骸骨と暗黒魔法

次の日、俺はフローラとラロッソと共に渓谷近くの森に来ていた。俺はそこで2人から魔法の使い方を学んでいた。正確に言えば、暗黒魔法の使い方だ。


「私がムルトさんに使った紫線という魔法がありましたよね?」


「あぁ」


「ムルトさん、あれは何属性だと思いますか?」


「雷属性ではないのか?それとも下級の風か?」


「はい。半分正解です。属性は雷、ですがもう1つあります」


「それが今から教える暗黒魔法だ」


フローラがラロッソの言葉を遮り発言をする。自信に満ち溢れた顔で言おうとしていたラロッソは少しだけ寂しそうにし、両の指をツンツンと合わせていた。


「雷が紫色だったのはそういうことか?」


「はい。その通り。まず、魔法にはそれぞれ特性があります」


それについては俺も知っている。

魔法の基本的な種類は

【火】【水】【風】【土】の4属性

他には魔族のほとんどが持っている【闇】

人間族に多く見られる【光】

そして稀に発現する特別な属性の魔法などがある。


【火】は簡単にいうと攻撃力、破壊力の高い魔法が多い。

【水】は川の流れのように受け流す力、魔法を受け止め、力を逃す。

【風】は機動力、自己強化や、空を飛んだりなど、応用が効く。

【土】は防御力、土壁などを作り出し、相手の攻撃を食い止める。


これは基礎のようなもので、上級魔法や最上級魔法になると攻撃に転用することができたりするものも出てくる。


「はい。そのような認識で間違ってはいません。光や闇の特性については?」


「光は癒し、闇は破壊だろうか」


「そのような認識で間違いはありませんが……そうですね、そこの木にダークボールを放ってみてください」


「あぁ」


俺はフローラに言われた通り、目の前の木に手をかざし、ダークボールを生み出し放つ


大きな音を立てながら木が横に倒れた。木の腹は消し飛んでいる。


「それでは私も」


フローラは同じようにダークボールを放つ。俺と同じように木の腹を消し飛ばす。


「ムルトさんは暗黒魔法が危ないものだと思っていると思いますが、それは間違いではありません。ですが、ムルトさんは更に強くなりたいのですよね?」


「あぁ。その通りだ」


「なら、暗黒魔法は避けては通れませんね……私は今から先ほどと同じ魔力量でダークボールを放ちますが、一工夫加えます」


フローラは手を前にかざし、翼を2枚手の近くに寄せる。するとダークボールは燃えるように火を出し、フローラの手から離れ、木へと衝突する。


爆音とともに木々が消し飛んでいく。衝突した木の周りにあった木々までもが消し飛び、火が木に燃え移っていた。ラロッソは水魔法を使いそれを消火する。


「炎か?」


「はい。ダークボールに下級の火の魔力を混ぜました」


フローラはそう言ってはいたが、破壊力から見て上級、それか最上級のフレイムボールのような強さだった。


「力が増した?」


俺の答えを聞き、フローラがびっくりしたように目を見開き、嬉しそうに言った。


「その通りです!一目でよくわかりましたね。そうです、闇魔法は破壊ですが、暗黒魔法は増幅、魔法の力を増すことができるのです」


フローラはラロッソに合図をし、ラロッソが笑顔でそれに応える。

右手にバチバチと鳴っている雷を生み出し、左手にゆらゆらと浮かぶ暗黒の魔力を浮かべる。両手を合わせ腕を伸ばし指の先にそれを集中させ、木に放つ


「紫線か」


「そうです。雷閃に闇の増幅を乗せ放つ。本来の白色から紫色に変わるので紫線と名付けました」


「名付けた?」


「そう、魔法とは想像力、自分のやりたいことを魔法で再現するのだ。暗黒魔法はそれの手助けをしてくれる。ムルトさんは何か強化したい魔法などはないのですか?」


「そう、だな……」


俺自身、あまり魔法は多用しない。MPが少ないということもあるが、基本的には剣で戦っているからだ。

俺は腰にぶら下がっている半月を見つけ、抜き、魔力を纏わせる。


「剣を、さらに強く」


「それでもできますよ、まずは普通の魔力を纏わせます」


俺は半月に炎の魔力を纏わせる。

薄紫色の透き通った刀身が真っ赤な炎に包まれる。


「そこに暗黒の魔力を混ぜるのです」


フローラに言われた通り、暗黒魔法の魔力を剣へと乗せる。黒い魔力が奔流となり、炎に乗り移る。俺は燃え上がる炎をコントロールしながらそれを馴染ませる。

暴れるように燃え上がっていた炎は大人しくなり、桶に張った水のように、半月の形に合わせ薄く広がっていた。


「これで強化されたはずです。試し切りしてみますか?」


フローラは地面に手をつき、翼を近づけ魔法を発動させた。地面が盛り上がり、大きな鉄壁となった。


「鋼鉄魔法と暗黒魔法を合わせたものです。生半可な武器では切ることができないものです。どうぞ」


「あぁ」


俺は端から半月を差し込む。半月が鉄の壁に吸い込まれていってしまった。

いや、貫通しているようだ。

俺は下へとゆっくり半月を下ろす。まるで無抵抗のようにスーッと入っていく


「驚きました……これほどの斬れ味とは、良い剣ですね」


「あぁ。褒めてもらえて俺も嬉しい」


「剣についてはいろいろ試してもらうとして、魔法の練習をしましょうか」


「確かに、それもそうだな……」


「ムルトさんは魔力コントロールがうまいですし、大変ではないですよ。応用の効くものをお教えいたしますので」


「ふむ。よろしく頼む」


俺はフローラとラロッソに基礎や応用を教え込まれながら、魔法の開発に勤しんだ。


それから時間はあっという間に過ぎ、いつの間にかあたりは真っ暗になっていた。


「そろそろ食事の時間ですね。帰りましょう」


「そうしましょうか、ムルトさん行きましょう」


俺はそう言われ空を見上げる。そこには美しい月がのぼっている。


「あぁ……少しいいか?」


「何でしょうか?」


2人して顔を合わせ、不思議だという感じで俺を見てきた。





「そういえばムルトさんは絶景を見にここに来たんでしたね」


「あぁ」


「案内もできず申し訳ないです。ですが、これだけでよろしいのですか?」


「あぁ。とりあえずはこれだけで十分だ。近いうちにここを経ってしまうからな」


に昇りながら俺たちはそんな会話をしていた。

そう、俺たちは今空を飛んでいる。月に向かって真っ直ぐに、冷たい風が心地よく、耳に語りかける風も気持ちがいい。

そして1番楽しみにしているのは、俺たちの後ろにあるものだ。


「そろそろ良い頃合いかと」


「そうか。それでは」


フローラに言われ、俺たちは空の途中で止まり、後ろを振り返る。


そこに広がっているのは、今俺が世話になっている天魔族の住処がある場所、渓谷だ。


地上には緑の木々、そして茶色の大地、それらの中心にはそこが見えないほど暗い亀裂が入っている。

まるで龍の目のようだった。

外側からだんだんと色が暗くなっている渓谷は、それだけで色使いに拘る芸術家が描いた1つの作品のように見える。

こんなにも美しい景色を見れるのは空を飛べたからだ。


「初めて見ましたが、確かに美しいですね」


フローラがおっとりとしたような表情でそれを見る。俺は感動していて、言葉出てこなかったが、改めて感動しつつ、言葉を捻り出す。


「美しい……」


「私もそう思います」


3人で満足するまで渓谷を見下ろし、時々月を見上げる。抱きつけるほど近くにある月だ。嬉しくてたまらなかった。


「あ!ムルトさん、もう食事の時間過ぎちゃってます!」


「そうなのか?」


「はい!ハルカさんたちがきっと待ってますよ!帰りましょう」


「あぁ。それは仕方がない。早く行こう。そうだ、競争をしないか?」


俺は纏っている風に暗黒魔法を混ぜる。

俺を包んでいた半透明の風が黒みを帯び、少し禍々しいものになる。


「それはいいな」


フローラもやる気のようで、自分の翼に闇を纏わせた。


「よし、行こう!」


「え!ちょっと!待ってくださいー!!!」


俺は今までにない速さだったので、1着で帰れると思ったのだが……


「ふふ、まだまだ工夫できますよ」


フローラに抜かされてしまった。

まるで何かを噴出しているかのようにどんどんと加速していく。正直追いつけないほどだ。


(魔法はまだまだ奥が深い)


俺はフローラとラロッソから今日学んだことを寝る前に復習することを決めた。

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