骸骨達と前準備2/2

「失礼しや~す」


「おおキートン!」


「探しやしたよ~!コットンの旦那ぁ~」


そこに現れたのは、コットンと同じ骨人族であるキートン。大きなバックパックを背負っている。


「突然どうしたキートン、何かようか?」


「何かって!皆さんの仮面が完成したんでやすよ!!」


キートンがそう言って、バックパックの中から綺麗に梱包された仮面を一枚ずつ取り出していく。


白地にオレンジ色の太陽が描かれ、目の穴のみがあいている。これはティングの新しい仮面だ。


「今日が出発でやしたよね。いやぁ、ギリギリできやしたが、どこにもいなくて城の中聞きまわりやしたよ……」


キートンは、なにかとぼやきながらもそれぞれの注文通りの仮面を完成させており、それを1人1人に手渡していく。


ダンの仮面は、口元の骨だけで隠す白いスカルマスク。

シシリーは、顔全体を隠すように少しデフォルメした白い骨の仮面。

レヴィアは、ムルトやティングと同じ作りで、風の吹く模様が紫色で描かれた仮面。

キアラは、蝶を形どった黒いベネチアンマスク。

ゴンは、口から上を隠す黒いウサギのマスク。

ミチタカは、口だけを隠す黒い般若面。裏には自分で前世の家紋を彫ったようだ。

ガロウスは、黒と白を使ったマズルマスク。

ミナミは、ハルカとは色違いの黒い狐口面。

サキは、淡い花柄が可愛らしい白いマスク。

ジャックは、飾りがついた黒いガスマスク。

ティアは、信仰するタナトスと同じ黒いペストマスクだが、口だけを覆う形になっている。

カグヤは、額に小さな月が描かれ、目のところだけが薄く横にあけられている白い仮面。

ハンゾウは、口だけを隠す黒い天狗のマスク。所謂烏天狗と呼ばれているものだ。


キートンはそれぞれの要望通りに仮面を彫り、できるだけ希望されたデザインに近づけた。最高品質の材料がレヴィアとガロウスの鱗だということから、ジャックのダブルファンは飾りのようなものではあるが、それでも相応の防御力が備わっている。ちょっとのことでは破壊されることもない。


各々が要望通りの完璧な仮面に喜び、完成品を見せあったり、褒め合ったりしている。


「骨ってかっこいいよな!」


「中々かわいいわね」


「ふんっ」


「艶やかな蝶々ですねぇ……」


「……」


「ここをこう彫って……完成じゃ!」


「……我のでざいん?はレヴィル嬢に任せたはずだが……?」


「ハルカちゃん、お揃いだよ」


「かわいいですぅ~」


「やっぱりガスマスクってロマンだよな!口だけってのがまたかっこいいんだ……!」


「タナトス様とお揃い……」


「すごいですね……」


「おお……俺が使っていた天狗面と遜色ない造りだ……」


ムルトとハルカはそんな皆を見ながら、仮面を装着した。


「ムルト様、とても賑やかでいいですね」


「あぁ……。俺とハルカの仮面も、レヴィの鱗から作ってもらっているしな。 ……皆もレヴィやガロウスの鱗から作られている。その……同じものを皆で持つのはいいことだな。まるで……」


「まるで?」


ムルトはそこで言葉を一旦区切り、改めて皆を見渡し、感嘆するように呟いた。


「仲間、みたいだ」


ムルトは、自分が人でなければ亜人でもなく、ミナミやレヴィアたちにその言葉を口にしてよいものか悩み、小さな声で呟いた。ハルカはそれを聞き逃さず、ムルトの手を引いて皆の輪の中へ入っていく。


「みたい、じゃないです!私たちは仲間ですよ!」


「お?そうだぞムルト。まさか、仲間だと思っていたのは私だけか?」


「寂しいこといってんじゃねぇぞムルト!俺たちの付き合いだろ!」


「あなたと初めて会ったのは私たちなのよ?私たちが一番の仲間でしょ?」


「いーや!ムルトはモンスター!私と一番仲がよい!」


「ふっ。ティング、冷めること言うんじゃねぇよ」


「みんな、仲良し」


ムルトを中心に、皆が口々で言い、笑顔で笑い合う。ムルトは皮膚のない顔でカタカタと音を鳴らすので精一杯だった。


「俺達のチーム名、ポーカーフェイスってのはどうだ?」


ジャックが元気よく提案をした。


「ほら、俺たちは十傑だけどさ、ここにいるコットンさんやカグヤさん、ハンゾウ師匠とか。で、さらにムルトとティングさんたちを加えたチームだよ!」


「おおそりゃいい!俺たちでパーティを組むってことだよな!」


「パーティってよりクランだけどね。どうよ?」


「チーム名?というものをつけるのは賛成なのだが、そのポーカーフェイスというのはなんなのだ?」


「そりゃあな?」


「……なるほど」


「あ!わかりました!」


ジャックの含み笑いに反応を示したのは、ハルカたち異世界組。ジャックはしてやったりという顔でムルトにいってやった。


無表情ポーカーフェイス俺たちのリーダーにはぴったりな名前だろ?」


ジャックが、骨だけで表情のないムルトにちなんでつけた名だ。


「な、なぜ俺がリーダーなのだ!」


「ジャックさん!賛成です!」


「へぇ、中々いいセンスしてるじゃない。私も賛成よ」


「面白いな!我も賛成だ!」


疑問を抱くムルトを無視し、次々に賛同の声が響いていく。

そんな中、ダンがムルトをリーダーにしようとする理由を教えてくれた。


「そりゃそうだろ。俺みたいな木っ端の冒険者が、勇者で十傑であるミナミたちに会うことも、龍王であるレヴィアちゃんやガロウスさんと会うことも、そんな敵同士のはずの皆が大罪のスキルを持つモンスターであるキアラさんやティングさんに会えたのは、全部お前のおかげなんだから。ここにいる仲間は、みんなお前を中心に集まってんだよ」


それを聞き、ムルトは言葉を詰まらせてしまう。


「さぁリーダー!何か一言くれよ!」


ムルトはダンに力強く背中を押され、また皆の中心に立たされた。

皆はムルトの言葉を今か今かと静かに待っている。ムルトはそれを見て、決心し口を開いた。


「あー……みんな、俺が、俺がみんなに出会えたのは奇跡だ。Fランクモンスターだった俺は、バルバル洞窟で何も考えず感じず、静かに討伐されるはずだった。それが今ではどうだ、こんなに素晴らしい仲間に囲まれ、こんなに素晴らしい世界を旅している。一時離れ離れになってしまうが、俺たちはまた必ず全員で集まる。また皆で美味いご飯を食べて、美味い酒を飲んで、それから……」


「ムルト話長いぞー!」


「ムルト様立派ですー!」


少しだけ野次が飛び始め、ムルトは恥ずかしそうに頭蓋骨をかきながら言い切った。


「とにかく!俺は皆に出会えて幸せ・・だ!これからもよろしく頼む!」


ムルトがそう言い終えると、小さな拍手が沸いた。それにも気恥ずかしくなってしまうが、皆ムルトのことを褒め、また笑い声が溢れ始める。


そんな中、まら娯楽室のドアが開かれた。気まずそうに入ってきたのはバリオだ。


「……邪魔して悪いな。時間だ。中庭へきてくれ」


皆で騒いでいる内に時間がきたようだ。ムルトたちは和やかな雰囲気のまま、バリオの後ろをついていった。

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