第145話あらやだ! 修学旅行の始まりだわ!
光の月を迎えて、年が明けた。
あたしは十三歳になった。当然ランクSのみんなも十三歳になって子供から青年期を迎えるんや。
新年のお祝いは魔法学校ではせえへんかった。ドワーフの国へ船で向かっとったからや。
せやから今乗っとる船――アイオライト号でランクSの三年生と一年生、クヌート先生とアデリナ先生でお祝いしたんやけど――
「ユーリ。塩取ってください」
「デリアのほうが近いやんか」
「デリアに取って欲しくないです」
相変わらずギスギスしとる。デリアは乱暴に塩を取って、イレーネちゃんの目の前にどんと投げ置いた。
「……高貴の出が聞いて呆れます」
「何か言ったかしら?」
日に日に険悪になっとる二人。いつ死人が出てもおかしないな。
その場合の死人はあたしも含まれるかもしれん……
ちなみに今何しとるかと言うたら新年のお祝いを船内で行なわれとる最中や。立食パーティちゅうやつで多くの乗客が参加しとる。
あたしを挟んでいがみ合っとる二人も食事しとるんや。その様子を離れたところでランドルフとクラウス、そして一年生が見守っとる。
いや見守るちゅうよりも怖がって近づけないと言うのが正しいな。
「あんたら……いい加減仲直りしたらええやん」
「嫌です」
「嫌よ」
「気が合うとるやんか」
まさか年明けても喧嘩しとるとは思えへんかった。
「これからドワーフの国に行くんやで? 楽しもうや」
「……ユーリはどっちの味方ですか?」
あらやだ。矛先がこっちに来たわ。
「そうよ。あなたは誰の味方なのよ」
「二人の味方やで」
「ふざけないでよ! どっちつかずな態度が腹立たしいのよ!」
「八つ当たりやな……」
あたしは魚のフライをフォークで刺して口に運んだ。うん。美味しい。
「はっきり言うけど、二人の敵は互いやないやろ」
あたしは話を変えることにした。
「私の敵? どういうことですか?」
「あなたの口車には乗らないわよ。そうやって知らない間に説得されるんだから」
「なら一言だけ言うとくわ」
あたしは二人の顔を交互に見て、そして真剣な表情で言うた。
「あんたらの敵はあんたら自身やで」
二人はピンとけえへんようやった。あたしは「二人とも大好きやから、仲良うしてほしいんやけどな」とわざと悲しげに呟いた。
「あっ……ユーリ、その、ごめんなさい……」
申し訳なさそうな顔をするイレーネちゃん。そして何も言わんかったけどばつの悪い顔をするデリア。ふうん。あたしに対してはそういう気持ちがあるんやな。
「ま、ええわ。こんな身なりやけど、あんたらの何倍も生きとるあたしや。こういう状況は慣れっこや」
にかっと笑ってあたしはその場を離れて、クヌート先生のところに行く。先生はちびちびとワインを呑んどった。
「なあ。クヌート先生。そろそろ教えてくれや」
「うん? 何をだ?」
「なんでドワーフの国に行くんや?」
「俺も知りたい」
いつの間にかランドルフが傍に立っとった。その後ろにクラウスも居る。
「修学旅行って言わなかったか?」
「ほんまにそれで納得しとる馬鹿は居らんわ」
「俺たちを舐めないでもらいたいな」
「ええ。一年生でも気づいている子が居るでしょう」
あたしたち三人の冷たい目に観念したのか「分かったよ。じゃあみんなに説明する」と言うて全員を呼ぶように指示した。
パーティ会場の隅。ランクSの三年生と一年生、そしてアデリナ先生がクヌート先生の前に集まった。その際イレーネちゃんが凄まじい目でロゼちゃんを見て、デリアがキレてロゼちゃんが泣き出してしもうた。
なんとかなだめて、ようやく話を聞けるようになったのは十数分後やった。
「えー、今回は修学旅行と言ったが、それは建前だ」
「何? そうだったのか?」
キールが驚いた顔をしとる。納得しとった馬鹿やったんか……
「やっぱり。そうだったんですね」
アルバンは疑っとったほうやな。ラウラちゃんは気づかへんかったようで「どういうことですか!?」とランドルフを見た。
「ロゼちゃんは知ってたの?」
「ひっく、私は、その、なんとなく違和感が、ありました……」
エルザが慰めながら訊ねるとロゼちゃんは泣いたまま答えた。
「今回の旅の目的を発表する前に、アデリナ、簡単にドワーフの儀式について話してくれ」
「はい。分かりました」
アデリナ先生はこほんと咳払いをしてから話し始めた。
「ドワーフは新年になると神主と呼ばれる六人の長――いえ指導者と言うべきですか、それが交代します。その際、大きな祭りが行なわれます。俗に『鉄血祭』と言われ、盛大に祝います」
「うん? 六人が三つの国を支配するのか?」
キールの問いにクヌート先生が答えた。
「三つの国をそれぞれ二人ずつ指導するんだ。まあ持ちまわり制だからどこが一番ってわけじゃないけどな」
アデリナ先生は「その祭りに参加します」とあっさり言うた。
「へえ。面白そうですね」
クラウスが分かっているくせにわざとそないなことを言うた。
「面白いですよ。なにせ戦う祭りですから」
アデリア先生はにっこりと笑うた。
戦う祭り……?
「あの言うてる意味が……」
「お前たちは鉄血祭というバトルトーナメントに出てもらう!」
あたしの問いを強引に無視してとんでもないことを言うクヌート先生。
「屈強なドワーフたちが参加し、腕自慢の人間も参加する、鉄血祭で優勝を目指せ!」
「何言うてんねん!」
ワインのせいかかなり酔うとるな。
「優勝したら何かもらえるのか?」
ランドルフの問いに「名誉と賞金、それに学校の成績に加点される」とクヌート先生はにやにや笑いながら言うた。
「それに副賞としてドワーフの武器がもらえるぞ」
「俺は参加する」
ランドルフが即答しよった。それを見たラウラちゃんは「わ、私も参加します!」と手を挙げた。
「僕は遠慮したいですけど、全員参加ですか?」
「ああ。全員同じだな」
全員か……あたしはとあることを思い出しとった。
ドワーフは平等主義者や……
「先生。それって女子と男子に分かれとるんか?」
「分かれてないぞ?」
一気にやばなってきたな。デリアやイレーネちゃんだけやなくてランドルフも相手かいな。
「悪いが優勝はもらうぜ」
「ふざけないでよ。魔法大会優勝者の実力を知らないの?」
ランドルフとデリアが火花散らしとる。
「お姉ちゃん。私自信ないなあ」
「いや。あんた優勝候補やで」
エルザの黒い翼に勝てるのはなかなか居らんやろ。
「そういうわけで、明日着いたらすぐに会場で予選会だから。今日は早めに寝るように」
「さらりと言うなや!」
こうしてあたしたちは鉄血祭に参加することになった。
あたしは気づかへんかった。
イレーネちゃんがデリアに何か約束しとることを。
間抜けにもあたしはクヌート先生の言うとおり、早めに寝てしもうたんや。
そして翌日。
ドワーフの国、タングステンに訪れたんや。
どうなるんやろか。あたしには予想もつかんわ。
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