ハルカVSティア1/2
『おぉぉぉぉっと!一体全体どういうことでしょう!!試合開始から5分ではありますが!2人とも動きがありません!!』
試合開始のゴングが鳴ってから、2人は一歩も動いていなかった。
武器を構え、相手を見据えている。
ただそれだけだ。
2人は互いに互いの強さを知っている。だからこそ微塵の油断もなく、注意深く相手のことを観察していた。
時は流れ、10分ほど経った時、ハルカの魔力が膨れ上がる。
「きて」
ハルカがそう口に出すと、ハルカの周りに吹雪が出現し、それが人の形をとった。
純白のドレスに、雪のように白い肌。
髪の毛やまつ毛までが真っ白。ハルカの固有魔法。氷獄の姫の、ユキだ。
『任せ』
ハルカの魔力を糧に召喚されたユキだが、ユキがそう言い終わる前に、既にティアは動いていた。
ハルカの魔力が膨れ上がった時、ティアも魔力を極限まで練り上げていたのだ。
「骨者崩れ」
ティアの背後から、ステージの半分以上はあると思われる骨の壁が溢れ出し、土砂崩れのようにハルカに襲いかかった。
ハルカはそれを目視し、別に魔力を練り、魔法を放つ。
「
『はいはいっ!
頭上より降り注ぐように崩れていた骨達は、ハルカの魔法により、足元から凍結され、巨大な氷像のように固まった。
そして続け様に繰り出されたユキの魔法が、ティアを襲った。
猛吹雪がティアを包み込み、ティアは巨大な氷の柱の中に閉じ込められる。
姿が消えていないことから、致命的なダメージではなかったようだ。
『仕留めきれてないわ!』
「はい!」
氷の中のティアは、いつものローブを身に纏っているティアではなかった。頭には頭蓋骨を被り、手足の周りには鎧のように骨が巻きついている。
「
氷の中にいるはずのティアから聞こえた魔法。ハルカとユキはすぐにそれがどんな魔法かを知ることになった。
ティアを閉じ込めていた氷柱にヒビが入り、ティアを中心にスケルトン、ワイト、バンシー、ゾンビ、スカルドッグなど、多種多様のアンデッドが飛び出してくる。
氷柱は崩れ、数多のモンスター達がステージを埋め尽くした。
「そっちが2人なら、こっちは1000体」
ステージの半分を埋め尽くしたアンデッド達は主の命令を待っている。
グルグルと喉を鳴らし、今か今かとハルカのことを見つめている。
「ユキちゃん」
『わかってるわ』
「これでも、諦めない?」
ティアは、ハルカが多勢に無勢になれば、戦意を喪失できるかとも思っていた。
労力を使わず勝てるのであれば、それが一番いいと思っているのである。
だが、ハルカは諦めてはいなかった。
「ムルト様のため、ムルト様が見てるんですもの。諦めません!」
「そう。じゃあ……行って」
「「「GYAOOOO!!」」」
ティアの言葉に呼応するように、数多のアンデッド達がハルカに襲いかかる。
「ユキちゃん。お願い」
『言われなくても、やるわよ』
ハルカは、ユキと手を繋ぐ。
ハルカはひんやりと冷たい掌を。
ユキは優しく温かい掌を。
互いに感じ、互いに通じる。
(ずっと見てきた。ムルト様の戦い方。大罪スキルとの付き合い方。だったら私も。私の美徳スキルも……!)
ハルカの掌から眩く白い魔力が溢れ出し、それがユキに注がれる。
ハルカの固有魔法である氷獄の姫、ユキはハルカの魔力の親和性が高い。そのため、ハルカの魔力が体に入ってくることがわかる。
その魔力とは、聖天魔法、そして、堅固の美徳。
『
ユキは猛吹雪を生み出した。それは、コロシアムを包み込むほどの猛吹雪。観客達は服を抑え、吹雪の風に耐える。
何人かは屋内に避難したようだが、その吹雪は、普通の吹雪とは違うところがあった。
観客達は、そのいくつかの違いに気づいた。
「この雪、冷たくないぞ」
「あら」
「本当だ、温かい。それに、よく見ると……」
「綺麗……」
その吹雪は冷たくなく、温かかった。
それに雪は白くはない。
光輝く金色だ。
「「「GIAAAAAAA!!」」」
ティアの魔法によって召喚されたアンデッド達が雪に触れ、苦しみ悶えた。
「何が……まさか」
「そうです!……そのまさかです!」
ユキが発動しているこの吹雪に、攻撃力はかいむである。強いていうなら、風が強いだけ。吹雪は冷たくもない。
「聖天魔法の、癒しの力」
「その通りです!」
吹雪には、人を癒す力があった。
雪の一粒一粒が、回復魔法のようなもの、人に害はないが、命を持たないアンデッドにとって、それは毒にしかならない。
ティアの召喚したモンスター達は悶えながら次々と消えていく。
「はぁ、はぁ、これで後はティアちゃん、だけですね」
「……私が倒されるのが先か、あなたが倒れるのが先か」
「ふぅ……」
ハルカの顔色はよくはない。
理由は、この吹雪と、ユキである。
ハルカが魔力の調整をできるようになったとしても、ユキを長時間出しているのは辛いものがあるし、ユキが今使っている聖結吹雪は長広域型回復魔法。その大半の魔力をハルカがユキに流している。
『……バレてるわね』
「……後は力の押し合いですね」
『速攻で片をつけるわよ』
「……はい!」
「後3分って、ところ?私の、勝ち」
「まだです!」
ハルカは、ティアがアンデッドを出せないよう、ユキが継続的に聖結吹雪を発動できるように魔力の大半を分け与え、手を離した。
聖結吹雪ではない吹雪が吹く。
それは優しく、柔らかく、優雅にハルカの身を包み込んだ。
「まだ奥の手が……」
ハルカのローブに雪が纏わりつく。
それは決して不恰好ではなかった。
絹のようにきめ細やかな雪が、ハルカのローブを純白のドレスのように彩り、ハルカの持つ蓮華には氷が張った。
持ち手の下は氷柱のように伸び、蓮華のついた杖の上から生える氷柱は途中から折れ曲がる。
クリスタルのように透き通る氷が蓮華を包み込み、生まれ変わった。
「
「……」
死の神を信仰するティアは、見慣れているハルカの武器を見て、少し嬉しくなる。
ハルカの持つ武器、それは、鎌だった。
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