第4話 ウォーカー新人大会-2
『紳士淑女の皆様! 大変、たいっへんお待たせいたしました! 今年もやって参りました、《白薔薇》の新星たちによる新人剣闘大会、いよいよ、いよいよ開幕です!!!』
煉術で拡声され、
若干十八歳という若さでありながら、マーズと共に日々五百人のウォーカーを捌く敏腕受付嬢。大のお祭り好きで、このようなイベントごとには必ず率先して表舞台に上がっているらしい。
煉術の花火が上がり、コロシアムの上空で無数の火花が炸裂する。総収容数二千人を誇るコロシアムは超満員。ルミエールの人口の二割がここに集結していることになるが、入場口付近で待機している俺の肌は、その事実が頷けるほどの熱気を感じていた。
『さぁ本日は、国民の皆様に我がギルドの新鋭をご披露するまたとない機会! 今年も七十二名のルーキーが、国と人々の繁栄のため、新たに純白の薔薇を背に負い戦っております! その中から、予選期間内に最も多くの、または難易度の高い
銅鑼が打ち鳴らされた直後、スタンドの一角で整列する、国家の
コロシアム全域が揺れるほどの“重い”音が、指揮棒の
あの楽器も全て煉器だ。煉術を仕込んだ楽器の音色は、波を拡げても散乱せず空気を震わせ続ける。屋外でもまるでコンサートホールにいるように、演奏が音の塊となって襲い掛かってきて、俺たちの体さえビリビリ震わせる。
『まずはこの人! 彼の操る炎には、まるで命が宿っているよう! その才覚は名家の歴代でも別格と謳われる、エリート炎術士! ウォーカー
深紅の
「ぼ、僕らなに言われるんだろう……恥ずかしいよ」
隣ではハルが既に怖じ気づいている。内包戦力の充実ぶりを国民にPRする目的があるとは言え、確かにこの紹介は大袈裟すぎる。あんな尊大な顔で登場できるユーシスは流石だが。
ブラッド・レッドバーンの全国指名手配以降、レッドバーン家の名声は地に堕ちた。家は存続し、表向き貴位を保ってはいるが、広い家の中に、正統な血筋はもはやユーシスただ一人。大きな顔をしていた貴族が落ちぶれ、孤独にしている様子を、面白がって中傷する酔っぱらいの声を聞いたことがある。
ところがユーシスは、良くも悪くも唯我独尊。他人の評価などどうでもいいとばかりに、あれからも変わらず由緒正しきレッドバーンの長男として尊大に振る舞っている。ウォーカーとしての格も上がり、結局、彼に面と向かって家をバカにできるような大物はついぞ現れなかった。
今でもユーシスに対して良く思っていない民もいることだろうが、本人が気にしていないのだから、俺も口だしするつもりはない。一度だけやんわり優しい言葉をかけたことがあったが、「いらぬ世話だ、父の件があっても言い寄ってくる女の数は変わらない」と言っていた。死ねばいいのに。
『続いては、可愛い、優しい、かっこいい! 好感度ナンバーワンルーキー!』
「へえ、誰のことだろう?」
『通算の
他人事だった顔をみるみる赤くしたハルが、頭を抱えてその場にうずくまる。
『わたくしリーフィア
「誰か彼女を止めてよ! 最悪だ、事前に原稿の開示請求をするべきだった!」
「いいから早く行け」
「うわぁぁぁぁぁん!」
俺が尻を蹴り飛ばすと、ハルは半泣きで表舞台に転がりでた。女性陣から上がった黄色い歓声を聞く限り、ハルの顔はリーフィアが散々に上げた期待を裏切らなかったらしい。
「ハルくーん!」
歓声に交じってカンナの声が客席から聞こえた。入場口から身を乗り出すと、最前列で手を振るカンナが見えた。その隣にレンとコトハもいる。
今朝は彼女たちと合流して、五人でここまで歩いてきた。カンナに預けた二人とはあの日以来の再会だが、元気そうで安心した。
ただ、コトハが見ている中で戦うのは……かなりやりづらいことになるだろうな。
『続いては、鳴り物入りのゴールデンルーキー! ハルク選手、ユーシス選手と共に、新種モンスターの初討伐に成功したのがなんと学生時代の話!
むず痒さを感じながら日向に踏み出すと、俺にも意外と大きな歓声が起きた。「思ったより小さいんだな」「女みたい」なんて言葉も聞こえたが、今は気にならない。
リーフィアがちゃんと、俺の事前の頼みをきいて「ナツメ」の姓を言わずにいてくれたことに、ただホッとしていたからだ。
「し、シオンさん! 頑張ってください!」
柵に張りついて声援をくれたレンに、俺は笑顔で手を振った。その隣のコトハの目は、じっと、俺の腰の得物に注がれている。
正面に
『最後は、本大会予選ぶっちぎりの一位通過! 可愛い見た目に騙されてはいけません、修羅の如き猛勇で、どんなモンスターも単騎撃破! たった三ヶ月で百を超える
途端にスタンドの一角から、空気の凍るような蛮声が轟いた。
群衆の視線が集まる先には、お世辞にも感じが良いとは言えない集団が客席を占領していた。荷物や股を広げて限りあるスペースを占有し、酒を飲み散らかして、これから出てくる最後の選手に歓声や口笛を送る。みな、一様に赤いバンダナを腕や頭に巻いていた。
レッドテイル――ああいうマナーの悪い客がいれば取り締まるのはウォーカーだろうに、奴ら自身がウォーカーなのだから救えない。
彼らに歓迎され、入場口からゆっくり姿を現したシルエットの小ささに、観客の全てが動揺したことだろう。
身の丈に迫る大剣を引きずり、上半身だけ武装したちんちくりん。凍てついた切れ長の眼は、俺たちに向かって動くことすらなく、ひたすら正面を凝視したまま列に加わった。
『さぁ、役者は出揃いました! それでは本日、この戦いを私たちと共に見届けてくれるスペシャルゲストをご紹介したいと思います!』
ざわ、と闘技場が揺れる中、客席の更に一段高いところにある、三階部分――風になびく国旗とギルド
途端、地鳴りと雷鳴のような歓声で、国全体が揺れたかと思った。
『ルミエールの守護神! 生きる伝説! 世界最強の男、
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