色欲の罪2/2
「暴走してしまいましたか……」
「はい。ですが、1割の力であれば相手を廃人にする恐れはないかと」
「はぁ。ですがそれでは満たされないでしょう?ねぇキアラちゃん。正直に教えてください」
「……はい」
キアラは顔を伏せながら正直に言った。
族長はキアラの母親を責めるわけでも、キアラ自身を責めるわけでもなく、優しい口調で話した。
「恐らく、キアラちゃんは性欲というものが薄い。それに対して吸淫力が強すぎるのでしょう。そしてそれは日に日に強くなっていく。1割程度の力で吸淫しても、廃人にしてしまうほどに」
「そ、そんな、それではまさか」
キアラの母親は、今にも泣きそうな顔で族長へ飛びつき、地に頭をつけて懇願した。
「それだけは、それだけはご容赦ください!」
綺麗な顔の母が、必死な形相で族長に土下座している姿はキアラにとって相当くるものがあった。族長は優しくキアラの母の頭を撫でながら言った。
「大丈夫ですよ。あなたが心配するようなことはしません」
「そ、それでは」
「えぇ。手がないわけではありませんが、失敗すれば、あなたの考えている通りになってしまいます」
先程からキアラの母親が心配していること、それはサキュバスの処分の方法である。
サキュバスも元々はモンスターとして迫害されていた過去があり、亜人として認められてからも淫乱、節操がない、悪女などと罵られてきた。
そんな肩身の狭いサキュバスだが、その肉体は高級な肉壺であり、羽は精力剤にもなり、闇市で度々出品されている。そして、その出品をしているのが、何を隠そう同族のサキュバス達なのだ。
無差別に、口減らしで。などどいうことではなかった。
サキュバスの中にも犯罪を犯すものがいる。
性欲が強すぎる故に、男を食い散らかすサキュバスがいるのだ。食い散らかすならまだしも、そのサキュバスは幾人もの男達を廃人にしてきた。
サキュバスとしての性もあるだろう。故意に人を廃人にすれば、罰則がある。それが2人、3人も廃人すれば、同族の手で捕まえ、出品されてしまう。
羽を千切られ、薬で何も考えられない肉塊に変えられる。当然それで幾人もの男を廃人にしたことは変わらないが、物好きな金持ちによってサキュバスの罪自体は消え、お金も手に入る。
子供でありながら、キアラがそんな運命を辿ってしまうと感じた母親は、心から族長に訴えたが、族長はそんなことするつもりはないらしい。
「色欲の指輪を知っていますか?」
族長がキアラの母親にそう尋ねると、静かに頷いて口を開いた。
「私の母から物語は聞いています。実在することも知っています。ですが、それでキアラのこの能力は抑えられるのでしょうか」
「それはわからないわ。効力は物語以上のものがあるしね」
色欲の指輪。それはサキュバスが代々受け継がれ、語り継がれているマジックアイテム。
「色欲の指輪をすると、性欲が増すの。増すって言ってもエッチなことが大好きなのに変わりはないんだけれど、それは好きではなく、狂うほどに。代々性欲の薄いサキュバスに、救済の手として授けていますが、そのどれもが色に狂い、あなたの想像通りの末路を辿っています」
「キアラがそうならなければ、解決するのですね……?」
「……それはまだわかりません。ですが、色欲の指輪をしたものは、大いなる運命に導かれると伝え聞いています」
「物語にはない部分ですね。それは具体的にはどういった……」
「それは私にもわかりません。前任者達は大いなる運命に導かれる前に……」
「そう、ですか」
キアラは半ば置いてけぼりになっていたが、賢い頭で母親達がどんな話をしているかはわかっている。
それに失敗すれば、自分がどうなってしまうのかも、薄々はわかっていた。それでもキアラは生きたかった。やっと一緒に暮らせる大好きな母親の悲しむ顔は見たくなった。
キアラは一度深呼吸し、話に割って入る。
「族長、様、どうなるかはわからないけど、私、頑張ります」
キアラを見つめながら複雑な顔をする2人だが、族長はにこりと笑い頭を撫でた後。
「わかったわ。2人とも、ちょっと待ってて」
2人を残し、どこかへ行ってしまった。
すぐに戻ってきたその手には、赤い絹に包まれた朱色と金色で出来た箱を持っていた。
そしてその箱の中には、ピンク色の水晶がはめ込まれた指輪が入っている。
「これが、色欲の指輪。性欲が強まり、吸淫力が強まり、魔力操作もうまくなる。サキュバスのすべての能力を引き上げる驚異的なマジックアイテムよ。そして大いなる運命に導かれる。キアラちゃん。あなたが使いこなすことを、私たちは信じているわ」
キアラは既に、色欲の指輪の美しさに惹かれている。族長から静かに指輪を受け取り、それを右手の中指に嵌める。
「……覚悟は決めておきなさい」
「……はい」
それからキアラはゆっくりと育った。
日に日に高まっていく吸淫力だったが、それを理性でコントロールしている。
色欲の指輪のおかげもあってか、催淫範囲や人数も想いのままだった。100人を同時に催淫し、微量の精力を搾り取る。
だが、元のキアラとはまるで変わってしまった。
★
キアラが16の歳になった頃。いつものように朝から晩まで数多の男を催淫して貪っていた時。
コンコン
窓を外から叩く音がした。
(……風?いや、なんでここがバレたのかしら)
キアラは色欲の大罪を使い、居場所がバレないように細工をしていた。だが、居場所がバレたところで手はある。
(ここもそろそろ潮時か)
キアラは服を脱ぎ、綺麗な肌を露わにしてから窓の外の人物に向かって、言葉を投げかけた。
「開いてます。どうぞ」
そう声をかけると、窓がゆっくりと空き、その人物が部屋の中へ入ってくる。
「やっぱりこの魔力……色狂いのサキュバスってあなたね?」
(私の魅了が通じないっ?!)
白銀髪をなびかせながら、少女はキアラの目の前へと迫った。
「私は嫉妬の大罪。レヴィア。あなたの名前は?」
キアラの耳に引っかかった、大罪という単語。キアラはレヴィアに促されるまま、静かに名乗る。
「私は色欲の大罪。キアラ、です」
「そう。キアラ、ひとまず空の旅でもしましょうか」
レヴィアはキアラの腕を引っ張り、窓から飛び降りた。キアラが羽を出す前に、レヴィアの背中からは白銀の大きな翼が出ていた。
これが、色欲の指輪の言い伝えにある大いなる運命だと、キアラは思った。嫉妬を名乗る少女に連れ去られたキアラだったが、不思議と怒りや恐怖は感じなかった。
空を優雅に飛ぶ2人を、青い月が照らしていた。
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