骸骨と合流
「はぁ……ふぐぅ!!」
「シネ!シネ!シネ!シネェ!」
ムルトはゴーグを物のように掴み、何度も何度も地面に叩きつけている。
ゴーグの手足は引き千切られており、そこから漏れ出ている煙も、段々と弱々しくなっていっている。
「随分と様変わりしちゃったなぁ。おい。ごはぁ!」
「コロス!キサマダケワゼッタイニコロシテヤル!」
ムルトの頭蓋骨は真っ赤になっている。眼窩に灯る青い炎が目立って見えるほどに。
怒りに囚われたムルトは、一方的な暴力をゴーグに振るっている。最初こそ、強欲と暴食の罪で自身を強化し戦っていたゴーグだったが、途中からそんなことは無意味だと悟った。削ったはずのムルトの側頭部は、いつの間にか再生している。ただその箇所は黒ずんでいるが。
「ぐぅ!がっ!かはっ!おっ!んん!!」
ムルトは何度も何度もゴーグを叩きつける。
「ハルカワ、ミナミワ、ダンワ、オレガマモル。ニンゲンオマモル」
「くっふぅ。ハルカってやつはぁ!守れてねぇじゃねぇかよぉ!はっはっはっ!!」
「ダマレェェェ!!!」
ゴーグを地面に叩きつけ、馬乗りになった。
両の拳を組み、それを何度も何度もゴーグの頭に叩きつける。その度にゴーグの体は跳ね、地面に亀裂が入り、盛り上がる。
軽口を叩いていたゴーグの全身からは力が抜け、黒い煙はゴーグの体から解き放たれ、霧散した。
その後を追うように茶色と黄色の魔力が漏れ出て、ムルトの中に入ろうとしていたが、それは叶わず。そのまま魔力は霧散していった。
「シネ!シネ!シネ!」
何度も何度も振り下ろす。ゴーグの甲冑は原型を留めておらず、バラバラと壊れていく。
しばらくすると、ムルトは殴るのを止め、肩を呼吸で大きく揺らし、落ち着いた。
ゴーグはピクリとも動かなくなっていた。魔力もない。黒い煙のようなものもなく、ただの鎧の抜け殻と化していた。
「コロサナケレバ……ヒトオ、マモラナケレバ」
ムルトは立ち上がり、辺りを見渡し、ハルカ達の方を見つめ、歩き出した。
「っ!ムルトさん!あいつはっ」
「コロシタ」
「……よかった。ハルカちゃんの仇はとれたんですね……」
ミナミも、サキも涙を流している。
ムルトはハルカの死体を見つめ、固まった。
そして、ポツリと言葉を漏らした。
「コロサナケレバ」
その呟きはその場にいる皆に聞こえている。
「ムルト、さん?」
ミナミはムルトを見上げ、同じように言葉を漏らす。ムルトはゴンの横に寝かされているティングを見つけ、その頭を掴んだ。
「ムルト、おい、まさか」
「コロス」
ムルトはティングの頭を掴み、勢いよく地面に叩きつけた。
「おい!!」
ゴンはムルトの体に飛びつき、それを止めようとするが、止まらない。
ムルトは拳を固く握り、ティングの頭めがけて振り下ろそうとした。
「やめてください!」
サキが覆い被さるようにティングを庇う。
ムルトの拳はサキの顔面スレスレで止まり、その拳を引っ込め、また口を開いた。
「ヒトオ、マモラナケレバ、イケナイノダ」
「ティ、ティングさんは仲間ですよ!」
「ヒトデハナイ」
「おいおいおい、待てよムルト。そんなこと言ったらお前も人じゃねぇだろ!」
「オレワ……!」
ゴンの言葉に、ムルトは自分の手のひらを見つめながら震えだす。骨で出来た手。
顔を触れば、骨格がわかる。皮膚はなく、血も、涙も流れない。
「ムルトさんは大罪に飲み込まれているようです」
誰が見ても、いつものムルトではないことはわかる。投げ捨てられた半月をそのままにし、話し方も違う。ただ、すぐに暴走せず皆を守ろうとしてくれている。そこだけが優しいムルトがまだ残っている状態。
緊迫した中、倒したはずのモノの声が聞こえる。
「う、うぐ、うぐぐぐ」
ゴーグは完全に生き絶え、ゴーマもセルシアンも消えた。形を成しているのは、ただ1人。
「ゴーパ……私が確かに」
亀のように蹲っているゴーパが、動こうと必死に体を動かしているのだ。
ミナミはゴーパの魂を斬ったと思っていたが、そうではなかった。
ゴーパの硬さは、ミナミの無敵の剣撃を持ってしても破ることはできなかった。
確かに効いてはいた。だが、ゴーパはそれを上回る硬さを引き出したのだ。
その硬さはミナミ同様、発動することで一時的に動けなくなっていただけ。筋肉はおろか、口一つきけないほどに。
それがやっと今、少しずつ解けてきた。
「うぐぐぐ……ゴーグぅ……」
ゴーパから漏れ出たのは、亡き仲間の名前。
体を動かせずとも、意識は残っていた。
ゴーグが美徳の1人を殺したことも、その後ゴーグが圧倒的な暴力を前に倒れたことも、聞こえていた。
「コロス……」
ムルトはティングを一旦保留し、今もなお動けずにいるゴーパに近づいた。
「よくも……ゴーグ……ぅ!」
瞬間、鋼を思い切りハンマーで殴ったような音がする。
ムルトがゴーパの頭を殴りつけたのだ。
ゴーパの頭は、地面にめり込んでいる。
「『堅く』」
「フン!」
ムルトは御構いなしに何度も何度も殴りつける。
「『固く』」
「フン!」
「『かた、く』」
ゴーパはまだ体を動かせず、それでも対抗しようと、体を固く、硬くしていた。
だが、ムルトの攻撃は繰り返すほどに強くなっていく。
鋼を殴るような音は、段々壁を殴るような音に変わり、壁を殴るような音は、段々木を殴るような音に変わる。
少し経つと、水に浸かった布を殴るような、乾いた音が響く。
その頃にはゴーパは何も言わなくなり、地面の亀裂の中には真っ赤な水溜りができていた。
「コロス……」
ムルトは静かに立ち上がり、改めてティングを見つめた。
「ジャマオスルノデアレバ、ゲガオシテモラウコトニナル」
「はは。こりゃやばいな」
正直言って、ゴンもサキも魔力は尽きかけているし、ミナミは動けず、ティアは魂縛りの魔法で動けない。
ティングを守れる者がこの場にはいなかった。
「ハルカ……」
拳から滴る血が、真っ赤なムルトのアクセントになっている。
ムルトに大切な仲間を傷つけてほしくはなかった。
その時、大きな魔力がこちらに近づいてくるのがわかった。
その魔力は異質で、ムルトと似たような魔力。大罪の魔力に間違いはなかった。
「くそっ。こんな時に新手かよ」
絶望的な状況。ムルトがなんとかしてくれるとしても、その後はすぐにピンチが襲う。
その存在は天井に空いた穴から勢いよく入ってきて、地面に激突した。
勢いよく舞う土煙の中から、その声は聞こえた。
「あら、やっぱりムルトだったのね。随分とイメチェンしたじゃない……っていうのは冗談で」
土煙の中から姿を現したのは、銀髪のツインテールに、浅黒い肌。肌の所々には、鱗のようなものが浮かび上がり、頑丈そうだが面積の狭い鎧をした少女が立っていた。
「完全に飲まれちゃってるわね……可能性にも気づかないほど」
少女は全身に紫色の魔力を纏い、拳を握り、構えをとった。
誰も少女を見たことがないが、その少女が敵ではないことはわかる。
いや、ムルトとハルカはその少女を知っている。だがムルトはそんなことなど考えられない。
人間以外は敵に見えているのだ。目の前の少女、少しだけ旅を一緒した少女のこともわからない。
「あんた達。もう少しの辛抱よ。ハルカはきっと助かる」
少女がそう言うと同時に、ハルカの体を青白い炎が包み込んだ。そしてそれは金色に輝き始める。
「あ、あなたは?」
ミナミは突然現れた少女に問いかける。
少女は紫色の魔力を拳に集中し、全身を鱗に包みながら答えた。
「私はレヴィア。嫉妬の大罪人にして、ムルトの相棒。ってところかしら」
ウィンクして答えたレヴィアに、ムルトが飛びかかった。
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