第6話 バルサ・バークレー-1
『シオン選手、人間離れした身のこなし! 靴に仕込まれた、空中を蹴ることができる煉術【ピンボール】を駆使し、頭上からバルサ選手を強襲! ところが奇襲は間一髪、バルサ選手の【
『地球人で【ピンボール】なんてザコ煉器使ってるのはあいつぐらいだな。ナチュラルなら際限なく空中を蹴れて
『あれだけ体勢を変えられるなら、たったの一歩でも驚異ですね!』
盛り上がりを増すスタジアム。俺とバルサの表情は対照的だ。打つ手を全て使い果たした俺に対し、バルサは戦闘に高揚する余裕さえある。
「やっぱ刀使い
大槍をぶるんと回し構えるや否や、鋭い突進が一条の矢のごとく迫る。
矛先を弾いて軌道を反らすも、バルサの重心は超攻撃的に傾いている。カウンターなど恐れるものかとばかりに踏み込んで、右、左と縦横無尽に突きを繰り出す。
「おらおらおらおらァッ!!」
「う……っ!」
凄まじい槍さばきだ。ナチュラルだからと見くびっていたら一瞬でやられる。【煉氣装甲】をまとったバルサの身のこなしは、俺とほとんど遜色ないレベルだ。
攻撃を差し挟む隙は無いでもないが、今のバルサは全身鋼の【最強鎧】状態。こいつ、この体のままでも動けるのかよ。関節とかどうなってるんだ。
「くっ!」
防戦一方で後退するうち、いつの間にか戦場の端まで追いやられていた。すぐ背後は壁だ、もう下がれない。
「おらァッ!!!」
気づけば目と鼻の先に迫った矛先に、危うく顔面を貫かれるところだった。首を捻って難を逃れた俺の耳元で、凄惨な音を上げ石壁が砕ける。
ちらりとソレを見て、ゾッと肝が冷えた。バルサの槍が、石の壁をまるで豆腐みたいに貫通しているのだ。
「どんな切れ味だよ……」
「オレの槍に、貫けねえものはねえ!」
豪語して一閃、壁に突き刺したままの槍を強引に真横へ薙ぎ払う。ギョッと目を剥き真下にしゃがんで緊急回避。顔を上げれば、もうバルサは槍を回して振り上げている。
遠心力を活かして、攻撃と攻撃を繋ぐのが上手い。あれだけの長物を自在に操るには、よほど血の滲むような鍛練を積んできたに違いない。
「ぐおっ……!」
振り下ろされた長槍を受け止め、競り合う。漆黒の鎧で全身を覆ったバルサの、琥珀色の瞳と目が合う。爛々と輝く強い目だ。こんなすごいやつが、俺と同じ
頭上で受け止めている槍に意識を向けていた俺の死角から、鋭い膝蹴りが飛んできた。とっさに右肘でガードしたのが最悪だった。ハンマーでぶん殴られたような衝撃と激痛に、たまらず顔を歪める。
「隙アリ!」
均衡が崩れた。力任せに振り抜かれた槍が刀を弾き落とし、勢いそのまま俺の体に一条の傷を走らせた。
「ぐぉっ……!」
致命傷ではないが、決して浅くもない。胸を斜めにぱっくり割る長い刀傷から鮮血が滲むのを、ぐっと握り込んで止血する。
『だいぶ調子悪そうだなシオンのやつ。あいつの剣は、普段はもっとイイ音するんだけどなぁ。今日は【ピンボール】で奇襲したあの一回キリだ』
『やはりあの硬い鎧の前では、自慢の剣術も形無しでしょうか!?』
俺の敗色濃厚に、コロシアムがざわめき始めた。大きく差をつけていた下馬評が覆ったのだ。ぐぬぬぬぬ、と、どこからか耐えかねたような怒声が響いた。
「おいナツメ! 貴様、まさかそんな知らんやつに負けるつもりかぁ! ふざけるなよ、この俺に勝っておきながら……俺が今日という日をどれだけ待ちわびたと思っているのだ!!」
あの、よく通る芝居がかったような声は……。声のした方を見れば、ハルの隣でこれまでじっと静かに観戦していたらしき炎髪の少年が、その赤毛を逆立てんばかりに激昂している。
「バカ、あいつ、名字で呼びやがった……」
普段気品溢れる貴公子で通しているユーシスの突然の暴走に、一瞬静まり返るスタジアム。それで我に返ったか、ユーシスはハッとあたりを見回し、居心地悪そうに咳払いしてどっかと席に深く座り直した。
「シオンー! 頑張れー!」
「シオンくーん!」
「シオンさん!!」
潮目が変わった。ハルやカンナたちが声援をくれ、それを皮切りに俺とバルサに対する観客の声援合戦が始まった。バルサは一度戦意を鞘に納め、体の力を抜くと、穏やかな顔で客席を見渡した。
「すげえ大会だな。ウォーカーと国民の距離がこんなに近い。見ろよ、オレたちが守ってる人たちの顔だぜ」
言われて俺も、客席を見渡した。皆、歓声と割れんばかりの拍手で俺たちを応援してくれている。
「……あぁ、そうだな」
ふぅ、と一つ息を吐く。ユーシスの言う通りだ。こんなところで負けちゃいられない。
カンナの隣に座ってじっと俺を観察しているコトハをちらりと一瞥する。ユーシスが俺をナツメと呼んだせいで、視線が疑わしげだ。事情を知っているカンナがどうにか誤魔化してくれることを願う。
最強の鎧と槍を持つバルサに、棗流を使わずして勝つ。そのためには――これしかない。
どよ、とコロシアムが揺れた。
俺が自分の刀を、地面に突き刺したからだ。
「来いよ、バルサ。第二ラウンドだ」
丸腰となった俺の挑発に、バルサもさすがに唖然としていた。
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