手紙を嬉しそうに自慢したり、クラウスが新しい魔物料理を開発した言うて、イレーネちゃんの興味を誘ったり。そのイレーネちゃんが護衛騎士に正式に任官する予定ちゅうことを喜んだりした。


 そんな楽しい道すがら、あたしはふとデリアに訊ねる。


「デリアはレオのところに行くんか?」

「うん? ええ、そのつもりよ。そのために今まで勉強してきたんですもの」

「そうか。ならあたしと一緒やな」


 驚いたんは全員やった。


「……皇帝の申し出を断るのか?」

「ちゃうねん。あたしは医療部隊任されたんやけどな。部隊員は既に選抜しとるらしいから、その人たちと一緒に行くねん」


 ランドルフに説明すると「大丈夫ですか?」とクラウスが心配そうに言うた。


「前に聞いたことがあります。ユーリさんは人殺しになりたくないって」

「重々分かっとる。せやけどな、やらなあかんって思うてしもうたんや」


 イレーネちゃんは「無理だけはしないでくださいね?」とあたしの手を握った。


「絶対ですよ? ユーリはすぐに無理をするんですから」

「分かっとる……って言うても、信用ないようなあ」


 ぎゅっと握る手が強なった。不安なんやろな。


「大丈夫よイレーネ。私が付いているんだから」


 デリアが胸を張って答えた。


「へえ。珍しいやん。デリアがそないなこと言うの」

「あなたの影響よ。責任取ってほしいくらいだわ」


 いつものようにツンデレなデリアやった。せやけど素直やない態度が素直に嬉しかった。


「デリア。もし無理したら説教してくださいね」

「もちろんよ。何時間でも説教するわ」

「それも無理に入るんちゃうん!?」


 そないな会話をしつつ、あたしたちはアリマ村に到着した。

 馬車から順々に下りる。

 へえ、結構賑わっとるやん。


「これがユーリが作った村ねえ。小さな田舎の村って感じだわ」

「すげえな。できて何年も経ってねえのに、そう思えるなんてよ」


 デリアとランドルフの感想を聞きつつ、あたしはワールを探しとった。手紙出したから、到着は知っとるはずやけど……


「ユーリの姐御! お早いご到着で!」


 お、ワールや。すっかりカタギの姿に馴染んどるなあ。

 ワールの他にリーダーのフランとロックルも居った。


「いやあ。姐御の活躍、聞いておりますよ。それとそちらの四人が無双の世代の方々ですな」

「そうや。あたしの友人や……ってクラウス、何で笑うとるんや?」

「いや、前も思いましたけど、普通に姐御呼びに慣れてるんですね」


 それを聞いたランドルフも軽く笑うた。

 なんかめっちゃ恥ずかしいわ。


「ささ。皆さんお待ちですよ!」

「皆さん? ああ、おとんやジンたちか?」

「ご明察です!」


 村の中心にある大きな建物――集会所やったな――に案内されるあたしたち。

 中に入るとそこには懐かしい面々が居った。


「久しぶりだな、ユーリ。鉄血祭で優勝したそうじゃないか」


 元山賊の頭目、ジン。


「あたいの命の恩人は、凄い人だったんだねえ」


 ジンの娘、セシール。


「俺の目に狂いはなかったな。君に懸けて良かったよ」


 村の商人、エドガー。

 世話になったりしたりした三人や。

 そんで奥の席には――


「おかえり。ユーリ」


 村長が板についとるあたしのおとん、ヨーゼフ。


「大きくなったわね、ユーリ」


 すっかり元気になったあたしのおかん、マーゴット。

 あたしは元気よく言うた。


「ただいまやで! おとん! おかん!」




「へえ。魔法剣豪のランドルフってのは、お前か。かなり強そうだな」

「あんたがジンか。ユーリさんから聞いている」


 ランドルフにさっそく絡むジン。


「なあ。一度勝負してくれねえか?」


 案の定、危惧しとったことを言うたジン。


「やめとけや。あんたじゃ勝てへんでジン」

「そうだぜ父さん。無理すんな」


 あたしとセシールが止めるとジンは「結構傷つくな」と笑うた。


「ワールさん。お客様にどんな料理を出しているのか、確認させてください」

「へい。厨房へ案内しやす」


 クラウスは料理人の騒いどるんやろな。そう言うてさっそく出て行ってしもうた。


「そういえばアルムはどこに居るんや?」


 せっかくやから会いたいなと思うたら、セシールが「旦那なら巡回に行っているよ」と言うた。


「もうすぐ帰ってくるさ」

「へえ。そうなんや」


 あたしは白湯を一口含んで、そんでとんでもない事実に気づいて。


「ぶふうう!」


 吐き出してしもうた。白湯は真向かいのデリアにかかってしもうた。


「はあ!? 今、あんたなんて言うた!? アルムのこと旦那言うたか!?」

「あ、ああ。今はあたいの旦那だよ」

「どないなっとるんや!?」


 軽くパニックになってしもた。睨みつけとるデリアの視線を無視して冷静に考える。


「セシールが十七才ぐらいで、アルムは確か、三十半ばやったな……大丈夫か?」

「年齢は関係ないだろ? 気づいたら好きになったんだもん」


 あかん。軽く惚気られた。


「そうだぜユーリさん。好きになるのに年齢は関係ねえ」

「ああ、あんたも考えてみればそうやな」


 ランドルフは逆に夫が若いんやな。確か健太がショタとか言うてたな。


「ユーリ……聞いてくれよ……あいつとセシールが結ばれるなんて、誰が想像できる?」

「まあ、どんまいやで?」


 ジンが涙目であたしに言うた。まあ仕方のないことや。恋愛なんてな。


「ユーリ。ジンさんを説得するのにどれだけ時間がかかったか。大変だったぞ」

「おとん。ありがとうな」

「最終的にマーゴットの説得でなんとかなったがな」


 おかんをパッと見るとにこにこ微笑んどる。どない手使うたんや?


「ユーリ。みんな良い人ですね」


 イレーネちゃんがデリアの顔を拭きながら笑うた。

 睨んどるデリアと視線合わせんようにして、あたしは言うた。


「ああ、最高の仲間やな!」




 デリアの機嫌がめっちゃ悪くなってしもうたんで、みんなで温泉に入ることにした。


「ふう。ええ湯加減やな」


 頭に手拭――村で作った特産品の一つや――乗せて、あたしは湯に浸かった。


「ひかえめに言っても最高だわ……」

「そうですねえ……」


 デリアもイレーネちゃんもほっこりとくつろいどる。


「肌がすべすべになっている気がするけど」

「温泉の効能やな」

「ほええ。温泉って凄いんですねえ」


 隣の男湯にはランドルフとクラウスが入っとる。


「くらえ、クラウス! 湯煙覇斬!」

「何の、スプリング・スプラッシュ!」


 ……男の子やなあ。童心に戻っとる。


「……あなたたち、胸大きいわね」


 デリアがあたしとイレーネちゃんの胸を凝視しとる。


「でも、デリアの可愛いやん」

「……屈辱を何故か感じるわ」


 大きさ言うたらイレーネちゃん、あたし、デリアの順で大きいな。


「あなたは食べすぎなのよ! どうやったらそんなに……!」

「きゃあ! いきなり何するんですか!」


 まったく。ゆっくり浸かれへんのか。

 空を見上げる。

 もうすぐ日が暮れるなあ。




 お風呂を出た後はクラウスが指導した料理人による豪華な料理で宴会になった。

 アルムも来たんでセシールとの仲をからかう。


「この歳になって所帯を持つことになったのは、お前のおかげだよユーリ。ありがとう」


 感謝されてもうて、からかい甲斐がなかった。真面目なんやな。


「おとん、おかん。話があるんやけど」


 宴会の途中で、あたしは二人を呼び出した。おとんは予想しとったのか、一滴もお酒を呑まんかった。


「なんだ話って」


 旅館の外、エルザが暴走した場所で、あたしは両親に向き合う。

 おとんはどこか覚悟しとる顔で。

 おかんはどこか不安そうな顔や。


「あのな。あたし――」


 多分怒られるんやろなと思いながら。

 あたしは自分の覚悟を語る――

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