骸骨とハイエルフ
誰1人声を漏らしてはいなかったが、明らかな動揺があり、微かなざわつきがある。
俺はフードも脱ぎ、頭蓋骨をさらけだす。
「私も改めて名乗らせてもらおう。名はムルト、種族は
静かに頭を下げる。
「顔をあげよ」
ジルがそう言い、俺は顔を上げる。
「紹介状を読んだ儂も、ミカイルも、ムルトくんの顔を見るのは初めてじゃ。今この場にいるもの全員が同時に見たことになる。ムルトくんの事情、そして民の皆が怖がるかも知れない。この謁見の間に残った者として、ムルトくんの姿形を口外することは禁ずる」
エルフ達は静かに頷いた。
「さて、それでは滞在期間や観光などの話をしよう」
「すまない。その前に」
俺はジルの話を遮り、挙手をした。一瞬のざわつきはあったが、皆静かにしている。
「何かな?ムルトくん」
「この場に残ってくれた者達を紹介していただきたい。ここで会ったのも何かの縁、そして私に敵意を抱かなかった立派な者として、名を知っておきたい」
「ふむ。ムルトくんがそう言うのであれば、儂は構わぬ。実は、諸々の話が終わればしようと思っておったんじゃがな」
「なっ、そ、それはすまない」
「ほっほっほ。よいよい顔をあげよ」
頭を下げる俺に、ジルは優しく声をかけてくれる。ジルは左右に分かれて座っているエルフ、衛兵として立っているエルフも全員片側に座らせ、紹介を始める。
「まず、この者は知っておるな?ミカイルじゃ、このエルフの国の外交や客人のもてなしを主にしてもらっている。ほれ、一言何か自己紹介を」
「あ、え、えぇと、昨日はあまり話せませんでしたが、この国のご案内などを任せていただくことになりましたので、短い期間ではありますが、よろしくお願いします」
ミカイルは丁寧に頭を下げ、着席する。
「さっきチラリと見ておったな?お主らには珍しいと思うが、胸の大きいエルフ、ファッセじゃ。幻影魔法を得意としている」
「初めまして、ファッセよ。言っておくけど、この胸は幻影じゃないわよ。よければ触って確かめてみる?」
「いや、大丈夫だ」
「ファッセ、やめよ」
ファッセは自分の胸を両腕で挟み、これ見よがしに見せつけてきた。それをジルに止められ、名残惜しそうに席について、頰を膨らませている。
「すまないな、ムルトくん、気を悪くしたか?」
「大丈夫だ。ファッセも私に敵意を向けなかったのだろう?私もファッセを苦手に思うことはない」
「ふむ?そういうことではないが……まぁ、良しとしよう次は……」
「ムルト様は、やはり胸の大きな女性の方が……でも、断ってたし……」
ハルカがぶつぶつと呟いていたが、俺にはよくわからなかった。ジルが次のエルフを紹介しようとした時
「次は俺にいかせてもらうぜ!俺はバルギーク!!素手を使って戦う格闘戦を得意としてる!ムルト!俺はお前が陛下が呼んだ客として敵意も害意も持っちゃいねぇが、言葉遣いとか無礼だと思ってる!一言謝ったらどうだ!」
「む、気分を害してしまったのなら謝ろう。すまない」
「よし!それで良しだ!!」
バルギークと名乗った男は満面の笑みを浮かべ、乱暴に席についた。
「今あった通り、バルギークじゃ、役職としては兵たちの教官をしておる」
「バルギーク、礼節をどうこう言うのなら、君は今陛下のお言葉を遮って発言したのはどうなんだい?」
「あっはっは!!そりゃオメェ、陛下がこの部屋に限られた人物しか残さなかったんだ。いつもの謁見じゃねぇ謁見だろ?なぁ陛下様よ!」
「ほっほっほ。まぁそうなんじゃけどな、客人の手前じゃ、少しは自重せよ?他の者も知っている者はいると思うが、これは謁見のようなものであるが、親睦会のようなものじゃ、緊張せず発言してよい。それでは次は……」
2人残った衛兵は相変わらずガチガチに緊張しているが、机などに座っているエルフ達は緊張を解き、リラックスしながらこの場に立ち会っているようだ。ミカイルだけはしっかりとしているが
ジルはその後、衛兵や机についているエルフ達を順番に紹介していき、残り2名となる。
「残りの2人を紹介する前に、ムルトくんはハイエルフについてどう知っておる?」
「本などに書いてあることぐらいだ。エルフ、ダークエルフの上位種のようなものだろう?」
「ハルナから聞いてはおらぬのか?」
「あぁ。ハルナからは魔法や精霊魔法など自然に舞っている魔気などのことを聞いた」
「なるほど。それでは、残り2名の紹介をする前に、ハイエルフについて話そう。
ムルトくんが言ったように、ハイエルフとは普通のエルフの上位互換のようなものじゃ。普通のエルフの寿命が300年前後とすると、ハイエルフの寿命は1000年前後じゃ。
魔力保有量も多く、体も丈夫、精霊との関わりも深く、全てがエルフの上をいっている。そのようなものじゃ」
「なるほど、ジルはいくつなのだ?」
「そうじゃなぁ……あまり数えていなくてのぉ……約700歳といったところかのぉ?」
「ほう。長命だ」
「普通のエルフも人間と比べれば長いのじゃがな。それでは、残りの2人を紹介しよう。この国にいるハイエルフ3人のうちの1人、クルシュ・ヒコアじゃ」
周りのエルフのように防具を身につけておらず、かといって貴族のような豪華なドレスでもなく、よくいる町娘のような格好をしている女性のエルフが一歩出た。
「初めまして、ご紹介していただきました。クルシュ・ヒコアです。クルシュと呼んでください」
丁寧に腰を曲げ、礼をした
「クルシュはいつもは街でパン屋を営んでいる。回復魔法や薬を作るのが上手いので基本的には戦闘要員ではないが、ハイエルフ、当然戦うこともできる」
「争いは好みませんが、みんなを守るためなら、私も尽力したいと思ってます」
「あぁ。よろしく頼む。次はハック・バックじゃ」
ハックと呼ばれた男は一歩前に出る。クルシュと同じように防具をつけていない。武器のようなものも持っていない。だが、脇にしっかりハープを挟み込んでいる。
「初めまして、ハック・バックです。ハックで構いません。吟遊詩人をしていました。この国に腰を据えてからは旅をしていません。なので是非ともムルトさんの旅の話を聞かせていただきたいと思っています」
「あぁ。私は構わない。私も是非ともハックの詩を聞きたい」
「私でよければ、是非ともお任せください」
ハックも丁寧な礼をし、席へと戻る。
「そして3人目のハイエルフは儂じゃ、これにて、紹介は終わった。本題の滞在期間などの話に入りたいと思うのじゃが、何か質問などはあるか?」
俺は1つ疑問を持ち、手を挙げた
「ムルトくん。なんじゃい?」
「あぁ、聞いていいのかわからないのだが、先ほど、この
「あぁ、ムルトくんの疑問、理解した。答えるならば、ハイエルフは儂達以外にも存在する。500人と少しほどじゃが、隠れ里のような場所がある」
「ジル達はそこを離れてここへ?」
「あぁ。言いにくいのじゃが、ハイエルフはプライドが高く、排他的での、自分たちの種族以外を受け入れないのじゃ、それが自分達と同じ系譜であるエルフだろうとな、自分たちの方が優れている、と差別的に見ていてな」
ジルがそう説明する。
ハイエルフは聖国のように【人族至上主義】のようなもので【自種族至上主義】らしい。
ジルはそんな考えに疑問を覚え、同じ疑問を抱いていたクルシュとともに里を飛び出したらしい。
「他にもきっと同じことを考えている者はいたかもしれないのじゃがな。とりあえずは2人で里を出ることにしたのじゃ。ハックと会ったのは偶々じゃがな」
「はい。私は詩に目覚め、既に見聞を広めようとこの相棒と共に旅をしていました」
ハックは脇のハープを見た。
「そして様々な国や街などを巡っている時、ジルと出会いました。隠れ里に戻っても、ハイエルフ以外との交流はできません。旅人や交流をしている人間から様々な話ができるこの国に留まることにしました。こうしてエルフでも人間でもないムルトさんと出会えたのですから、その選択は間違っていなかったと思っています。モンスターであるムルトさんから聞ける話はきっと、私が見たことも聞いたこともない話、楽しみで楽しみで心も」
「ほっほっほ。ハック、そこまでにするのじゃ、ムルトくんが困っているだろう?」
段々とエスカレートするハックをジルが止め、改めて俺に向き直る。
「とりあえず、こんなところで疑問は晴れたかの?」
「あぁ。大丈夫だ」
「よし。それでは次の話にうつるとしよう。紹介状には世界樹の観光を是非させてあげてほしいとのことが書いてあった。そのことについても話すのじゃが、その他に滞在期間や」
そこでジルは一度口を閉じた。
門の前、恐らく廊下が騒がしい。ドタドタと走り回る音や叫び声、誘導の声などが聞こえる。
謁見の間にいる者たちは一様に門を見ていた。
すると、門が勢いよく開き、1人の衛兵が謁見の間へと飛び込んできた。
「陛下!緊急事態です!!って!も、モンスタァ!!」
コンココン、と、ジルの杖の音が聞こえた。
爆音のような音を立て、門が物凄い速さで閉まり、飛び込んできた衛兵は多重の魔法陣により縛られていた。
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