骸骨達の鎖

「まず、七つの大罪、七つの美徳がなぜ存在しているかだが、遠い昔に神々の争いがあった。何柱もの神と対峙していたのはたった一柱の邪神だ。結果は当然神々の勝利。邪神は封印され、決して解かれることのないよう、次元の狭間へと隔離された。だが、邪神は封印される前に己の魂の欠片を地上に遺していった。その欠片は人類の敵となるモンスターに宿り、また一つに戻ろうと惹かれ合っている。それがお前ら、七つの大罪だ」


ムルト達はバリオの話を静かに聞き、自分たちがどのような因果の中にいるかということを告げられる。


「そしてそれを知った神々は、七つの大罪をこの世から消し去ろうとするが、邪神と戦って疲弊し、地上に留まる力も失い、神界に返っていた。元々神が人間界に手を出すのは禁忌なことだった。だが、邪神だろうと神のしでかしてしまったことは神の間で解決するのが道理、そこで生まれたのが七つの美徳」


七つの大罪は、人間の敵であるモンスターにしか発現せず、逆に七つの美徳は人間でなければ発現しない。七つの美徳でなければ七つの大罪を倒せず、七つの大罪は七つの美徳を倒すために特化しているらしい。


「そして問題になったのが約300年前、邪神が不完全ながら復活した」


「その話なら私も知ってるわ。子供の頃爺連中がよく話していたわ。人間の勇者が邪神を封印したって」


「そう、幾度となく人間に邪魔された邪神が焦れた結果、不完全ながらも復活をしようとしていた。記録には嫉妬と傲慢、暴食の大罪が集まった時点で復活を成そうとしていた。

それを食い止めたのが歴代最強と言われる正義の美徳の勇者、ユウト・カンザキだ。邪神もそれ以来、全ての大罪が集まるまで待っていたと持ったのだが、最近また復活したようでな……」


「バリオさん、それは」


「いや、ミナミが思っているように今どうこうという話ではない。確かに邪神の反応はあったが、すぐ完全になくなったのだ。気のせいだったということで話は終わったが、警戒はしている。

お前らについてはここからだ。邪神の復活を食い止めるには七つの大罪が揃うことを阻止しなければならない。それが美徳の勤めでもある。だがどうだ、いがみ合っているはずのスキル持ちの半分以上がこうして仲睦まじく集まっている」


「何それ、私達に死ねって言ってるの?」


「バリオさん、私の正義の下でも、友を斬ることはしたくはありません」


レヴィアは殺気の篭った、ミナミは厳しい視線をバリオに向けるが、バリオは笑いながら首を振った。


「いやいや、それはお前らも嫌だろう。儂も国王も、力を貸してもらったら後は捨てるなどという考えは一切出ていない。手は打ってある」


バリオは、ムルトとキアラに目線をうつし、指をさした。


「ムルトの大罪とキアラの大罪は、どうやら玉と指輪の中に収まっている。他の大罪も物の中に押し込むことができるのではないか?というのが儂等の考えだ」


「それは、不可能に近いですね」


基本的に話に入らないキアラが、口を開いた。


「不可能、とは?」


「はい、私の色欲の大罪は、確かにこの指輪の中に入っています。私達、|淫魔〈サキュバス〉は代々この指輪を受け継いできましたが、この指輪は特殊な素材で作られています。それは、初代色欲の大罪の胎盤です」


キアラは、指に嵌められた赤黒い指輪を見せながら続けた。


「族長の話では、先祖がそれを気味悪がり、他の道具に大罪をうつそうとしたそうですが、それは叶いませんでした。族長の話では、それぞれの大罪に適した素材があり、それで加工した道具でないと大罪の定着は無理だろうとのことです」


「俺の欲器もそうだ。元々は|深海の多手鯨〈ホエール・クラーケン〉からもらった水晶だ。憤怒がこれに反応したと言っていた」


「なるほど……それぞれの大罪に対応した素材が必要になるのか……キアラは他の大罪について話は聞かされたか?」


「私が聞かされたのは色欲の成り立ちと恐ろしさくらいだったから……多分族長は他の話も伝えられているかもしれないわ」


「そうか。その族長は今どこに?」


「もう、いないわ」


キアラはわざとらしく顔を逸らした。レヴィアは鼻でそれを笑った。


「ふむ……ムルトは?」


「深海の多手鯨たちは殺されたようだ。強欲のエルトの手によって」


ムルトは、いつかエルトと対峙した時のことを思い出し、少し震えてしまう。


「そうか……ひとまず、お前らは殺し合いをよしとしない。無論儂もだ。だから大罪を魔道具に封印し、一生人の手で管理しようということだ。素材については儂等のほうで探すとしよう。だが」


バリオはそこで区切り、緊張の面持ちで続ける。


「素材が見つからず、互いを手にかけるしかなくなった時、どうする?」


誰もそれに答えようとしない。もしも素材が見つからず、邪神が復活を成そうとした時、どうするのか。友と世界、どちらの手を握るのかとバリオは聞いているのだ。

誰もが静まり返る中、レヴィアがだるそうに口を開いた。


「つまりは七つの大罪が集まらなければいいわけでしょ?だったら私達が人里を離れて世界に散ればいいだけの話じゃない。もう会えなくなるかもしれないけどね」


「そう、だな……俺もそれがいいと思う。争わずに平和が手に入るのならば、それでいい」


「私もレヴィちゃんと会えなくなるのは寂しいけど、男がいれば構わないわ」


「お前らは?」


大罪を持つムルト達は受け入れているが、美徳を持つハルカ達は口を開こうとはしていなかった。少し時間を置き、ハンゾウとカグヤはそれに同意し、その後、諦めるようにジャック、ミナミ、ティアも頷いた。

ただ一人、ハルカだけが未だに口を開いていなかったが、顔を上げ、ムルトを見つめて口を開く。


「私は、ムルト様のお側にいられれば……」


「……そうだな、大罪が集まらなければいいだけだからな……素材が見つからなくてもがっかりはしないでくれ、イカロス王国が手厚く支援する」


大罪と美徳の話が終わり、続いて傲慢の大罪と吸血鬼の話に戻った。


「吸血鬼の国を訪れるのには、それ相応の手続きがいる。どんなに急いでも許可が出るのは三日後、早馬でもここから三週間、いくら|龍〈ドラゴン〉でも一週間はかかる。道中の路銀や食糧などもこちらで用意する。急を要する話だが、出発は今から三日後だ。よろしく頼む」


「あぁ。俺達に任せてくれ」


ムルトは物理的にない胸をそらし、自信満々に答えた。


「これから三日間、どう過ごしてもらっても構わない、金や観光に使う金も国から支給する。それでは、会議はこれで終わりだ。解散!」


バリオがそう告げ、長かった一日が終わる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る