ロンドVSティング2/2
「……なぜ、影がある?」
思わず口に出してしまった疑問の言葉。
それはロンドに聞こえていた。
だが、ロンドはその問いとも言える呟きに答えず、身を低くし攻撃の姿勢を見せる。
「遊びは終わりだ」
「ふむ……道化芸、
ティングがそう唱えると、大小様々、色形の違うワイト達が生まれ出す。明らかに骨の大きさがおかしい。足が長く、手の短いもの、手足が短く肋骨や恥骨が巨大なもの、姿形の違うおかしなワイトが数十体。ロンドの召喚した影犬と相対する。
「ふん、気味の悪い」
「それはこちらのセリフだ。不死族なのになぜ影をもっている?」
ロンドはその問いに答えようとせず、体を動かす。
「遊びは終わりと言ったはずだ」
「ふむ。ならばこちらも本気を出そう。
ティングは腕を広げそう言うと、ティングが召喚していた曲芸団員達の体が赤黒く変色していく。
それは、今いる可笑しな道化や羽帽子のワイトだけではなく、すでに粉々に砕かれているワイト達の骨も赤黒く変色していた。
そしてティング自信も。
「
「予選でも使っていた魔法か。俺がそれを使わせると思っているのか?」
ロンドは、予選をどのブロックよりも先に突破し、控え室で各ブロックの戦いを見ていたのだ。だからティングがこれからどんな魔法を使おうとしているのかも知っているし、その魔法を完全に発動させるには時間が必要なことも知っている。
そして魔法が完全に発動する前に阻止しようとしたのだが。
「ちっ」
ロンドは舌打ちをする。
真横からナイフが自分の顔めがけて飛んできたからだ。そのナイフを投げたのは何者なのかは知っている。羽帽子のワイト。だがそのナイフの投擲速度は先程のそれとは違った。
余裕を持って避けることはできたが、無視することはできない。羽帽子のワイトを粉々にしようとそちらを向く。
「ふっ……遊びは終わり。と言ったものな」
そこにいたのは羽帽子のワイトだったが、先程とは投擲速度も風貌も違う。
赤黒く変色しているのもそうだが、ジャグリングをしていない。
そしてどこから出したのかわからないが、数十本ものナイフを宙に放り投げていた。
「影纏……」
羽帽子のワイトの宙を舞っていたナイフが落ちてくる。それがワイトの手元に近づき……
投擲される。
「蝕影触!!」
ロンドの影が触手の様に浮かび上がり、目の前から迫る数十本ものナイフを弾こうとする。
「ちっ!」
だが羽帽子のワイトは、目の前の
「くそっ!影犬は何をしてっ。ちっ」
影の触手を自分の手足のように扱いながら、上下左右から迫りくるナイフの嵐を捌きながら、先程召喚した自分の味方は何をしているのか見ようとし、舌打ちをしてしまう。
「キャウンッ」
どう見ても体のバランスがとれていない可笑しな道化。だがそれは互いに互いの体のパーツを交換しながら影犬達と戦っていた。
影犬に腕を噛み砕かれれば、他の道化が腕を投げ代わりになる。肋骨が砕けた道化がいればその手足を自分のものに。
手足を砕かれれば他の道化がその道化の背骨を持ち、メイスやムチのように武器として使っていた。
可笑しな道化は数を減らしていないように見える。
(くそっ。いいように遊ばれてやがる)
内心で焦るロンドをよそに、ティングは合体魔法を発動させていた。
「ワイトキング、ティングの名の下に、その魂、体を我と一体にせよ!!」
両腕を広げるティングの下に粉々に砕かれた骨。破壊された羽帽子のワイトや壁男達の骨が集まり、ティングを飲み込み、新しいモンスターへと変貌していく。
「多骨一体。がしゃどくろ」
ティングは、会場の天井に届くのではないかと思うほどの巨大な骸骨に成った。
「ちっ!それで勝ったと思うなよ。
無数のナイフを捌きながらも、影から新たなものを召喚する。
黒塗りの鬼とも言えるような風貌。
金棒のようなものを手に持った鬼が3体。
飛んでくるナイフをものともせず、羽帽子のワイトに飛び込み、粉砕していく。
『いや。我らの勝ちだ。……勝利を掴む前に、聞いておきたいことがある』
「……」
ロンドはティングの言葉を無視しながら、黙々とワイト達を破壊していく。
『まだ勝つ可能性があると思っているのだろうが、それは不可能だろう。影魔法には、相手の動きを止める影縫い、自分の影、相手の影に潜むことができる潜影。だが影縫いは我に効かない。影がないからな。そしてそれは潜影も同じ』
「……動きが止められなくても、相手の影に潜めなくても、自分の影があるぞ?そこでお前の攻撃を凌げばいい」
ティングのことを無視していたはずのロンドが口を開いた。ティングはそれを聞き微かに笑い、また口を開いた。
『それが無理だということを自分がよく知っているだろう?我々
「黙れ!!!」
取り乱したようにロンドが叫び、ティングの言葉を切った。
「それがどうした!!俺が負ける要因にはならない!」
『……ふむ』
不死族であるワイトキング、ティングに影はない。それはスケルトンであるムルトも同じだ。だが骨人族であるコットンには影がある。スケルトンやワイトと見た目がほとんど同じの骨人族が、亜人に分類されているのはそのおかげでもある。
だが、ロンド達吸血鬼は元々不死族。亜人として認められたのは、その努力の甲斐あってだ。モンスターとして認識されていた吸血鬼達はその知能、主食が人間の血ではないということもあり亜人として認められた。
「……粉々に砕いてやる」
怨嗟にも聞こえるほどの低い声。
ロンドの
『もう終わらせよう』
ティングは巨大な壁のようにも思える両手でロンドを掴もうとする。
「この程度で俺を潰せるとでも思っているのか!!!」
ロンドの大きく膨らんだ影がティングの両手を受け止める。
『潰せるなどと。全く思っていない。が』
ロンドの影をがっしりと掴むティング。
『勝敗はリタイアとギブアップだけではない』
「っ!なっ!」
ティングは、膨らんだ影ごとロンドを掴むと、場外へと押し出す。
ロンドは呆気なくも場外に膨らんだ影ごと出されてしまった。
そこへ実況の大きなマイクが響いた。
『ぬおおぉぉぉっとおおぉぉぉ!!ロンド選手!!じょーーー!!!がいー!!!失格です!!第3回戦はティング選手の作戦勝ちだぁぁぁぁ!!!』
実況のその言葉と共に、ロンドの影は小さく、がしゃどくろはバラバラに崩れ、召喚したワイト諸共塵のように消えていく。
「……はっ!くそっ!くそっ!く……貴様……正々堂々とはよく言ったものだな!」
ロンドは自分が負けたことを実感し、信じられないほどに取り乱す。
「私はただ、良い戦いをしよう。と言っただけだ。私には実に良い戦いだったと思うが」
「木っ端風情が……!!!」
ロンドの目は血走り、猟奇的に鋭い歯が見え隠れしている。
「良い戦いと思われなかったのも、それはそれで良いのだ。なぜなら私は
「モンスター……風情がっ……」
怨嗟の声をあげるロンドに、ティングは何も言わず、ステージを後にした。
(モンスター風情。か。否定はできんな)
微かに傷ついた
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