骸骨と謎の修道女
朝日が昇り、ハルカが目覚め、食事を摂りながら今日の話をした。
彼の名は、仮でワイトになった。
「そのフォルの大冒険という話によると、死者は立ち入れない場所にあるらしい」
「そうか、私が入レナい場所ハ確かニあるが」
「あるが?」
「ここカラ少し遠イ、そシてムルト、お前ニハ辛い旅路になる」
「俺は構わない」
「ソウか、ならばー
大きな骨の馬が2匹生まれてくる。
「コレに乗っテいこう」
「ー下位召喚ー」
俺もスケルトンホースを召喚する。
「馬は自前であるさ」
「ハハハ、ムルトも召喚魔法オ使えルのだな」
「あぁ」
「よし、それデは行クとしヨウ。夕暮れニハ到着するハズだ」
「あぁ、行こう」
「楽しみですね!」
ハルカは素早く馬鎧をスケルトンホースに装着した。ワイトは召喚した馬の1匹を撫でる。すると、その馬は1人でどこかにパカパカと駆けていった。
「あの馬はどこにいったのだ?」
「野生ニ戻しタ。人は襲わヌよう命じた」
「野生に、か」
ワイトの使った魔法は、ただの召喚魔法ではないらしい。魔力が尽きようとも、召喚者が動けなくなっても、消えることはないらしい。
俺とハルカは自分のスケルトンホースに、ワイトは自分が召喚した骨の馬に乗り、ワイトの後をついて、歩き始めた。
★
MPも快復し、スケルトンホースへMPを注ぎ込み続けることができるようになり、あまり休憩を挟まなくなった。
森の中を雑談しながら進んで行く。
「そういえば、全然モンスターを見ませんね」
「そうだな。ワイトのおかげだ」
「ワイトさんの?」
「ムルトは気づイテいるノカ」
「いや、
ワイトは、己の魔力を殺気と混ぜ、薄く辺りに伸ばしている。俺はその魔力の動きが月読で見えている。ワイトは器用にも、俺とハルカ、スケルトンホースにその殺気を感じさせぬよう操っている。
俺はそのことをハルカに説明した。
「ワイトさん、すごいですね」
「ははハ、褒めテくれテ嬉シイよ。だが、コノ殺気ニ充てらレナい奴が厄介なんダ」
その後も、色々な話をしながら、森の中をひたすらに行く。時折、骨がチリチリと痛みを感じ始めるが、それはすぐに収まった。
(む?今のは)
どこかで感じたことのあるようなものだったが、すぐに消えてしまったことから、それほど深く気にすることはなかった。
「この辺りは、聖国の近くか?」
地図を開き、今歩いているだろうと思う箇所を追う。
「あぁ。アっちの方へ向カウと聖国へ出てシマウ」
「そうなのか」
「聖国には向かワナイ。安心してクレ。だが、聖国の冒険者トハ遭遇するかもシれナイな。フードを被ってオくトいい」
ワイトはそう言い、紫のローブをしっかりと着て、フードを目深に被った。
俺とハルカも仮面を装着し、フードを被った。骨が、痛い。
「フム、そろそろ、カ」
「そろそろとは?」
「ムルト、体に異変ハないカ?」
「特に問題はないが」
「痛みはアルか?」
「少し」
「少し、カ。目的地はもう少シだ」
「あぁ」
尚も馬を歩ませた。
もう数時間歩いた所で、俺の馬が止まってしまった。
「む、なんだ?」
スケルトンホースは止まってしまった。無理矢理にでも命令をすれば動いてくれるとは思うが、そんなことはしたくはなかった。
「ムルトのウマはココまでのよウだな。私達もココからは歩コウ」
ワイトが馬から降り、また馬を野生に返す。ワイトの馬は、来た道をまっすぐに帰っていった。
俺とハルカも馬から降りて馬鎧を外し、召喚魔法を解く。
「ムルト、ココからお前モ辛くなる。なぜお前ノ馬が歩ミを止めたのか、ソレオ身を以て体感スルコとになる」
「あぁ」
ワイトの後ろをついて歩く。
一歩進んだところ、スケルトンホースが立ち止まった所より前に行った瞬間、先ほどの痛みとは比べものにならない痛みが体を襲う。
「ぐっ」
「ムルト様、どうされましたか!?」
よろけた俺をハルカが支える。
「大丈夫カ?」
「あぁ。まだ、大丈夫だ。ハルカもありがとう」
「無理はなさらないでくださいね」
「あぁ」
ハルカとワイトに返事をしながら、森の中をまだ歩く。骨の痛みが辛い。
例にあげるならば、ヤスリで強めに骨を削られているような、人でいうと肌を常に削られている状態だ。
痛覚のない俺が、なぜこれほどの痛みを伴っているのか、わかった。
(聖天魔法か……)
マキナで巨大なスケルトンと対峙した時、ハルカが使った聖天魔法の結界、あの中にいた時は、今の状態以上の痛みだったが、これと似た痛みだ。
進めば進むほど、奥に行けば行くほど、その痛みは強くなっていく。
「ムルト様、大丈夫ですか?」
「はぁ、っぐ、だ、大丈夫だ」
「大丈夫じゃありませんよ!無理はしないでください!」
「くっ、すまない……」
「ムルトハこれ以上進メなイカ、私の進メナいところまでモウすぐダガ、ココまでにしヨウ」
「ワイトは、この痛みを感じていないのか?」
「私モ感じテいるサ、私も1つ前ノ進化デハ、この辺リにマデしか来れナカッタ。今の私ハ恐らク人間でイウ所のSランク、Bランクのムルトがココまで来れタノはスゴイコトだ」
「ふふ、それは褒めているのか?」
「褒めテいるノさ。さて、ドウする?」
「ハルカだけでも、連れて行ってはくれないか?」
「ムルト様!」
「私ハ構わなイが、ハルカはドウだ?」
「私は……」
「ハルカ、行って、景色を俺に教えてくれ、何があったか、何を見たか、どう感じたか、それを俺に」
「ムルト様が、そう仰るのであれば、私、私はその光景を目に焼き付けてきます!」
「ははは、頼もしい限りだ」
「ふむ。行クというコトで決まリだな」
「あぁ。ハルカを頼む」
「ムルトはドウスる?」
「俺は来た道を真っ直ぐ戻って、丁度いい所で休んでいる」
「ソレがイイだろう。ハルカが戻っテきたら、すぐに向かオウ」
「あぁ」
ワイトとハルカは先へ向かう。ハルカは何度も何度も後ろを振り返って心配そうな顔で俺を見ていた。俺はそれに手を振り、よろよろと体を起こし、きた道を真っ直ぐに戻った。
体の痛みが、それほど辛くはない場所に来る。体中をヤスリで削られたような痛みはあるが、引き返した場所よりかは遥かにマシと言える。
「ふぅ……」
適当な木を背にし、腰を落ち着かせて声を漏らした。
月欠を撫でながら、空を仰ぐ。
爛々と輝く太陽が、未だに顔を出している。日暮れはまだまだといったところだろうか。
「見たかったなぁ……」
ハルカにはあんなことを言ったが、実際、自分の目で見てみたかった。
ハルカは俺のために事細かに見て、その風景を教えてくれるだろう。だが、自分の肌で感じるものはきっとまた違うのだ。
そう思っていると、人の気配がする。
ガサガサ
茂みを掻き分け走って来る音が聞こえる。その音は真っ直ぐに俺の方へと向かってきている。
「んっはっはっ、あっ!そこの人!逃げてください!」
飛び出してきたのは、修道女のような服装をしており、その上から青色のローブを着ていた。その女は俺を見るなり、そう声をかけた。
その女性を追うように、2人。黒づくめの者達が飛び出してくる。
「あっ、そんな」
修道女は俺と黒服の者達を見て、立ち止まってしまう。きっと逃げてきたのだろう。
だが、その先には俺がいた。修道女は、俺と黒服を交互に見て、メイスを取り出す。
「に、逃げてください」
修道女はメイスを構えながら、俺にそう言った。俺を逃がすために戦おうとしているのだろう。今自分が逃げてきた者たちと戦おうとしているのだ。勇気ある行動をしている。
「加勢しよう」
俺は宵闇を抜き、その修道女の横に立った。
「え、ですが、あっ、そのペンダント」
間髪入れず、黒服が襲いかかって来る。武器を構えたことで、俺をすぐに敵と認定し、二人掛かりで俺を仕留めにきたのだろう。俺は1人の攻撃を躱し、もう1人の短剣を宵闇で受け止める。後ろから俺の首をかっ切ろうと刃を入れられるが。
「なにっ」
その刃が肉を切ることはなく、それに驚いた男が、動きを止めてしまう。俺は後ろの男の足を踏み、すぐには動けないようにし、懐から短剣を取り、それを背中越しに男へと突き刺す。
「っぐ」
目の前から攻めてきた男が退いたことで、宵闇が自由になる。俺はそれを同じように自分の体に突き刺し、背中越しに後ろの男へと突き刺した。
「がっ、は」
剣は貫通し、男は息絶えた
「くそっ、狂人が」
俺の戦い方を見ていたもう1人の男が俺に悪態をつく。
「次はお前の番だ」
「くそっ」
男は俺から修道女にターゲットを変え、迫る。俺は後ろの男を掴み、もう1人へと投げる。
「なっ」
自分と似た大きさの男を投げつけられ、体勢を崩してしまう。俺はすぐに間を詰め、倒れた男の首元へ、確実に剣を差し込み、捻る。
「ふぅ。大事はないか」
「はい。ですが」
ガサガサと、また複数人が迫る音が聞こえる
「こちらへ!」
俺はその修道女に手を引かれ、ついていってしまう。
「なっ」
疲れ切っている俺はそれを拒むことができず、そのまま屍人の森を抜けることになってしまった。
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