罪を分けられた者達
「円卓の間に集まレ」
「ん?急にドうした」
真っ暗で、所々が欠けており、戦闘の痕まで残っている城の中、2人の男が話をしていた。
「試験体1号の反応が途絶えタ」
姿勢を正し、抑揚のない声で話をする男、衣類を身につけておらず、裸だ。
裸といっても肌が見えているわけではない。
骨なのだ。骸骨。ムルトと同じくスケルトンの類いのモンスターなのだろう。
骨の体だが、ひとつだけ違う。目元、眼球だけが生々しくギョロギョロと動いている。
「試験体?あぁ、あの出来損なイか。ちゃんと辿り着いたのか?」
その骸骨と話をしているのは、全身甲冑に身を包んだ男、青年のような若い声だが、話したり動いたりするたびに、体から黒い煙のようなものが溢れている。
「わからない。その報告モ含めての会議だ」
「含めて、か。この王城に近づいてるやつも関係ある話かな?」
「恐らく」
「わかった。行くヨ。もうみんな揃っているのかな?」
「わからない。俺が呼んでクるよう言われたのはお前だけだ」
「どこにいるかもわからないやつもいるしな、まぁ、待つのも悪くないか」
2人の異形の男は、仲間達が集まっているであろう円卓の間へと向かった。
★
円卓の間、先ほどの広間などとは違い、部屋の中が暗いところ以外はなんとも綺麗で整頓されていた。掃除はされていないようで、埃はいろいろなところにあるが。
「さて、集まってもらった理由ワわかっているな?」
ズタボロのローブを纏う男が立ち上がり、そう言った。
「この城に近づいている人間のことだろう?また捕まえて俺たちの仲間にすればいい」
そう言ったのは、牛の頭を持ち、人間の体を持つミノタウロスと呼ばれるモンスターの男だ。普通のミノタウロスとは違い、体の所々が溶けたり欠けたりしているが
「その話もするが、まずは先に試験体1号の話をしよう」
「我が王が創りだされた絶朽の進徒か」
「その通り、その試験体の反応が消滅した」
その言葉に円卓へ座っている面々が少しばかり驚いている中、大きな笑い声が聞こえた。
「あっはっはっは!!!簡単にやられちまったのか!やっぱり
「王のお創りになられたものを笑うでない!!」
「つってもよぉ!そいつは特殊能力と防御力とスピードしか取り柄がねぇんだろ?この中の誰だって負けはしねぇよ」
「確かにそうだ。だが、やつに対抗できる技を持っているということはそれだけの手練れ。そして、試験体1号は王都へ辿り着いていない」
「あ?」
大笑いをしていた男が明らかに機嫌を損ねたようにそんな声を出す。
「試験体1号は王都に辿り着く前に何者かの手によって消え去った」
「はっはっは!!まさか旅人かなんかにそんなに強いやつがいたってことか?」
「かもしれん。だが、反応が消滅したのは、エルフが住んでいると言われている森、そこにはハイエルフもいるらしい」
静観していたうちの1人が手を挙げた。例に違わず、体の所々が溶けたり欠けたりしているが、その者は
「エルフでは試験体の能力に太刀打ちできないと思うが、どうだろうか」
「私もそう思う。だが、試験体1号が消滅させられたという事実があるということは、何らかの手段があるはずだ」
「何らかの手段?試験体は骨以外のものを溶かし尽くすのだろう?それは魔力でさえも、聖天魔法ですら倒すことができないと言っていたはずだ」
「そうだ。だが、ひとつだけ天敵の魔法がある」
「それはなんだ」
座っているものが興味を示す。誰もが知らない情報だからだ。それもそのはず、この情報を知っているのは彼らの王と、王の他に試験体の命令権を持っているズタボロのローブの男だけなのだから。
「反魂術だ」
緊張が走る。反魂術、暗黒魔法のひとつではあるが、使えるものは限りなく少ない。使えるのは死霊術師が多いと言われているが、その死霊術師の中でもさらに一握り、ひとつまみほどの者しか使えない。
「皆も知っている通り、反魂術を使えるのは、その道を極めた死霊術師だ。そして反魂術は試験体だけではなく、我々全員の弱点とも言える」
その場の誰もが沈黙する。
「ハイエルフが死霊術を使うとは思えないが、長命の種族、異例とは何にでもある。我々にも、な。よって、調査なども含めてエルフの森への侵攻はやめるべきだと提言しよう。異議のあるものは手をあげよ」
誰もいない。造られたアンデッドである彼らは、自分の弱点を把握している。そして、もしも死んだ後、彼らは魂すらも残らぬ呪いをかけられている。死んでいるはずの彼らは、死に恐怖しているのだ。
「ふむ。いないようだな、それでは、次の話にうつる。ひとつはこの城に近づいている人間のこと、それに加え、我らが王の話だ」
王と聞き、誰も口を挟まず、依然とした態度で話を聞いている。
「このような辺境の地に来るほどの人間、冒険者か何かだと私は推測した。そして、それを確認するためアンデッドバードを飛ばした」
「それで?」
「ここに向かっている人間は3人、それも、我らの、王の敵である美徳のスキルを持っている者がいるようだ」
ガタガタと椅子を揺らし驚愕する者、立ち上がり警戒する者、不敵な笑みを浮かべ期待する者、多種多様の反応がうかがえた。
「ここで殺すべきだ」
「私もそう思う。だが、王が今どうなっている皆わかっているだろう?王が不在の今、私達のように強く賢いアンデッドは生まれてこない。戦力を減らすより、分散し、次の地へ向かったほうがよいと思っている。この辺りの材料はほとんど手に入れた。新しい材料を探しにいくのも悪くない」
「それは逃げるということか?」
「そう思ってもらっても構わない。だがこれは王のためだ。来たるべく日のため、我らが死ぬわけにはいかない」
「この中の誰かが負けるとでも?」
「その通りだ」
ピリッとした空気が張り詰める。
死の匂いが漂っているこの場ではあるが、さらにそれが濃厚なものとなる。
「ならば我がその人間共の相手をしてやる!!」
机に握りこぶしを思い切り叩きつけ立ち上がった男がそう言った。その巨躯はこの場の誰よりも大きい
「万が一があると言っているだろう!」
「王に創りたもうた我らが負ける、はず、が」
その巨躯はいつのまにか黒い煙に覆われていた。
その煙を出していた正体はすぐにわかる。
甲冑を着込んでいる男、その男の甲冑の隙間という隙間から、勢いよく黒い煙が溢れ出し、その巨躯の男を包み込んでいたのだ。
「俺は逃げルのも、戦ウのもいいと思っている」
円卓に座る誰もがその男を食い入るように見つめて、呼吸すら忘れ、男の言葉に耳を傾ける。それは、畏怖からだろう。
「だが、俺たちトいう戦力を失うのはいケない。それは王のためであり、俺たちのタめでもある」
「そ、それは、つまりどうしろと言っているのだ」
「俺たち以外の戦力をさけばイイ。試験体はもう一体いるんだろう?」
「あぁ。2号がいる。試験体は容易には作れない。数はいない」
「よし、それとエルダーリッチ、死の軍勢、巨悪の骸、アークレイス、それと首狩りの悪魔騎士を今いる3分の1、BとAあたりの雑魚を全部でいいんじゃねぇか?」
「それはいささか過剰戦力ではないか?」
「それだけ美徳スキルは危険だってことだ。
じゃないと時間が稼げない。王はどでかい玉になってしまっているんだろう?それを持って移動ってのも酷だぜ?それとも……俺の案は却下ってことか?一番いいと思うんだけどな」
甲冑の隙間から黒い煙を溢れ出しながら男は言った。
「……わかった。それでいこう。皆のもの、異議はないな?……よし、それでは王をお守りしながら移動を開始する。私は試験体に命令と、兵達を人間に当ててから合流する。それでは、解散だ」
各々が席を立ち、やるべきことをしに行った。円卓の間に残っているのは、地面に転がっている巨躯の男と、椅子に座り何かを考えている甲冑の男、そして先ほど甲冑の男を呼びに行っていたギョロ目のスケルトンだけだ。
「行かないのか?」
「いや、行クよ」
「殺したのカ?」
「ははは、そんなわけないじゃナいか……死んでなければ殺したことにならないヨ……死んでいる俺らが言うのもおかしいけどな」
「行こウ」
「ん〜。あぁ」
2人も円卓の間を後にする。
戦いの準備はすでにできている。
死を振りまく大罪と、人々を救う美徳。
両者はまだ交差していない。
(美徳持ちの人間も気になるけど……エルフの森の方も気になるな……)
嬉しそうに煙を噴き出す男は、エルトの次に危険な人物になるかもしれない。
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