骸骨達は大空を飛ぶ

大空を物凄いスピードで飛んでいく大きな影二つ。

その風圧で木々が吹き飛び、動物たちが被害を受けないよう、その影達は木々が小さく見えるほどの高度を飛んでいた。


『ガロウス、追いついてる?』


『はっ!レヴィル嬢が我に合わせてスピードを落としていることなどわかっているわ!ならば我は食らいつくだけのこと!』


『そう。ならいいわ……って、あんた達、人の背中で随分呑気にしてるわね』


超スピードで空を飛ぶレヴィアとガロウス、その背中にはムルト達が乗っているのだが……。


「見ろハルカ、まるで森の海だ。見渡す限り森、森、森。地平線までも緑が覆いつくしている」


「綺麗ですね、ムルト様。でもほら、あそこからは草原になっていますよ!」


「おぉ、空を飛ぶというのは本当に美しいな。景色がすぐに変わって飽きることがない」


楽しそうに景色を見ながら話しているムルトとハルカ。あまりのスピードに振り落とされてもおかしくないはずなのだが、それをムルトが風魔法で気流を操り、レヴィアの背中に影響を出さないようにしている。

さらに気になるところは、ムルト達はレヴィアの背中に座り込んでいるわけでも、しがみついているわけでもなく、椅子に座っていたのだ。傍から見れば悪趣味な、レヴィア達から見れば見慣れているもので作られている、骨でできた椅子だ。


『人の背中に悪趣味なもの作らないでよね……』


「はっはっは!すまないなレヴィアよ。だがせっかくの空の旅、快適にしたいと思ってな」


「あぁ。ティングの作ったこの椅子、座り心地は悪くはない。それに、レヴィと同じ美しい純白がとても合う」


『あ、あぁ、そう。ま、まぁ快適ならいいわよ。空の旅を楽しみなさい』


不意に褒められたレヴィアは恥ずかしがりつつも、ムルト達が楽しんでいればいいと思い、それ以上は何も言わなかった。それに、後ろを飛んでいるガロウスの方がレヴィアよりも……。


「それにしても、ガロウスの背中のあれはなんだ?」


「ムルト様、あれはログハウスというものですよ」


「おぉ。エルフの国にあるのと見た目が似ているなぁ」


「うふふ。この人たちと一緒にいると飽きないなぁ」


ガロウスの背中に立派に建っているログハウスを見ながらムルト達がはしゃぐ中、キアラはそんな面々を見ながら微笑んでいる。


「だが、姿が見えないのは、寂しいな」


「そうですね」


ムルトとハルカがそう思っていると、ログハウスに取り付けられている木窓が開き、ダンが顔を出した。

ムルト達を見つけると、笑顔で腕をブンブンと振っている。ムルト、ティング、ハルカも大きく手を振り返す。








「おい!ムルトがこっちに手ぇ振ってるぞ!」


ダンが元気よく振り向くが、皆がそれぞれのことをしていた。

ゴンはゆっくりとした動きでミチタカと組手をし、ジュウベエとシシリーは剣と鎧の手入れ、ミナミとサキとティアは優雅なティータイムを楽しんでいる。


「いやぁ、それにしてもやっぱりミナミ達はすごいなぁ」


適当なソファーに座り、ダンがそんなことを言う。

何を隠そう、このログハウスを作ったのはサキである。樹木魔法と創造魔法を組み合わせ、内装までも綺麗に作り上げた。

ちなみに、ガロウスにきちんと許可はとってある。


「私達、国から国を移動する際にはよく使っているんです」


「片付けも楽なので、重宝してるんですよぉ~」


ログハウスは魔法で作りだし、家具などはアイテムボックスから出している。使い終われば家具などはアイテムボックスに戻し、ログハウスは分解し自然に返す。

ガロウスの背中に建てたので、崩すときは地上にいなければダメなのだが。


「ダンさんも王都へつくまでお茶なんてどうですか?」


「そうか時間かかるんだよな……そうだ、ミナミ」


『おい、ミチタカ』


そこへガロウスの声がかかる。

ゆっくりとした動作で組手をしていたゴンとミチタカが動きを止め、そのままガロウスに返事をした。


「どうなされた?」


『お前らは小屋の中で楽しいかもしれんが、ただ飛んでいる我は退屈だ。何か面白い話をしてくれないか』


「ほっほっほ。集中を乱せばレヴィア殿に置いて行かれてしまいますぞ?」


『我はそんな不覚をとらぬ!なんでもいいから話をしてくれ。そうだ、お前の前世など興味がある』


「ふむ、そう言われてものぉ……儂はあちらでも生涯を賭して武術を磨いたからのぉ。なぁ、藤山の」


「そうですね。ミチタカさんは生涯現役を貫き通したと、父から聞いております」


「ほっほっほ。ガロウス殿も武術に興味がおありなら話をするのも吝かではないがのぉ」


『武術に興味がないわけではないが、今は違うだろう』


「面白い話ならダンの話なんてどう?」


「お、俺?!」


「ダンと私はあちこち旅してたし、面白い話もいっぱいあるわよ。特にダンが、って話だけど」


シシリーはその光景を思い出しているのか、笑いを抑えている。


「……私も神殿からあまりでたことはない。興味がある」


「俺も小さい時からずっと殺しばっかだったからなぁ」


ゴンとティアもそれに賛成しているようだ。


『おぉ、小僧が面白いのだ。その話も面白そうだ。我も聞きたい』


それにガロウスも食いつき、ダンが話をする流れになっていく。ダンも別に嫌がっている雰囲気はなく、「そ、そこまで言うなら仕方ねぇなぁ」と言い、話をし始めようとするが、ミナミが小声でダンに聞いた。


「ダンさん、さっき私に何か言いかけていませんでしたか?」


「ん?あぁ、それは……」


ダンは一瞬何かを考えるような顔をしたが、すぐに頭を捻り、笑いながら言った。


「やべぇ!忘れちまった!忘れたってことはそんな大事じゃないってことだ!気にしないでくれ!」


「はぁ、そう。ですか」


「よーし!!んじゃ俺の面白い話聞かせてやるからな!そう、あれは俺とシシリーが駆けだしの頃だった……」


そして始まるダンの昔話。簡単に説明すると、ダンの失敗談なのだが、そのどれもが面白おかしい。納品依頼の物を間違えただとか、オークを討伐しようと立ち向かっていったら肥溜めに落ちただとか、ほとんどがスベっていたが、それが逆に面白かった。

シシリーやゴンに茶々を入れられながら、ダンは熱く語り、皆はダンのバカな失敗に笑みがこぼれる。そんな時が長く続く中、ログハウスが微かに傾いている。


「ガロウスさん、どうかしましたか?」


『あぁ。そろそろ夕暮れだ。もう少し先でレヴィル嬢が野宿をするとな』


王都に早く着きたいミナミ達だが、夜通しガロウス達に飛んでもらうのは申し訳なかった。

一泊挟んだとしても、翌日の昼には王都に到着できるとのことなので、休憩を挟むのは良いと思っている。


しばらくしてガロウスの体が大きく揺れ、地面に降り立ったことを教えてくれる。

皆はガロウスの背中からぞろぞろと降り、魔法でログハウスを地上に移した。

ガロウスが降り立つためにはためかせた翼で周りの木々は吹き飛んでいるので、なかなかに広くなっている。

ガロウスがミチタカに枷を嵌めてもらい、人型になっている頃にはレヴィア達が既に降り立っており、焚火の準備を始めていた。そこへミナミ達が合流し、ログハウスの中をムルトに案内したり、寝床の準備、食事の準備を分担していく。

14人という大所帯ではあったが、ハルカとサキとシシリーのおかげで、その人数分の料理も作れ、皆のお腹は膨れている。


「ふぅ。食った食った」


「美味でございました」


「あぁ、私も早く美味、というものを体験してみたい」


「ティング、俺が黄金の泉までしっかりと案内してやるからな」


「はっはっは。楽しみにしているよ。ムルト」


食後も各々が談笑し、夜を楽しんでいる。

レヴィアとガロウスも脇の丸太に座り、久々の龍王同士、会話が弾んでいた。そこへ、レヴィアが真面目な口調で話を切り出す。


「ねぇガロウス」


「なんだレヴィル嬢」


「あなた、ダンのことまだ名前で呼んでないわよね」


「ダン?……あぁ!ゴンに似た名の、面白い小僧だろう?」


「まぁそうだけど。他にあなたの背中に乗った人の名前覚えてる?」


「そりゃあもちろんだとも!ミチタカにジュウベエだろう?ミナミにサキにティア、それとゴンだ!……あぁ、あと小娘と小僧だな」


「昔と変わらないわねぇ」


「何の話か我には全くわからんが……」


「別に。いいんじゃない?」


人を背中に乗っけるようになったとしても、ガロウスの昔からの癖は変わらないようだ。

ガロウスは、戦士として認めていない者の名前を覚えないのだ。

昔も、ガロウスに名前を覚えてもらうことが龍王に近づく第一歩だと言われるほどに。


そんな所に、ダンが姿を現した。


「あの、ガロウスさん」


「おぉ!丁度お前の話をしていたところだ。で、何の用だ?」


ガロウスは笑いながらダンに問いかけるが、ダンは難しそうな顔をしている。


「実はお話があって……あちらで話しませんか」


「……なんだ、また面白い話でもしてくれるのか?龍王を従えて歩くなんぞ、中々ないぞ?」


少し固まったガロウスだが、ダンをからかいながら立ち上がり、後を歩いていく。

レヴィアはそんなガロウスの後姿を見ながら、小さく呟いた。


「……人間嫌いは治らず、か」


団欒を楽しむムルト達をよそに、悔しそうな表情のダンは、ガロウスと二人、森の奥へと消えていく。

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