骸骨達の潜入
「行ったか?」
「ああ。城の中へ戻っていったぞ」
「もう少し待って行動開始よ」
「はいっ」
薄暗い部屋の中、ローブと仮面を被った4人がいた。それはつい先ほど、カーミラを出国したと思われる4人だった。
「それでは、ムルトさんとティングさんは私が案内します」
「儂は住民に避難を呼びかける」
「わかった。召喚したスケルトンには、逃げ出した皆を守るよう伝えてある」
「ワイトもだ。追っ手やモンスターは、骨鳥が眼となって報せるよう言ってあるから、気にせず走り続けてくれ」
ムルトたちは完全に陽が沈んだのを確認すると、宿屋の外へと出ていった。
「それでは、くれぐれも慎重にな」
「はいはい。大丈夫よ。ムルトたちも気をつけなさい?」
「ああ」
「さぁ!こちらです!」
ムルトとティングは、マーリッツに連れられ王城の排水路に向かって走り出す。王城の見取り図を確認して城の内部を確認しても、わかるのは王城のみであり、そこに至るまでの道順などはわかっていない。そこで、昔からこの国に住んでいるマーリッツが排水路までの道案内をし、その後はムルトたちと分かれ、セルクスのように住民の誘導を担当する。
「じゃ、そっちは任せるわよ」
「任された」
レヴィアもセルクスにそう言うと、白銀の翼を広げて空へ舞っていくと、続けてキアラも黒い羽根を背中から生やし、その後を追っていく。セルクスはそんな2人を見送った後、吸血鬼にしても歳をとりすぎた身体に鞭を打ち、国中を駆けまわるのだった。
「……珍しい」
ムルトたちがそんな計画を企てているなど露知らず、セバスが正門へと戻って来ていた。いつもはあり得ないほどに、人の気配がそこら中に漂っている。慌ただしく動き続けるそれらに対し、セバスは怪訝な表情を浮かべている。
「こんばんわ」
「お、おとと」
すると、笑みを浮かべつつあるセバスの前に、優雅に降り立つレヴィアと、慣れていないのか慌てながら着地するキアラ。
先ほど4人が国を出ていくのを見たはずだが、なぜか目の前にいる。さらには何の連絡もなしに王城へ侵入していることから、何らかの狙いがあってここに来たのだろうと、セバスは当たりをつけた。
「……遊びに来た……ようではなさそうですね」
「そうよ。あんたたちの悪事は、とっくに分かってるんだから」
「……ほう?分かっていながら、敵陣に踏み込むのですか?」
「あんたらも、私たちがどんな奴らかわかってるんでしょ?」
そう言って不敵に笑うレヴィアに、セバスも苦笑しながら答えた。
「当然です。全員只者ではなく、人を殺した経験もおありでしょう。いつ街中で襲われるかと気が気ではありませんでしたよ」
「どの口が言うんだか」
「ところで、他のお二方は?」
「私たちが言うとお思いですか?」
「でしょうね……」
レヴィアに代わりキアラがそう答えると、セバスは両手を軽く広げ姿勢を正すと、両腕が徐々に大きくなっていき、綺麗に仕立てられた燕尾服を引き裂いていく。
「では、力づくでお聞きするとしましょうか」
「……っ!あんたっ」
「行くぞっ!」
★
レヴィアとキアラがセバスと接敵する少し前、マーリッツに連れられたムルトとティングは、予定通り排水路のある溜池まで来ていた。排水と聞き、あまりいいイメージは湧かなかったが、実際に見てみると、透き通った青がとても綺麗で、排水ではなく池と言われても不思議ではない。
「本当にここであっているのか?」
「ああ。セルクスに書いてもらった周辺地図とも合っている」
「そうなのか」
ティングは、ムルトが手に持つ地図と、目の前に広がる綺麗な溜池を交互に覗きながらそう言った。
「それでは、私はこれで」
「ああ。ここまでありがとう。後は任せてくれ」
「はい。本当に……本当によろしくお願いします!」
マーリッツはムルトとティングの手を固く握りながら頭を下げると、すぐに走り去っていった。
「よし。行くか」
「待てティング、飛び込んでしまっては音で気づかれるかもしれない」
「それもそうだ。ならばどうする?」
「こうしよう」
ムルトはそう言ってティングを担ぎ、そのまま溜池の中へ飛び降りた。その勢いのまま入水するわけではなく、風魔法でゆっくりと水面の上に着地をしたのだ。
「おお、沈まないのか」
「ああ。このブーツのおかげでな」
ムルトは黒光りするブーツをティングに見せながら、排水溝がある城の側までそのまま歩いていき、そこでブーツに流していた魔力を止め、ゆっくりと水の中へ沈んでいった。ムルトもティングも息苦しいという感覚はなく、侵入経路である排水溝に嵌められている格子を冷静に見つめている。
「これなら、心配なさそうだ」
「そうだな。ティング、話し合った通り、俺が先に行くぞ?」
「わかった」
ムルトはそう言うとローブを脱ぎ、関節から骨を外していった。小さくパーツに分けた骨を、順番に格子の隙間から中に入れ、その間をすり抜けていく。
ティングは格子の隙間から手を伸ばし、その向こうでバラバラになったムルトのパーツを組み立てていた。腕と身体、肩回りを繋げればムルトも自分で組み立てることができるようになり、ムルトの侵入はすぐに完了した。
続いてティングの番だが、預かっていた荷物などを格子の向こうのムルトに手渡し、同じ要領で格子の間を抜けていく。
「よし。完璧だ」
「はっはっは。私とムルトにしかできぬ芸当だな」
2人は装備や荷物も整え、排水路を進んで行く。しばらくすると、空気のある空間に行き当たり、水滴の音で気づかれないようにムルトの風魔法で衣服を乾かし、セルクスの見取り図を頼りに城の中を進んで行く。
「俺たちがいるのは地下だな……このまま真っ直ぐ進めば、階段があるようだ」
「リクがいるのは王室か、玉座か……いや」
「以外と、すぐ近くにいるかもしれないな……」
2人は何もないはずの廊下を見つめ、ティングは微かな不気味さを、ムルトは驚くほどの気持ち悪さを感じながら、敵に気づかれないよう、細心の注意を払いながら城の中を進んで行った。
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