骸骨と祝杯

喧嘩祭りの表彰式が終わり、ムルト達は料亭に来ていた。


優勝賞品の聖龍の雫は、ロンドが持ち去ってしまい、なかった。

副賞である白金貨1枚、それに高価なマジックアイテムをいくつか進呈された。準優勝者や、準々優勝者の賞品もあったのだが、ムルト以外の皆が辞退したことや、ムルトに全てを送る。という言葉から、全てムルトが受け取っている。


「やっと一息つけますね……」


「全くだぜ」


「ははは。私は楽しかったがな。顔を隠さず堂々と歩けるのが、こんなにも気持ちいいとは」


料亭に来るまでに、大勢の人たちに囲まれ、追われ、声をかけられ続け、一向に辿り着くことができなかったのだ。そして、今なぜムルト達が料亭にいるかというと、人数が多すぎるためだ。

ムルト、ハルカ、レヴィア、キアラ、ティング、ゴン、ダン、シシリー、ミナミ、サキ、ティアがいる。

喧嘩祭りが終わったからといって、すぐにラビリスを発つわけではない。ムルトの喧嘩祭り優勝祝い兼進化祝いをすることになったのだ。

全員が入れる広さの料亭、個室もある店をゴンがすぎに調べ、集まっていた。


「さて、現状確認だな……」


「いやいや!まずは乾杯だろ!」


「ダン、みんなここに来るまでヘトヘトなのよ。一息つきましょうよ」


「そんなことねぇよ!俺もティングと一緒で楽しかったぜ」


「おぉ。ダンもわかるか!ふふふ。恥ずかしがって身を隠したゴンとは大違いだ」


「べ、別に恥ずかしくなんかなかったわ。嫌なんだ、人に囲まれるのが、ってそんなん言ったら空に逃げたあの嬢ちゃんも同じだぞ!」


「はぁ?私はあんたと違って隠れてないじゃない。元暗殺者だかなんだか知らないけど、元なんでしょ?堂々としてなさいよ!」


「はっはっは!ゴンよ!その通りだぞ!」


「……ちっ」


「ふふ、シシリーさん、私もサキも人に囲まれるのは慣れていますから大丈夫ですよ」


「はい。大丈夫ですよっ」


「はぁ。ミナミもサキも……うちのバカが調子乗っちゃうじゃない……ごめんね、ティアちゃん」


「ん……」


大所帯も大所帯。あちらこちらで声が上がり、それが止まることはない。

ムルトは自分の手を見るのをやめ、その光景を微笑ましく見ている。


洞窟で人間から隠れ、独りぼっちで過ごしていた時からは想像もできない光景だった。

あの日、世界の美しさを教えてくれ、狭い洞窟から広い世界へ連れ出したくれた男のおかげだ。

その男が、ムルトの視線に気づく。


「まぁ、とにかく、ムルト!喧嘩祭り優勝と、進化!おめでとう!」


「おめでとう!」


「おめでと」


「おめでとうございます!」


「これで私に近づいたな!」


「お前を討伐できる奴がいるなら見てみたいぜ!」


「おめでとう」


口々にお祝いの声が聞こえる。ムルトは恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが、それと同じくらい嬉しい気持ちでいっぱいだった。

ムルトは恥ずかしがるように頭を掻きながら、素直な気持ちを伝えた。


「みんな、本当に、ありがとう」






その後は、ダンとミナミが手際よく料理や飲み物を注文し、それが運ばれてきてから乾杯をした。

各々楽しく食事をとっている。ティングは味覚がないため、咀嚼のみしている。


「ところでムルト、そろそろその別嬪さん2人を紹介してくれよ」


ダンが、肉を頬張りながら、レヴィアとキアラを指さした。


「へぇ、あんたわかってるじゃない」


「うふふ。ありがとうございます。今日は私で一泊どうですか……?」


「え、あ、でへへ……いっつ!!」


キアラをいやらしい目で見ていたダンの太ももを、シシリーが力強くつねったようだ。


「それは私も気になるな。聞いたところ、そのお嬢さんが暴走したムルトから、私を守ってくれていたのだろう?感謝する」


「そっちの龍の嬢ちゃんが強いのはわかるが、エッチな姉ちゃんは街の外のアンデッド軍団攻略の要になったんだろ?どんな強さか俺も気になる」


ダンとは違い、ゴンは鋭い眼差しで、2人の強さを粗方把握しているようだ。


ムルトとハルカ以外はレヴィアと会うのは初めてだ。ミナミとサキも会っているが、あの時はハルカに夢中であまり印象は強くない。

キアラに関してはムルトとハルカさえも初見だった。


「レヴィアについては」


「レヴィ」


「レヴィ……については俺から軽くなら説明できるが、そちらの人はわからない。レヴィもみんなと会うのは初めてだ。改めて互いに自己紹介しようじゃないか」


「おぉ!それもいいな!せっかくの宴だしよ!」


ダンが調子よく言った。


「んじゃ、まずは俺からだ。ダン。今はBランク冒険者だ!だがすぐにS3ランクになって伝説の英雄になる男だ!次、シシリー!」


「……このバカとパーティ組んでるシシリーよ。同じくBランク。このバカはこんなこと言ってるから、私がついてないと心配ね。……少しは成ってもらいたいけど……」


シシリーは後半声が小さくなっていったが、無事に自己紹介を終える。


「ちなみに、ダンとシシリーは俺と話した初めての人間なのだ」


軽い自己紹介の後に、ムルトによる軽い補足、出会いの経緯などを加える。

順当に、ハルカ、ミナミ、サキ、ティング、ゴン、ティアと自己紹介をする。

ムルトの自己紹介も終え、とうとうレヴィアとキアラの番がくる。


「初めまして。レヴィアよ。ムルトとはちょっとだけ旅をしていたわ。途中で別れたけど、私がいなくなったあとでも、こんなにいい人たちに巡り合えてて安心したわ」


レヴィアは一人一人の顔を見渡しながら言った。


「種族は龍。白銀龍。ムルトと同じ、大罪を持ってる。私は嫉妬の大罪よ」


「初めまして、私はキアラと申します。種族は淫魔サキュバス。レヴィちゃんやムルトさんと同じ、大罪人です。色欲の大罪ですので、お役に立てると思いますよ」


蠱惑的な笑みを浮かべながら、男性陣を見渡す。鼻の下を伸ばしているダンは、シシリーにまたつねられ、ゴンは少しだけ赤くなっている。ムルトとティングは無反応だ。


「キアラやめなさい」


「うふふ、楽しくなちゃって」


キアラの体から、少しだけ桃色の魔力が出ている。


「よーし!みんなのことも知れたし!改めて、かんぱーい!!」


各々グラスを交わし、食事の続きが始まった。

レヴィアがダンに近づき、耳打ちをする。


「あんたがムルトと初めて関わった人間でよかったわ」


「ふっ、ありがとうよ」


ムルトの知らないところで、ムルトを大切に思っている者たちが打ち解けていっていた。


「よし、楽しく仲良くなったところで、ムルトの進化の結果でも聞こうではないか!」


「おぉ!それもそうだな!」


「私もムルト様の新しい種族が気になります!」


「そうだな。ティングも進化したことだし、ティングのことも見よう」


「おぉ!私も未知の力を感じるからな、知れるのは有難い」


「おーいみんな!ムルトの月読に注目ー!」


「ふふ、俺の目を見たところで何もわからぬがな」


楽しい雰囲気のまま、ムルトは月読を使い、自分、ハルカ、ティングのステータスを見た。

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