第117話あらやだ! 新入生三人の要求だわ!
「おいおい。お前らは確か新入生のランクSじゃあないか。なんでここに居るんだよ」
呆れながらクヌート先生が言うた。へえ。この三人がランクS、つまりエルザのクラスメイトになるんやな。
「なんなの? 殴りこみに来たわけ? 一人は違うけど、相手になるわよ?」
「けほけほ。デリア、気が早すぎます」
好戦的なデリアになだめるイレーネちゃん。混沌としとるなあ。
さてと。どうしたものかと考えとると本日四度目となる乱入者が現れた。しかも二人や。
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
「きゃあ! 無双の世代の方々が勢揃いですね!」
一人はあたしの愛しい妹、エルザ。そしてもう一人はなんとアスト公のロゼちゃんやった。
「なんやロゼちゃん。あんたもランクSの新入生なんか?」
「あ、お久しぶりですね。ユーリさんもお変わりなく。それにしても豪華な顔ぶれですね」
目を爛々と輝かせるロゼちゃん。前も思うたけど、ミーハーなところがあるっぽいなあ。
「ええい! 俺が一番先に来たのだ! ユーリと勝負させろ!」
焦れたように言うたのはキールと名乗った少年やった。
「勝負言うても、あんたと勝負する理由ないわ」
「貴様に無くとも俺にはあるのだ! 義父上の関心を得るために――」
義父上? 一体誰やろ? 知り合いやろか?
「キール殿、私もランドルフ殿と決闘せねばならんのです!」
「脳筋女は黙ってろ!」
「の、脳筋!? どうして褒めたのですか!?」
「褒めてないわ!」
おっ。今の漫才っぽかったな。面白いやんか。
そう思うた矢先、ぱあんと大きくクラウスが手を叩いて皆を注目させた。
「はい。それでは一人ずつお話を聞いていきましょう。まずはアルバンくんから」
指名されたアルバンは「はい! ありがとうございます!」とにっこり笑うた。
「待て! どうしてアルバンからなのだ!」
「一番平和的かつ話が早いと思いましてね」
キールをいなしてクラウスはアルバンを促した。
アルバンは緊張しながら話し出した。
「ぼ、僕はクラウス先生の料理を食べて、憧れたんです!」
「へえ。そうなんですか。どんな料理を?」
アルバンは「僕の家は自慢ではないのですが名家です」と語り始める。
「いつも毒見のために冷めた料理しか出てきませんでした。しかしクラウス先生が考案した『冷めても美味しい料理』を食べて感動したんです!」
「ああ。確かに考えました。貴族の方に依頼されて。冷製スープや味の濃い煮魚とかね」
アルバンは目を輝かせながら頭を下げた。
「クラウス先生のレシピをたくさん買いました! そして家の料理人に料理を習い、そこそこの腕前になりました! 先生の足を引っ張る真似はしません! 是非弟子にしてください!」
貴族やのに料理人を目指すんか。変わり者やな。
「なるほど。話は分かりました。しかし弟子にするには料理の腕を見なければいけません」
変わり者筆頭のクラウスはそう言うて、イレーネちゃんのほうを向いた。
「イレーネさん。ちょっと試食係になってくれませんか?」
「けほけほ。いいけど、今の私は――」
「今のあなたが良いのです。テストにもってこいです」
そしてクラウスはアルバンに「着いてきてください」と背を向けた。
「今のイレーネさんが満足するような料理を作れたら、弟子として認めましょう。僕のレシピを使っても構いません」
「わ、分かりました!」
そう言うて出て行くクラウスたち三人。
「おい。カリキュラムの説明しなくちゃいけないんだが?」
「すみません。後で聞きますから」
「料理を食べるのが優先事項ですから。けほけほ」
クヌート先生の言葉を半ば無視してクラウスたちは教室から去っていった。
「なんてやつだ……ああ、もういい。お前ら、後で説明することにするから、今日は解散していいぞ」
面倒になったのか、クヌート先生も教室から出て行った。ランドルフが「なんか同情するぜ」とぼそりと呟いた。
「それで、お前はどうして俺と決闘したいんだ?」
「決まっています! 我が魔拳法とランドルフ殿の魔法剣、どちらが上か決めるためです!」
魔拳法? 魔法剣? なんやそれ?
「俺の魔法剣、光の魔法を剣に付与する技術はまだまだ不完全だ。お前の魔拳法は確か洗練された拳法だろう? 聞いたことがあるぜ。代々続く格闘技の名門じゃねえか」
「然り! それでも戦わなければならない理由があるのです!」
ラウラちゃんはびしっとランドルフに指差した。
「魔法剣こそが最強だと昨今言われています。それが大きな間違いであると知らしめなければなりません。魔拳法イデアル派の六代目に命じられて、私はここに居る!」
「訳が分からねえ。俺は魔拳法よりも魔法剣が上だとは言ったことがない」
「あなたはそうでも世間は違います!」
ラウラちゃんは「さあ、立ってください!」と空手のような構えをして言うた。
「申し込まれた決闘から逃げるおつもりですか!?」
「……しょうがねえなあ。受けてやるよ」
ランドルフは立ち上がった。
「ランドルフ。相手は女の子やで?」
「分かってるよユーリさん。手加減はする」
ほんまか? 疑うあたしを余所にランドルフは「修練塔に行くぞ」とラウラを見た。
「そこでなら思う存分戦える。剣もあるしな」
「分かりました! それでは参りましょう!」
ふむ。魔法剣と魔拳法。どっちが強いのか、見てみたいわ。
「ふん。やっと俺の番だな!」
キールが腕組みしながら言うた。あたしは「案外我慢強いんやな」と感心してしもうた。
「時には待つことも重要だと義父上から教えてもらったのだ」
「その義父上って誰や? あたしの知り合いか?」
気になってたことを訊ねると「義父上はお前の知り合いではない」と偉そうに答えた。
「皇帝陛下を知り合いと呼ぶのは不遜そのものだからな」
皇帝陛下? ちゅうことは――
「はあ!? 陛下の養子のキールってあなたなの!?」
びっくり仰天したのはデリアやった。ロゼちゃんもエルザも目を見開いて驚いとる。
まあ確かにあの歳で養子はびっくりするなあ。
「そうだ。でも勘違いするなよ? 俺が偉いわけじゃない。義父上が偉いのだ」
自慢げに言うキールにあたしは「なんやあたしの知り合いやんか」と呆れた。
「貴様……! 義父上に対して不敬だぞ!」
「ちゅうか、皇帝の養子がなんであたしに勝負挑むんや?」
キールは「決まっているだろう」と怒りながら言うた。
「俺は義父上の役に立つために己を鍛えている。そのために生きている。だが――」
キールはあたしに向かって指差した。
「毎日お前のことを褒めているのだ、陛下は!」
「はあ。そうなんか?」
「ユーリさんのおかげで大陸が統一できたとか、魔法学校の闇を取り除けたとか、エルフと友好条約を結べたとか、万能薬を作ってくれたとか。耳にタコができるぐらい聞かされたわ!」
悔しそうな顔をしてキールは大声で言うた。
「俺は一回も褒めてもらってない! 認めてもらってないのに!」
なるほど。つまりは――
「なあんだ。結局、ユーリに嫉妬してるだけじゃない。逆恨みもいいところね」
「デリア、そないにはっきり言うたらあかんわ!」
このやりとりを聞いたキールはショックを受けてしもうた。ちょっと涙目になっとる。
「う、うるさい! とにかく勝負しろ!」
「勝負って何すればええんや?」
「魔法勝負に決まってるだろ?」
あたしは首を傾げた。
「別にあたしは強ないで? この前デリアに負けたし」
「なんだと?」
「それにあたしは強いから皇帝に認められたわけやないし」
「…………」
誰も何も言えへんかった。せやけどキール以外の全員がキールに同情を覚えたんや。
「じゃ、じゃあ俺はどうすればいいのだ!」
「そら簡単やろ。あたしよりも活躍すればええ」
「なに!? 活躍?」
デリアが小声で「出たわね。口八丁」と呟いたのは他のみんなには聞こえへんかった。
「自分で言うのもおこがましいけど、平和の聖女と呼ばれとるあたしや。それを超えるには力やのうて、名声やろ」
「し、しかし、どうやって名声を得れば――」
「皇帝陛下の役に立つことをすればええやろ。それか英雄みたいなことをせえや」
あたしの言葉に乗せられたキールは「よし、分かった!」と頷いた。
「ならまずは魔法学校の首席となるか! 行くぞロゼ、エルザ! 教室に戻ってアデリナの授業を受けるのだ!」
ダダダと走って教室から出るキールに「ちょっと待ってよ!」と言うてエルザも出て行く。
「あの、デリアさん。握手してもらってもいいですか?」
ロゼちゃんが去り際に言うとデリアは「握手? 別に良いわよ?」と快く応じた。
「ありがとうございます! それではごきげんよう!」
ロゼちゃんも出て行ってしまって、デリアと二人っきりになった。
「あなた、相変わらず口が上手いわね」
「そうか? キールが単純なだけやろ」
「ようやく私も騙されてたことに気づけたわ」
デリアの睨むような視線を無視して「今日はもうおしまいやから、帰ろうや」と言うた。
「ガーランさんの本屋行くか? あ、ちゅうかガーランさん居るんか?」
「居るわよ。私がそう命じたから」
こうして三年生初日は終わったんや。
そして次の日。
とある生徒の悩みを聞くことになる。
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