骸骨の辛抱
「おはようごじゃいます……」
「あぁ。おはよう。よく眠れたか?」
「はいぃ……ふわぁ〜」
大きなあくびをしながら、目を擦っている。
魔法で水球を作ってやると、その水を手ですくい、顔を洗っていく。
微かに濡れた髪が、艶やかに輝いている。
「ありがとうございます」
「気にするな」
手で返事をしながら、俺は焚き木に火をつける。その熱を風魔法で操りながらハルカの髪を乾かしていく。
ハルカによると、ドライヤーなるものに似ているということらしい。
1人で旅をしていた頃に、体を乾かすために火球を使ってやっていたのが役に立った。
「それでは、行くか」
「はい!」
時刻は7時前ほどだろうか、起きて出発の準備をしている冒険者や馬車の姿が見える。
俺たちは昨夜のうちに出発の準備をしていたので、ハルカのアイテムボックスに荷物を突っ込んだだけだが、洞窟の入り口へと歩いて行くと、昨日、色々と説明をしてくれた職員がいる。
「おぉ、おはよう。もう行くのか?」
「あぁ。昨日は世話になったな。これはお礼だ」
俺は銀貨1枚を男に差し出す。
「おぉ、悪いな。ありがたくもらっておくぜ。2人が無事に機械都市につくのを願っているよ。2人は昇格試験を受けるのか?」
「あぁ。あちらについたら受けるつもりだ」
「そうか。なら、これを持っていくといい」
男はそう言って2枚の紙にサインをし、俺たちに渡してきた。
「これは?」
「大層なもんじゃないが、推薦状みたいなもんだ。昇格試験には性格判断みたいなものが最初にあってな。あんたらはそれをパスできる」
「ふむ。これはありがたい。感謝する」
「いいってことよ!そんじゃ!元気でな!」
俺たちは洞窟の中をずっと歩いて行く。
その男が点のように見えても、まだ手を振っているようだった。
★
「それにしても、なんにもいませんね」
「あぁ。人の気配もしない。皆、馬車で向かっているようだな」
洞窟の中を進み始めてから、8時間ほど経っている。
行き帰りの馬車のようなものはすれ違うが、それ以外のモンスターや、人とはすれ違わない。
徒歩で向かっているのは俺とハルカだけなのではないかと思うぐらいだ。
「でも、気楽でいいですよね!」
ハルカは明るく話しかけてくる。
このような太陽も差し込まない暗い洞窟では、気が滅入ってしまい、景色も悪い。
空気も悪い。いいところがなにひとつない。
「これが10日ほどかかるのか」
「そうなるんでしょうか……」
ヤマトからここまで、馬車で3日の道を徒歩で5日かけて来た。この洞窟は馬車で5日ということらしいから、大体2倍ほどかかると考えて、10日。そして今日は歩いて8時間ほど経つが、まだ1日目だということを考える。
考えれば考えるほど、嫌になる。
「歩くことには慣れているのだが、月が見られないのは堪えるな」
「そうですね。ムルト様にとっては相当お辛いですよね」
「あぁ」
身体的には疲れることはないのだが、精神的にと言われると、疲れている。
今の時刻は大体4時ほどだろうか、野営するにしても、まだまだ早い時間だ。
「ハルカ、早く抜けるためにも、洞窟内では長めに歩こう」
「はい!」
★
その後、特に何事もなく、休憩を挟みつつ歩き、野営をした。
本当に洞窟内は何もなく、苦痛でしかなかったが、ハルカが共にいるということだけで、気分は軽かった。
歩き続けて7日目、やっと出口の光が見えてくる。
「見えてきたな」
「はい!やっとですね」
思えば長かったこの7日間。
人とも会わず、モンスターすらいなかった。いるにはいたが、それはラットやブラックローチなどといったものたちだ。
経験値の足しにもならず、近寄ってすらこないので、無視していた
俺は5日目に痺れを切らし、途中からハルカを抱え、風魔法を使って飛んでいた。歩くよりもずっと早かった。
景色を見ながら旅をしているので、普段は封印しているが、真っ暗な洞窟の中、光源は己の光だけだった。とうとう辛抱しきれず、こんな行動に移ったのだが、それは正解だったと思える。
そんなことを考えながら、俺たちは洞窟の出口に近づいていく。入り口のように、出店のようなものがちらほらとある。
そして、洞窟内を抜け……
目の前に緑が広がる。木々が生い茂り、空気も美味しい。
帰りだと思われる冒険者もたくさんおり、
休憩しているもの達が多かった。
「やっと……やっとだ」
「やっと、やっと抜けましたね!」
「あぁ!やったぞ!ハルカ!」
「はい!ムルト様ー!」
俺たちは互いに抱きつき、その喜びを表す。
俺はあまりの嬉しさにハルカを抱っこし、その場で回る。
ハルカは脱力しているようで、足が伸びてだらしがなかった。
俺はハルカを下ろすと、咳払いをし、大きな声で行った。
「さぁ、向かうとするか!機械都市、マキナへ!」
次の街は、機械都市マキナ、ドワーフが中心に運営しており、鍛治や細工などが有名らしい。
鍛冶屋に頼みたいことがあるのだ。
そして何より金の泉。想像だけでは満たされない。
俺はその光景を、目に焼き付けたいのだ。
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