骸骨のフルスイング
「ふん!!」
憤怒の魔力を右腕に纏わせ、身を低くし懐に入り、下顎に思い切り一撃を食らわせた。だが、憤怒の魔力は途中でかき消え、ただのアッパーになってしまった。
(それでも、骨を砕くには十分な威力なのだがな)
先ほどのようにソイツは消えず、上を向いていた顔を下げ、俺を見つめ、抱きついてきた。
「俺にはきかないぞ」
拘束力はあまりなく、俺はそれを振りほどき、足払い、体勢を崩したところで首の骨を掴み、腰骨を蹴り上げた。
軋んだ音をあげながらソイツを打ち上げる。
落ちてきたところに、顔面へエルボーを炸裂させる。
ガシャガシャと音を立て転がっていくが、頭蓋骨を破壊することはできなかったようだ。
木にあたり、転がる勢いが死んだソイツはよろよろと立ち上がり、俺を一瞥した。
やつが接触した木は根元から折れた。土煙はやつを覆い隠してしまった。
「硬いな……戦闘力や思考がない代わりに、防御面が高いのか?」
ただの予想ではある。だが、突然後ろに現れて抱きついてくるということは、何らかの転移魔法を使えるのだろうか?それとも……
瞬間、やつを包み込んでいた土煙が、僅かに揺らめく
(これはっ?!)
その土煙の揺らぎは、中から何かが飛び出したかのような動きをした。何が飛び出したか考える頃には、そいつがすぐ
「うっ!」
腕を鞭のように使い、俺の頭を狙ってくる。俺は両腕を顔の前にあげ、ガードをした。
「はっ!」
横から蹴りつけ、上体を崩し、距離を保つ
「思考力はないが、防御力とスピードがずば抜けているのか。一瞬見えなかったぞ」
そう言ったとしても、何も答えない。俺を見据えていたと思っていたら、またもや超スピードで飛び込んでくる。
月読を常に使ってやつの動きは見ている。
そしてハンゾウから教えてもらったことだが、筋肉や、どこが緊張し、どこが動くか、という相手の動きを予測する戦い方を叩き込まれていた。
ハンゾウと稽古をしている時は月読を使うことを禁じられていたが、今は月読も併用することができる。つまりやつの動きは
「手にとるようにわかるぞ」
右足で踏み込み、左足を軸にしながら、先ほどの腕を鞭のように使ってする攻撃を繰り出すようだ。
俺はやつの攻撃を左腕で受け、そのまま流れるように左腕を右へと受け流す。
やつの攻撃を左腕で受けたことで、体が右へと回っていく。俺はその回転を利用し、右腕で裏拳をやつに放った。
重い音がした。やつは、自分がした攻撃の衝撃をそのまま自分へと受けている。それに俺の回転と腰の捻りによって、数倍かは上がっているはずだ。
「砕けない、か」
相当な硬さだ。だが
「硬さならば俺も負けてはいない」
固有スキル、凶剛骨、レベルも相まって相当な硬さになっているはずだ。
そして俺は思い出す。
(骨は溶けない)
やつと距離を置き、俺は自分の肋骨を2本外し、しっかりとそれを握る。
「即席のメイス、俺たちの弱点、打撃武器だ」
自分の骨を握りながら俺はやつを見つめる。
「はっ!」
動いたのは俺だ。距離をつめ、下から殴りつける。
半歩引いて避けられてしまう。
俺は左手に持つ骨で突きを繰り出した。尖っているわけでも、勢いがのっているわけでもないが、やつの脊椎に当たる。
そしてバランスを崩させる。
俺はもう一歩間を詰め、両肩に思い切りハンマーを振り下ろす。
硬いものと硬いものがぶつかり合えばどうなるか。それは容易に想像できることだ。
より硬いほうが、もう一方を砕く
「どうやら、俺はお前より硬いようだ」
大きな音を立て、やつの両肩が砕けた。
やつは後ろに跳びのき、思い切り距離をあける。
思考することはないと思っていたが、やつは明らかに怒りを覚えていた。
姿勢を低くし、唸るように顎を鳴らしている。
やつの動きや姿勢を見て、俺はやつが次にどう動くかを予想し、そしてそれは月読でその予想を確かなものにする。
「お前の動きは……」
俺は両手に持っていた肋骨を合わせ、両の手で持ちしっかりと握り込み、半身になる。
体勢を少しだけ低くし、肩に担ぐようにその骨を構えた。
俺の予想の通りにやつは身を低くしたまま、やつの最大の武器であるスピードを使って、頭をから俺に飛び込んできた。
「見えている!!」
俺は飛び込んでくる動きをしっかりと把握し、それに合わせ脇をしめ、思い切りメイスを振り抜いた。
俺の肋骨のバットと、やつの頭蓋骨が交差する。
派手な音を立て、やつの頭蓋骨は粉々に砕けていた。
★
「よぉ!やるなぁムルト!!」
「あぁ。これでも俺は強い方だと思っている」
「ああ強ぇよお前は。ま、相手がこいつでなけりゃ、俺も十分強いがな!」
「あぁ。こいつは俺でなければ倒せないだろうな」
「とりあえず、こいつはもう近づいてもいいのか?」
「ナイフか矢を貸してもらえないだろうか?」
「あぁ。ミカイル」
「どうぞ」
ミカイルから矢を受け取り、既にただの骨に返ったやつの近くに置く。だが矢は朽ちることなくその場に残る。月読で周りの魔力の流れを見たが、やつの周りにもしっかりと魔力が舞っていた。
「大丈夫なようだ」
「そうか、それじゃ、とりあえず証拠品としてこいつを国へ持って帰るか。ミカイル」
「はい。細かく砕けたものは私が風で運びましょう。バルギークは体を」
「よいしょっと、ムルト、国に帰ったらまだまだ大変だからな、覚悟しておけよ」
「ははは。エルフの国に危機が訪れなくてよかった」
「お前のおかげさ、きっと報酬も出るから、期待しておけよ」
「別に大丈夫なのだが……期待しておこう」
「ムルト様、どうぞ」
俺は肋骨を元に戻し、ハルカからローブなどを受け取り、着替えた。
そして角の生えたスケルトンの残骸を持ち、バルギーク達とエルフの国へと戻った。
エルフの国の外から見る世界樹は、途方もなく大きく、遠く見える。
だが、俺たちはそれに迫り、触れるほどにまで近づける。
届かないものだと思っていたものに、辿り着くことができるのだ。
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