骸骨達の友
突如、ムルト達の前に現れたのは大きな壁。壁といっても、よくあるものではなく、ぬめぬめと青く光っている。
(俺はどこかで……)
ムルトは、初めて見るはずの不思議な壁に覚えがあった。いくらか前、ヤマトに向かう船の途中で引きずり込まれた海底で、その壁を見たことがあったのだ。
いや、正しくは壁ではなく、それを持つ巨大なモンスターを。
(あれは|足〈・〉か!)
飛んでいるガロウスとレヴィアをすっぽりと覆うほどの巨大な壁は、ぬめぬめと光りながらうねっている。たくさんの牙のついた吸盤が見え、ムルトはその答えに行きついた。
そう考えている内に、攻撃が壁に届いたらしく、爆音でも破壊音でもないとてつもない音が聞こえてくるが、壁は壊されることもなく、その攻撃を耐えきった。
そしてその壁は役目を果たしたかのように出てきた時と同じように、一瞬で引き戻され、広大な空をもう一度ムルト達に見せてくれた。
巨大な足が引き戻された場所には、一人の男の姿が見えている。
それはムルトの初めての友人であり、ライバル。少し前に信じて送り出した、人間の親友。
「っ!ダンッ!!」
「っ!」
ムルトの声に、誰もが反応した。それはゆっくりと落ちる彼も同様で、空中で身体を捻り、ムルトに満面の笑みを浮かべた。
「ムルトおおおおぉぉ!!!やったぜぇぇぇぇ!!!」
ハルカやティングも息を漏らす中、ダンは飛ぶこともできず、自由落下をしている。本来ならガロウスかレヴィアがダンを受け止めるのだが、二人ともそれをしようとはしていない。
バリオの威圧が残っているわけではないのだが、動こうとはしないのだ。それに、ムルトが焦りだす。
「レヴィ!」
『はぁ……心配性ね。ほら、来るわよ』
龍王騎士の試練を超えた者は、必ずそれを持っている。ダンはそれを超え、結界の中から出てきたのだ。つまり、ダンにはダンの|創龍〈そうりゅう〉がいるのだ。
ダンの持っている宵闇が、白い光に包まれ、その姿を変えていく。ぐんぐんと伸びていくその形は、まるで蛇のよう。頭と思われる部分には立派な鬣と髭が生え、翼はなく、すらりと長い胴体と短い手足。
ダンを囲むように伸びた身体で、ダンをその背に乗せ、その姿を見せた。
『ほう……やりおった』
『あのバカ……創龍じゃなきゃ、即、神龍に祀られるわよ……』
真っ白な頭に、赤い瞳、そこから尻尾にいたるまで、いくつもの色を兼ね備えている。赤、橙、黄、桃、青、茶、紫。
「これが俺の相棒!|虹龍〈レインボードラゴン〉だ!!」
堂々と言い放つダンに、笑いながら涙を浮かべているシシリーが言った。
「……もう!!このバカ!!油断してるんじゃないわよ!!」
「あぁ!そうだったな!まだ終わってねぇ!見せてやるぜ、俺達の超必殺……」
「待ってください!」
そこに横やりを入れたのは、ミナミ。ジュウベエと共にガロウスの頭の上へときていた。ミナミは刀を、ジュウベエは大剣を掲げ、それを示す。
城の上に立っていたバリオはそれを見ると、構えを解き、静かに腕組みをし、城の中へと消えていった。
「ど、どういうことだ?」
「さ、さすがに、S2ランクの龍が二体も飛んでくれば、警告もせずに攻撃してしまうでしょう。私とジュウベエさんを確認して、戻ってくれたようです」
「な、なんだ。じゃあもういいのか……」
ダンは力が抜け、虹龍にしがみついた。
「王国へは後数十分です。バリオさんが私達を見て攻撃を止めたということは、少なからず入国を認めていると思うので、一番広い王城の演習場、そこに着陸しましょう」
ミナミはすぐに指示を出し、皆は入国のための荷物整理をし始めた。
『ガルルルゥ』
「?あぁ。そうだったそうだった」
レヴィアやガロウスと一緒に、ダンを乗せた虹龍も共に空を飛んでいる。虹龍はダンに向かって鳴き声を上げると、ダンは理解したかのように返事をする。
レヴィアとガロウスの間を飛んでいた虹龍は速度を上げ、レヴィアの顔の横にまで迫った。
『ダン?どうしたのよ』
チラリと横を向けば、ダンと虹龍。ダンが龍王騎士の試練を突破したという偉業はあるものの、ここはまだ空の上、祝杯はあげられず、イカロスについてからしようというのが皆の意見だ。
ダンはヘラヘラして何も言わず、レヴィアは虹龍に注目した。鬣も髭も白い虹龍の頭が、徐々に変わっていく。
黒くもなく、明るくもない。虹龍の頭は、後ろ足よりも少し前と同じ色、紫色に変わったのだ。
『あんた、誰?』
思わずレヴィアは警戒の色を出してしまうが、それもそのはず、ダンの創龍である虹龍から感じたのは、日頃自分が感じている気色の悪い魔力、嫉妬の魔力を感じたからだ。
『おいおい、そりゃあねぇだろ。ずっと俺と一緒だったんだからよ。現嫉妬の罪、レヴィルさんよぉ?』
『……あんた、私の前の嫉妬の罪ね?なぜあんたがダンの創龍の中に』
『はっ!そんなことお前には関係ね』
「いやぁ~!話すと長くなるんだけどさ!こいつは嫉妬の罪のジェラスって言ってさ!試練で戦ったんだけど強いのなんので、でも、最後には優しくってさ~俺に協力してくれたんだよ!仲間が欲しかっただけだってよ!本当、可愛い奴だよなぁ~」
険悪なムードが一瞬漂ったが、それを打ち壊すようなダンの暴露。虹龍は驚いたように体をくねらせ、ダンの頭にかぶりついた。
『て、てめぇ!俺がせっかくかっこいい雰囲気醸し出してたのにぶち壊してんじゃねぇよ!』
「い、いててて!!!ごめん!ごめんってぇ!!」
『……フフ』
『……何が面白いんだよ』
『……いいえ。あなた、ジェラスって言うのね。初めて聞いたわ。それに、私と同じものに嫉妬してた』
何かを思い出し、レヴィアは遠い目をした。それを見たジェラスはゆっくりと口を開いた。
『俺達は話し合うようなガラでもなかったからな』
『そうね。私もムルトみたいに話せてたら、もっと早くにあなたの名前を知れて、仲間になれたのかな』
『へへ、無理だったろうな。だが……良い仲間を持った。俺も、お前も』
ダンも空気は読めるようで、レヴィアとジェラスの話を静かに聞いていた。多くの言葉を交わす二人ではなかったが、ずっと一緒だった二人に、きっと言葉は不要なのだろう。
『レヴィア、噛むぞ』
『……いいわよ』
何を企んでるいかわからないが、ダンと共に試練を突破し、ここにいるのだ。レヴィアはジェラスを信じた。
ジェラスはレヴィアの顔の横に移動し、レヴィアの角に牙を立て、噛みついた。
『っ!』
すぐに離れたジェラスだったが、自分の角から血が出ているのがわかるほどの痛みを感じる。
しかし、すぐにレヴィアはジェラスが何をしたのかわかった。
『ジェラス、あなた』
『お前の中にいる俺も俺だ。これからは、もう大丈夫だ』
ダンは何の話をしているかわからなかったが、笑いあう二人に、とても良いことがあったのだな、ということだけはわかる。
『おい!レヴィル嬢!もうそろそろつくぞ!我は街に被害が出ぬようもう少し高く飛ぶ!!』
ガロウスの声が聞こえ、皆が前を向いた。
遠くに見えたはずの王城が、もうすぐそこに迫っていた。
羽ばたきで街を破壊しないようガロウスは高く飛び、レヴィアは城の演習場を探す。
イカロス王国に、ムルト達が到着する。
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