骸骨の胸の内

「それじゃ、アンデッド組、寝ずの番は任せたわよ」


「あぁ。任せてくれ」


「私とムルトに任せれば怖いものなどない!」


「いや、もうあんたら顔が怖いでしょうが」


暗闇の中で怪しく光る骸骨達にレヴィアはツッコミを入れつつ、ログハウスの中へと入っていこうとする。


「ムルト様、私がいなくても大丈夫ですか?」


「む……」


「いいからいいから。ムルト、少し会わないうちにハルカにゾッコンなのねー。でも、こっちはこっちでガールズトークするからっ。ほら、ハルカ行くわよ」


「はい……ムルト様、私は大丈夫ですからね」


「あぁ」


「男組はあっちね」


「言われなくとも」


レヴィアはハルカを引きずりつつ、ゴン達へそう言った。

ゴンはやれやれ、と言った風にジュウベエとミチタカを連れ、女子組よりかはいくらか小さいログハウスの中へと入っていった。


「そうじゃ、ガロウス殿とダン殿はまだ戻ってきておらんのか?」


「ダンはともかく、ガロウス殿がついているのだ。心配には及ばないだろう」


「ダンはともかく、ねぇ」


ゴンは聞こえないような小さな声でそう言った。


「それじゃ、おやすみ」


「あぁ。良い夢を」


「良い夢を」


ゴン達もムルトらへ軽い挨拶をし、眠りにつく。

食事の後片付けも済ませ、明日は朝早く出発するということで皆ログハウスの中に入り睡眠をとっている。

ガロウスとダンは未だ戻ってきてはいないが、そこまで遠くへ行っていないこと、ガロウスがついていることから、あまり気にも留めらずにいた。

焚火を囲んでいるのはSランクとS2ランクのモンスター、ムルトとティングだ。眠る必要のない体ということで、寝ずの番を任された。ムルトはハルカと離れることを嫌がったが、レヴィアの手によって引きはがされることとなった。


「静か、だな」


「あぁ。そうだなぁ」


「今日も月が綺麗だ」


「全くだ」


黒い夜空に見事なまでの青い月が浮かび上がっている。ムルトとティングはそれを見上げつつも、常に警戒を怠っていない。

すると、ムルトがティングへ問いかけた。


「ティングは、人に成りたいと思ったことはあるか?」


突然の質問にティングは一瞬固まってしまったが、すぐに朗らかに笑いながら答えた。


「あぁ。当然あるとも。ムルトもそうなのだろう?」


「あぁ」


「だが、私は人でなくともよいと思っている」


「なぜだ?」


「人でなくとも、共に生きることができるからだ」


「共に生きる?心臓もないのに、共に生きるなど」


「だが同じ時を生きているではないか。ムルトはスケルトンのままは嫌なのか?」


「……この姿は嫌でも恥ずかしいわけでもない。だが、だがなティング、心臓も皮膚もないこの体、悲しくとも涙を流すことはできず、傷がついても血の一滴も流れない。俺はそれがとても嫌なのだ。本当は心なんてものも持っていないのではと思ってしまうのだ」


「皮膚がなくとも、涙を流せずとも、それを悲しいと思えているのだ。心がないことなどないだろう。ムルト、そう弱気になるな。お前には仲間がいるだろう。支え合う人間の仲間たちだ」


「俺は、今この時が一番楽しくもあり嬉しい。しかし人はいずれ死ぬ。俺は一緒に死ぬことができない。それが一番悲しいし寂しい」


「それは自然の理だ。仕方のないことなのだ。仮に不老不死になる方法があったとして、それをハルカやダンにしてほしいと思っているのか?」


「それはない。命というものは、終わりがあるから美しい。ハルカやダンに俺のような苦しみを感じてほしくはない」


「ふふふ。お前は先ほど心がないのではと言ったが、人を想いやる心があるではないか。ほら、自信を持てムルト」


「……あぁ。すまないな。こんな姿を見せて」


「骸骨の姿なんて変わらぬだろう!はっはっは!ジョークがうまくなったか?ムルト」


「はは、そうかもしれない」


重苦しい空気はどこへやら。そこにはいつもと変わらぬ頭蓋骨が並んでいる。命を尊び、人を愛し、人と共に生きたいと思った骸骨達が。

笑いあう二人を月が優しく照らしていると、突如その異変は起こった。


「!!なんだこの殺気は!」


「これは、ガロウスのものか?!」


「ムルト!何があった!」


「ムルト様!ご無事ですか!」


ログハウスからゴンとハルカが顔を出し、その他の面々も次々と外に出てきている。

ガロウスの強大なまでの殺気は大気を震わせ、その影響からか動物たちも我先にと逃げ出している。


「ガロウスに何があったのだ?」


「これはガロウスの本気の殺気よ。ガロウスは戦うのが好きで、基本的に本気を出さないの。一瞬で終わってしまうから。こんなに本気の殺意を放っているのは久しぶりに見たわ」


「レヴィちゃん、つまりどういうことなのかしら?」


「……つまり、ガロウスが本気を出さなきゃヤバイ相手と一緒にいるってことよ」


「なに?俺とティングは何かがこちらに近づいてくる気配など感じていないぞ」


「だから、それほど恐ろしい相手ってことよ。ゴンとジュウベエ、キアラとシシリーはここに待機して警戒にあたりなさい。その他はガロウスのところへ急ぐわよ」


「そんなっ!ガロウスさんのところにはダンもいるのに!待つなんてできないわ!」


「あんたが来ても」


「シシリーは俺が守ろう」


レヴィアがシシリーに対して厳しいことを言おうとしたところに、ムルトが割って入る。レヴィアがシシリーに言おうとしていたことはシシリー本人が一番よくわかっている。

だが、長年連れ添っているダンのことを思うと、ついていかずにはいられない。


「レヴィ、頼む」


「……まぁ、そうね。あんたの気持ち、考えてなかったわ。ごめんなさい」


「……ううん。私も我儘だって思ってる。けど、お願い」


「わかったわ。ついてきなさい。ティング、ここに残ってもらえる?」


「お安い御用だ」


「さ!何があるかわからないわ!気を引き締めていくわよ!」


「「「「おう!!」」」」


ムルト達はすぐさまガロウス達の下へと急いだ。

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