勇者と骸骨と仲間

そして、朝日が昇る。


「また……何もなかった……!」


「どうしたハルカ。朝には出発すると言っていたからすぐに準備をしなくては」


「は、はい〜……」


全裸のハルカをよそに、ムルトは淡々と身支度を整えていた。ハルカもすぐに我に返り、そそくさと服を着替えた。


昨日の話し合いの結果、ムルト達はすぐにラビリスを発つことにした。

喧嘩祭りも終わったが、終わってからも盛り上がるのがラビリス。予選を勝ち抜いた選手達を集め、飲み会を開くのが通例だが、ミナミとジュウベエに王都への招集がかかり、予選突破者のほとんどがついていくということで、その話もなくなってしまった。


「よし、ハルカ。行こう」


身支度を整え、荷物を全てハルカのアイテムボックスの中に入れ、ムルトはハルカへ手を差し出した。

昨日のように、手を繋ぎたがっているのだ。

ハルカはそれにすぐに気づき、笑顔で頷いた。


「はい!ムルト様!」





ムルト達は宿代を払い、門の近くの大衆酒場に来ていた。


「おう!遅いぞムルト!」


「おぉ、ダン。早いな。おはよう」


「はっはっは。ムルト達は時間通りではないか?ダン達が早すぎるのだ」


「ほんっとこのバカは。張り切りっぱなしでね、ごめんなさい」


「いいのだシシリー。それがダンのよいところだ」


大衆酒場にはダン、シシリー、ゴン、ティングがいた。

少し待つとミナミとサキとティア。レヴィアとキアラが来たのだが、ティアとレヴィアがムルトとハルカを見て、目を細めた。


「ムルト……」


「なに、それ」


「む?それ、とは?」


ムルトとハルカのがっしりと繋いだ手を2人は凝視している。その視線に気づいたハルカは、勝ち誇った顔をした。


「もう片方は……!」


「私が……!」


ティアとレヴィアがムルトの空いている手目掛けて走り出す。

そして、ムルトの隣の手をとったのは、レヴィア。嫉妬の魔力でスピードを底上げし、高速でムルトに接近した。

それだけで突風が吹き荒れ、店の中が少々荒れてしまったが、そんなことレヴィアには関係なかった。


「ふふーん」


「負け、たっ……」


レヴィアは無い胸を反らし、ティアは両手を地面についてうなだれた。


「む……なんでもいいが、食事にしよう」


「はっはっは!本当ムルトといると飽きないな!」


「ちげぇねえ!」


ティングとダンが大笑いしながら、大きなテーブルに腰かけた。


なぜ皆が大衆酒場に集まっているか、ただ朝飯を食べるだけなのだが、人数が多いからか朝飯を食べ始めるだけでも色々なことが起きる。


ただ、その場にいる誰もが、それを心の底から楽しんでいる。そこには、モンスターも人間も亜人もいなかった。いるのは、仲間だけだ。





「それで、すぐに出発するということだが、準備はできているのか?」


出発前の朝飯をみんなで食べながら、これからのことについて話し合っていた。


「はい。人数も人数ですから、馬車も多く、食糧も買い込まなければいけませんが、皆さんに協力していただくので、私たちが既に用意しています」


「ほう。それはすまないな」


「いえ、ムルトさん達が来てくれるだけで元はとれているようなものなので心配はありません」


「で、ミナミ。馬車はいくつ用意したんだ?こっから王都へはけっこうな距離があると思うが、馬をケチるとすぐへばるぜ」


ゴンがミナミの用意している馬車などの情報を聞く。


「はい。幌馬車を3つ、4頭に引かせるので、12頭ですね。ここから王都までは片道1週間はかかると思いますが、1時間に30分の休憩をとって馬にもあまり無理をさせない予定です」


「休憩込みで8日、9はかかるか」


「恐らくは……」


「俺が転移魔法を使えればなぁ」


「いや!今は使えなくともダンはすぐに使えるようになるさ!」


「あぁ?そうかぁ?やっぱり?未来の英雄だからなぁ!がっはっはっは!!いて!!」


「バカなこと言って話を邪魔しないの!」


シシリーがダンへ拳骨を落とした。

ミナミはそれを笑いながら見ていたが、すぐに真面目な顔に戻る。


「ははは……ですが、やはりそれくらいは時間がかかってしまいます」


「急いでも7日でつけるかどうか。急ぎの用なのだろう?」


「はい。探鳥を送ってきたということは、それだけ大事な話があるということでしょう」


話はまとまってきたが、段々とミナミの顔が暗くなる。それを壊すように、ムルトの腕に自分の腕を絡めながら、骨をかじっているレヴィアが声をあげた。


「ミナミの準備を崩すような提案で悪いけど、私に乗る・・っていうのはどう?」


「レヴィアさんに?」


「ええ。私がドラゴンっていうのは知ってるでしょ?今は人型になってるだけで、ドラゴンに戻ればみんなを乗せて飛べるし、馬なんかよりもよっぽど早いわよ。2日、遅くても3日でつくわ」


「……!レヴィアさんがよければ是非っ」


「でも少し問題があってね……」


バツの悪い顔でミナミの声を遮り、レヴィアが話す。


「私って、大きくないから。乗せれても5人が限度なのよ。ミナミとサキは確定として、あと3人。美徳持ちのハルカ、ティア、大罪持ちのムルトってところかしら。あと、口の中に……キアラ。あとのみんなは変わらず馬車ってことになるわ」


「そう、ですか……」


レヴィアがこの話をすぐにしなかったのには理由がある。ここにいる11人は仲間なのだ。

ミナミとサキのために協力を申し出たのだ。

皆と行動するを共にしたいと皆思っている。

レヴィアの提案は、それができない。

ミナミとサキが急ぎの大事な用ということで、この提案を申し出た。


せっかく集まった皆が、離れ離れになってしまう。


そんな中、あの男が言い放った。


「ミナミ、サキ、先に行けよ。離れるったって、どうせ王都で合流だ!離れていても、心は一緒だぜ!」


能天気に言ったダンを、シシリーが叩くが、シシリーも同じ気持ちだった。


「このバカと同じ考えは嫌だけど、そうね、心はいつも一緒よ」


「あぁ。私もダンとシシリーと一緒だ。ゴンもだろう?」


「ふふ。あぁ」


「決まり、ね」


「ダンさん、シシリーさん、ティングさん、ゴンさん……!」


ミナミは震えながら俯いてしまう。


「ミナミ、昨日に続いてまた泣いたな。せっかくの綺麗な顔が台無、もっと綺麗になっちまうぜ?」


珍しくゴンが茶化した。


「ありがとうございます……!本当にっ!」


「さぁ!そうと決まれば出発だな!」


「っ!はい!」


心がさらにひとつになり、行動を開始する。





「それでは、俺たちは先に向かうとしよう」


「はい」


「使わなくなった馬車の返却とかは任せてくれ」


「俺たちは後から追いつく。期待して待っててくれ!」


「ダン、それ死ぬ時の常套句よ」


「ははは!死なねぇよ!こっちには天下のS2様がいるんだぞ!」


「バカ!大きな声で言うな!」


「いてぇ!!」


ダンとシシリーの夫婦漫才を見ながら、ティングが大笑いをしている。

今生の別れというわけでもないが、どうしてもミナミは暗くなってしまっていた。

それを励ますためにダンはわざとふざけている。シシリーも気づいているし、周りのみんなもわかっていた。


「こっちはティングもいるし俺もいるから安心しろ。少し離れるだけで死ぬわけねぇから」


「はい。先に行ってます」


「じゃ、そろそろ行きましょうか。街中で龍化するのもまずいし、まずは出ましょ」


「はい。レヴィアさん、ムルトさん、キアラさん、ハルカちゃん、ティアさん、よろしくお願いします」


「あぁ」


「はい」


「えぇ」


「うん」


「じゃ!行くわよ!」


ミナミ、サキ、ムルト、ハルカ、レヴィア、キアラ、ティア。


ダン、シシリー、ティング、ゴンに別れ、王都を目指す。


2組が別れようとした時、2人の男の声が聞こえた。


「おぉ!ミナミ!」


「むむっ!レヴィル嬢ではないか!」


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