ロンドVSティング1/2

会場のボルテージは既に上がっていた。

今から始まる試合を合わせても残り2試合。

喧嘩祭りの大詰めと言っても過言ではないほどの歓声に、ティングは困惑する。


「ふむ……すごいな」


「怖気付いたか?」


「ははは。そんなことはない」


ロンドが挑発するようにティングにそう言うが、ティングは笑って返した。


「人の世に出て間もないが、どこをとっても良い。人とは、営みとは、こんなにも美しい」


「……お前もあのスケルトンみたいなことを言うんだな」


「ムルトのことか。ムルトが私をこの世へ連れ出してくれた。生きるということを教えてくれたのだ」


不死族アンデッドのくせに生きる……か」


「む?お主こそ不死族ではないか。吸血鬼だろう?お主も私達と同じモンス」


「俺は亜人だ!!」


突然取り乱すロンドにティングは驚いてしまう。同時にティングは疑問を抱いた。


「亜人とはエルフや獣人種のことを言うのだろう?吸血鬼は私達と同じ不死族。それも高位のものだったはずだ」


「……それは数百年も前の話だろう」


すぐに落ち着きを取り戻したロンドがティングへ向かってそう言った。


「吸血鬼は吸血鬼族としてちゃんとした亜人と認められている。も、モンスターと言われていたのは遠い昔だ」


「そうか……時は流れる。ということだな」


雑談とも言えるような話を2人がしている内に、それぞれの選手紹介のようなものが終わっていた。

既に試合開始のカウントダウンが始まろうとしている。


「良い戦いをしよう」


「……そうだな」


カウントダウンは順々に行われ、試合のゴングが鳴り響く。


瞬間、ロンドが駆けた。

距離を詰めようとするロンドだったが、ティングはそれを予想し、ロンドとは逆に後ろに飛び、手を前に出す。


不死者達の曲芸団デッドリー・サーカス!」


ティングが立っていた場所から、大きさや見た目の異なる骨系モンスター達が次々と生まれ、ロンドの行く手を阻んだ。


影刃シャドウ・ソード


ロンドはブレーキをかけることなく、魔法を発動させ、その中へと飛び込んでいく。

ロンドの影が刃物のように伸び、行く手を阻もうとするモンスター達を切り刻んでいく。


「そう急くことはない。曲芸サーカスは楽しんでこそだ」


後ろに飛んだままのティングが手を叩き、不敵に笑った。


「地上曲芸、的当て、壁男達」


ティングがそう言うとバラバラにされたモンスター、そして新たに生み出されたモンスター達が腕を、肩を、骨を組み、大きな壁になる。


「小賢しい」


ロンドは影刃でそれもろとも切ろうとしたが、横から飛んできた刃物がそれを止めた。


「……」


刃物が飛んできた方向を見る。

そこには、緑色のシャツに緑色の短パン、緑色の羽帽子をかぶり、数本のナイフでジャグリングをしているワイト・・・がいた。


「最初の演目は的当てだ。ナイフを投げるのは、我が曲芸団サーカス一のナイフ使い。羽帽子のワイト。そして狙う的はロンド、お前だ」


骨の壁の奥にいるであろう姿の見えないティングの声が聞こえた。


その声を合図に、目の前のジャグリングをしていた羽帽子のワイトの腕が動く。


「ふん」


飛んできたナイフをロンドは影刃で弾く。

高い音を立ててそれを防いだ。

羽帽子のワイトは次々にナイフを投げるが、その全てを弾いた。


「……舐めているのか?」


「お気に召さなかったか?」


「巫山戯るのも大概にしろ」


「楽しんでもらえなかったのならば私達の力が至らなかったからだ……ならば、これならどうだ?」


その瞬間、風切り音が聞こえる。

ロンドは即座に反応しそれを弾いた。床に落ちたのは1本のナイフ。だがそれは目の前の羽帽子のワイトが投げたものではない。

ナイフの飛んできた方角を見ると、そこにはもう1体の羽帽子のワイトがいた。


「二体だけではないぞ?」


ロンドは辺りを見回す。気づけば、最初の羽帽子のワイトと同じ姿形をしたワイトが7体。ナイフでジャグリングをしながらロンドを捕捉している。


「……ふん、曲芸団サーカス一が7体いるようだが?」


ロンドは先ほどティングが言った言葉を繰り返し、鼻で笑った。


「ふふ。笑ってもらえたのであれば、それで十分!早速踊ってもらおうか。

不死者達の曲芸団デッドリー・サーカス、演目的当て、狩人達の愉快な訓練ナイフダンス・ザ・ハンターズ


ティングが手を叩いたのを合図に、面白おかしくジャグリングをしていたワイト達が、一斉にナイフを投げつけ始める。


「遅い」


全方向から迫り来るナイフをロンドは避けながら、弾きながら羽帽子のワイトに近づき殺そうとする。


だが、横から大きな白い玉に乗った小さなワイトがそれを邪魔する。


「ちっ。今度はなんだ」


白い玉は無数の骨でできている。

その玉に乗った小さなワイトが愉快に跳ねながらロンドを押し潰そうと迫るが、動きが鈍く、容易に避けることができる。だがそこにさらに羽帽子のワイトのナイフが飛んでくる。


「地上曲芸、玉乗り。面白いだろう?」


「いや。全く」


ロンドはナイフを避け、まずは玉乗りをしているワイトに狙いをつける。


「影纏・巨影」


ロンドは、拳を握り、それを玉乗りしているワイトに向かって繰り出すが、それは届かない。はずだった・・・・・


拳の届いていないはずの玉乗りのワイトは、まるで巨大なハンマーにでも殴りつけられたかのように粉砕された。

ロンドの体に大きな変化はない。


(何が起きたっ?!)


ティングは自分の曲芸団員が謎の攻撃で破壊されるのを見て、つい動揺してしまう。


「遊びは終わりだ。写影・影乱針」


影纏という魔法がどういうものなのかわからないティングだったが、ロンドの攻撃は止まらない。ロンドの影が大きく膨らみ、形を持って、ナイフを投げ続けていたはずの羽帽子のワイト達を次々と砕かれていく。


ロンドはその場から動いていない。

だがワイト達は一斉に攻撃された。


(今のは……)


その攻撃のおかげか、先ほど何が起こったのかを理解することができた。

玉乗りのワイトを粉砕した空を切る拳。


あの時、ロンドの影が変わっていたのだ。


地面にあるロンドの腕の影が変わっていたのだ。その時、ロンドの腕の影は、巨人のように巨大な腕の影になっていた。

その腕の影が玉乗りのワイトを粉砕したのだ。


(だがおかしい……)


ティングは考える。


「そちらが数でくるなら、俺も数で対処させてもらう。影犬」


ロンドの影から真っ黒な犬が数十匹も出てくる。


ティングはそれらを見て、先程からの疑問がさらに加速する。

影魔法というものがあるのは知っている。ロンドがそれを使っているのも。

だがおかしいのだ。


ティングはその疑問を口に出す。


「……なぜ、影がある・・・・?」


ティングは、自分と同じはずの種族の男、ロンドを見た。


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