嫉龍王等と堅龍王2/3

(……何かがおかしい)


セバスは腕を組み、顎を手で包むと、静かに思案した。


速龍王と呼ばれ、今や嫉妬の大罪の力を手に入れたレヴィアはともかく、もう1人のこの女は何者なのか?防具と呼べるものは何もなく、局部に張り付いている布1枚で、この戦いに臨んでいる。


「はー!イラつくわねぇ!私たちの攻撃、何一つ効かないの!?」


姿を一切現さず、最高速のまま攻撃を続けていたレヴィアが痺れを切らし、セバスの目の前に立った。


セバスは強襲を仕掛けるでもなく、未だキアラについて考えるが、答えはでなかった。


「考えるだけ無駄、か。気にせず行くか」


「チッ!待ちな、さいっ!」


レヴィアは、考えることをやめ歩き出したセバスに対し、最高速で最硬の拳を叩き込むが、それを受けた等の本人は、痛がるどころか、攻撃を返しもしない。


「効かないのなら、警戒する必要もない。そうして私の周りを羽虫のように飛び回っていろ、レヴィル」


(……レヴィルの片腕が治っていることも気にはなるが、粗暴なこの女に、繊細な魔法は使えないだろう。ならば、もう1人の卑猥な女がヒーラーなのだろう)


攻撃の手段を持たない女、攻撃の手段は持っていても効かない羽虫。セバスは、今の自分ならばこの2人に負けるはずもなく、脅威すら抱く必要はないと感じた。


「行かせませんよ?」


いつの間にか目の前に立っていたキアラが、セバスに向かって声をかけた。


長い髪が大きな胸の先端を隠し、局部には布1枚。武器になるようなものは握っておらず、構えもとらず、身体中に怪しげな文様だけが広がっている。


自分を攻撃する手段を持ち得ないとわかっているセバスだったが、ついつい足を止めてしまう。


(脅威も恐怖も感じないが、一体この圧はなんだ?リクもそうだが、大罪を持つ者は皆こうなのか?)


いくら、自分の中で障害にならないと判断しても、得体の知れない何かを、目の前の女から感じている。


キアラは、立ち止まったセバスに物怖じせず歩いて近づくと、微笑みながらその腹部に手を当てた。


「うふっ」


「なっ!?」


転刀嫉尾てんとうしっぽ!!!!」


瞬間、巨体が持ち上がり、レヴィアの大技も顔面へ叩き込こまれ、セバスは後方へと倒れ込んだ。


「……これもダメなの?」


何が起きたのか、セバスは倒れたまま腹部を押さえながら考えた。


武器を持たない?防具を着ない?戦いに臨む気を持っているのかすらわからない裸の女が、絶対防御を誇る自分の腹に手を当てただけ。


のはずが。


「なんだ、このは」


腹部の鱗は砕けておらず、外傷も出血もしていない。ただただ、触れられた場所に激痛が走っただけ。


(ならば、なぜこの私の足が地から離れた?)


攻撃の手段を持たないはずの女に、何をされたかわからない。それだけでセバスの怒りに火をつけるのは、十分だった。


「この……痴れ者があぁぁぁぁ!!!」


素早く起き上がり、両手を上げながらキアラに迫るセバス。それに合わせ、レヴィアがまた攻撃を仕掛けるが、セバスはお構いなしに突っ込んでいく。


「っ!がはっ」


レヴィアの攻撃を食らったセバスは、あまりのに仰け反ってしまった。


(なぜ!?)


何が起こっているか、全く理解できないまま転倒中であったセバスの横に、いつの間にかキアラが立っていた。


(速い!?)


先ほどまでの自分の評価とは、180度も変わってしまった女が、手刀を振り下ろしていた。


自分を殺す気で放たれたそれは、正確に命を刈り取るために首へ攻撃したレヴィアとは違い、ズレてセバスの顔面へと叩き込まれた。洗練された動きではなく、あまりそういったことはしたことがないであろう、素人丸出しの攻撃。


だがその攻撃は、先ほどと同じく激痛を伴って、その凶悪さを教えてくれる。


「がっ……ぐっ!!」


地面に叩きつけられるものの、さすが堅龍王と呼ばれていたほどの実力者。瞬時に体勢を立て直し、距離をとった。


「あらあら?さっきまでの威勢はどうしたのかしらぁ~?私達を無視して、皆殺すんじゃなかったのぉ~?」


全身を紫色の鱗に包み、人の面影をほとんどなくしたレヴィアが、セバスを煽り始めた。


その姿は、初めの姿とは全く異なっており、それがレヴィアの奥の手だろうとセバスはすぐにわかるが、先ほどまでの攻撃は、文字通り全く自分に効いていなかった。奥の手を出したところで、こんなにも変わるものなのだろうか。


「……ふむ。やはりタネはそっちの卑猥な女なのだろう、なっ!」


その巨体からは想像もできない、レヴィア以上の速度でキアラに詰め寄るセバス。


徹鋼拳潰スクラップ・リボルバー!!」


右腕がさらに巨大に膨張し、目を見開くキアラに振り落とされた。爆発などかわいいと思えるほどの轟音が辺りを包んだと思えば、キアラが立っていたはずの地面も、その向こうにあった建物も木っ端みじん。キアラは肉片だけではなく、血液すら消し飛んだと思い、セバスは不敵に笑った。


「何か嬉しいことでもあったぁ?バ・ハ・ム・ウ・トさ・ん?」


「っ!」


セバスは、背後からその声が消えると、丸太のように大きな尻尾を、振り向きながら勢いよく薙ぎ払う。目の前には嫌味らしく微笑むレヴィア。その端には、こちらの懐に入り込もうとしているキアラ。


(その手には、乗るかっ!)


一気に変わった戦況で、混乱しているセバス。そんなことはレヴィアたちもわかっているだろう。だからこそ、そこを突くためレヴィアが煽り、セバスのヘイトを買うことで、キアラへの意識を薄れさせ、攻撃させようとしているのだろう。と。


(お前の動きなど……)


「がっ!?」


いつの間にか、懐に入り込んでいたキアラが、セバスの腹部へ掌を押し込んでいる。その攻撃に、たまらず身体をくの字に曲げながら、苦悶の表情を浮かべている。


「あ~ん、レヴィちゃ~ん怖ぁ~い~」


わざとらしく手を上げ、大きな尻を振りながらレヴィアのもとへ逃げていくキアラ。


セバスは、キアラの動きをしっかりと眼で追えていた。にもかかわらず、いつの間にか一撃を叩き込まれ、いつの間にか仲間のもとまで退かれている。


それらを踏まえると、キアラはレヴィアとセバスより、攻撃力も機動力も勝っていることになる。が、そんなことあり得ない。


「……どんな魔法を、使った!」


「……まだ気づかないの?」


「なに?」


「まぁ、注意深く見てないと、気づかないわよね」


「……まさか、いや、そんな馬鹿げた」


「そのまさかよ」


自嘲気味に言ったセバスの言葉を遮り、レヴィアがそう言った。


「や~ん、そんな見ないでくださいよぉ~。私、ム・ラ・ム・ラしちゃいますぅ……」


頬を僅かに赤く染めながら、身体をくねらせて艶やかにそう言ったキアラを、セバスはさらに興味深く見つめた。


下着とは到底呼べない前張りと、長い髪の毛が乳首を隠しているだけの豊満な胸。だが、その胸は、最初に服を脱いだ時よりも小さくなっている。


の大罪、キアラと申します。私の力は、強化。私が好意を寄せる人の様々な能力を向上させることができます。そしてその力は、私に欲情している人が、つまり私で興奮してる人が多ければ多いほど溜め込め、強化を強く長く施すことができます」


キアラが自分の能力について、セバスへ丁寧に説明をする。つまり、キアラはその能力を使い、自分を強化して戦っていたということだろう。


だが、もう一つ疑問が残る。


「……ここには私達3人しかいないはずだが?」


欲情が力の源であるならば、キアラにそれを感じる者が近場にいなくてはならない。だが、3人の周りからは、全くと言っていいほど人気を感じない。


そんな疑問を投げかけられたキアラは、自分の身体を抱きしめながら、恍惚の表情を浮かべ、妖艶に微笑みながら言った。


「私、1人でも悦べるくらい、エッチなんですよ?」

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