骸骨と仲間達

青々と茂る森の上空を飛んでいる、1人の男。

蝙蝠のような羽に、漆黒の衣服を纏っている。


その男目掛け、真っ直ぐに向かっている鳥がいる。その鳥は男に並ぶと、スピードを合わせる。男は鳥を一目見て、何をしにきたのかわかった。


「……探鳥か」


蝙蝠の羽を持ち、どこかに向かって急いで飛んでいるのは、ロンドだった。

ラビリスを発ってから、幾度かの休憩を挟みながら、飛び続けている。


「バリオからか。探鳥を使うということは、それほどの要件ということか」


ロンドは飛びながらも、探鳥の足に括られた書簡を取り、読みだした。


『現、王都ギルド本部所属の十英傑

粉砕骨コットン

紅鬼ジュウベエ

黒蝶ラマ

吸血鬼ロンド

泥熊ポルコ

勇者ミナミ、サキ、ジャック

へ、この手紙を送る。

緊急事態が発生した。詳しい話は王都ギルド本部の円卓の間にて話す。

この手紙を確認次第、最短で王都に向かってほしい。


王都ギルド本部 グランドマスター

拳神バリオ』


「……」


ロンドは一通り目を通した。

探鳥を使ってまで十英傑を招集していること、緊急の割には書面に詳しいことが書かれていないこと。そして、千刃烏ジルの名前がないこと。


「そんなことより、早く戻らなければ……お前は自由になっていいぞ」


ロンドは自分の探鳥に触れ、自分の魔力を吸い取った。


ロンドは、王都に向かう気などなかった。そんなことよりも大事なことがあるから。


登録者、ロンドの魔力が抜けた探鳥は、自由の身となった。本来ならば番の魔力のみを登録し、互いの居場所を感知し、狩りで遠くに行ってもその場所に向かうという習性の探鳥だが、既にギルドによって調教されている。


ロンドの魔力が抜け自由になっていたが、好きな場所には飛ぼうとせず、真っ直ぐに自分の巣がある王都に帰って行った。





「とのことです」


そして、ラビリスにある料亭で、ロンドと全く同じ文面を、ミナミは読み上げた。


「緊急事態、か」


「はい……」


「ミナミ達は明日この街を発つのか?」


「そうなりますね。これでも勇者の称号をいただいたSランク冒険者です。バリオさんが緊急の招集をかけるのは滅多にありません」


「そうか」


皆が静かになる中、レヴィアが声をあげた。


「私たちも行けばいいんじゃない?」


「へ?」


ミナミが呆けたような声を出したのを聞きつつ、レヴィアが続ける。


「だってあんた、元々美徳をもったハルカを連れて行くのが指令だったんでしょ?緊急事態って、戦争とかやばい集団暴走だろうし、私たちは即戦力になるでしょ?美徳のハルカと、さらにティアも連れて行けば、無下にはされないと思うわ」


「……しかし、私たちの指令は、ムルトさんやレヴィアさん、そしてキアラさんのような大罪持ちを探すことも含まれているので」


「だから別にいいじゃない。討伐が指令じゃなくて見つけるんでしょ?クリアしてるじゃない」


なんとでもないようにレヴィアは言うが、ミナミは難しそうな顔を変えなかった。


「ですが、万が一にも危険がある場所に連れて行くのは」


「はっはっは!そんなことにはしないのだろう?ミナミ」


そう言ったのは、ティング。ミナミはその問いに答える。


「はい。それは私が必ず阻止します。ですがやはり」


「心配するなミナミ」


ムルトは優しくミナミの肩を叩き、目を見て話した。


「万が一そんなことになったとしても、俺たちは十分に強い。逃げられるさ。それに」


ムルトはミナミ、サキ、そしてこの場にいる皆を見渡して言った。


「この場にいる皆はもう仲間だ。仲間が何かをしようとしているのには、協力したいものだろう?」


誰もがミナミを見つめ、頷く。

そんな皆を見て、ミナミとサキは涙ぐんだ。


「……お願い、します……!」


絞り出すように、ミナミは嗚咽まじりのお願いを口にする。ムルトは頷きつつも笑いながら。


「大所帯で移動は大変だが、この場にいる皆なら、何にも負けない気がするな」


瞬間、皆が笑い出す。

色々あった宴だったが、最後はしんみりしつつも、笑いあって終われた。





そして、明日朝早くにラビリスの門に集合することになり、宴はお開き。各々が宿へと帰った。

同じ宿に泊まっているダンとシシリーは、寄っておきたい場所があるとのことで、月明かりが照らす夜道を、ハルカとムルトだけが歩いている。


「ムルト様」


「む?なんだ?」


「その……嬉しいのですが、なぜ手を?」


道を歩いているハルカとムルトは、手を繋いでいる。今回は珍しくハルカが頼んだのではなく、ムルトが自らハルカの手を掴みにいった。


「……手を繋いでいなければ、遠くに行ってしまう気がして……な」


「……うふふ。どこにも行きませんよ」


「ふっ。そうなのだがな。心配なのだ……」


ハルカはこの幸せを噛み締めつつ歩いている。ムルトは空を見上げながら、ポツリと言った。


「ハルカ、今日は月が綺麗だな」


ハルカにとっては、どこかで聞いたことのあるようなフレーズだった。ハルカは少しはにかみ、応えた。


「はい。今日は、月が綺麗ですね」


ロマンチックなやりとりをし、2人は宿へと辿り着く。装備を脱ぎ、部屋着に着替え、いざ寝ようとしたところ。


「ハルカ……一緒に寝てもいいか」


「っ?!へっ?!」


「その、だな。さっきも言ったが、手を離してしまうと、どこかへ行ってしまう気がして、な」


「えっ!寝るって、一緒のベッドで寝る!ってことですか?!」


「あぁ。その通りだ。嫌だったか?」


「いえいえ!!そんなことありませんよ!ささ!どうぞどうぞ!」


ハルカは寝間着に着替えているが、ムルトは眠る時装備や衣服を全て脱いでいる。裸なのだ。


ムルトがハルカのベッドへ入ると、逆にハルカがベッドから抜け出した。


(……暑いのだろうか)


そんなことを考えるムルトを尻目に、ハルカはそそくさと服を全て脱ぎ、全裸になった。


「ムルト様!寝ましょう!」


「あぁ。明日は早い」


全く寝る気配のないハルカとは違い、ムルトの眼窩から青い炎が消えた。目を瞑ったのだ。ハルカは舞い上がり、ドキドキと胸を高鳴らしている。


(月が綺麗ですねって言ったんだもん!これは……完全に!!)


ハルカの脳内は花畑状態だった。


当然、ハルカの思っているようなことは起きず、朝が来る。

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