骸骨と海の上

「んっ……ふあぁ〜」


窓の外から、心地の良い朝日が部屋の中を照らしている。私はあくびをしながら何も変わらない部屋を見渡す。窓の近くには、そこが特等席となっている一人の骸骨が、窓枠に腕をかけながら街の外を見渡していた。


「おはようございます」


私がその骸骨に呼びかけると、凶悪な顔をした髑髏がこちらを向く。


「あぁ。いい朝だ」


「そうですね。いい朝ですね」


この骸骨、ムルト様は、朝決まってこう言う。いい朝だ。と。


「今日もいいお天気ですね」


「あぁ。気持ちよくなるな」


「そうですね。昨日の月も綺麗でしたか?」


「あぁ。とても綺麗だった」


「それはよかったです」


「あぁ。私も嬉しい」


ムルト様は睡眠を必要としない。だから毎日私達が眠りにつくと、私達が起き始めるまで一晩中窓の外の月を見上げている。


「一人は……寂しいですか?」


「……そうだな。寂しい、のかもな」


ムルト様は、また窓の外を見ながら静かに佇んでいる。まるで、絵画のように。





「それでは、ここでお別れですね」


「あぁ。楽しかったぞ」


「はい!」


「そう言っていただけると嬉しいです。私もお世話になって……このご恩は必ずお返しします!」


「ふふ、いい心意気だ。だが、礼など無用だ。またこの街へ寄ることがあれば、また話そう」


「はい!」


「ムルトの旦那ー!もう出発いたしやすぜー!」


船の窓から顔を出し、手を振りながらカロンがそう言う。


「あぁ!わかった!!さて、それでは」


「はい!また会いましょう!」


俺たちはカリプソを後にし、大海原へと旅立って行く。



「……で、どうするか」


「どうしましょうか」


「やることもないんだし、寝てればいいんじゃない?」


「半日以上眠るのは……」


「私は眠れないぞ」


予約した船室でこの後どうするかの話をしているのだ。カリプソを出発してから10分ほど、最初は荷物の確認や部屋の確認をしていたのだが、この船、ヤマトに着くのは明日の8時なのだ。カリプソを出発したのは9時、つまり、22時間後なのだ


「修練場みたいなとこもないしね」


「あるのはレストランですが、一日中いるわけにもいかないですし……」


「できるとしたら、魔力循環などだろうか」


「そうかもしれませんが……なんか、嫌ですね」


「……私もそう思ってるが、それしかないのではないか…?」


「とりあえず部屋に篭るのはやめて、とりあえず甲板に行きましょうか」


「ふむ。そうだな」


「じゃ、行きましょ」


レヴィを先頭にし、俺たちは船の中を歩いて行くのだが……


「その見た目、どうにかならないの?」


「?なにかいけないのか?」


「私たちは観光じゃなくて旅だけど、さすがにその服装は……ね」


レヴィはいつもの服装だが、ハルカは旅装束ではなく、私服のワンピースを着ている。

対して俺は、いつも通りの青いローブに、仮面、手袋に足袋と、船には似つかわしくない服装をしていた。


「いけないか?」


「いけなくはないけど、なんだか、山賊みたいよ」


「な、なに……だが、他のものは持っていないしな……」


「脱いだら脱いだで大変だけどね。そういえば、ムルト。あなた私と会食した時に着てたスーツは?」


「ハルカのアイテムボックスに入っているぞ」


「それを着ればいいじゃない」


「ふむ……」


俺たちは結局部屋に戻り、着替えることにした。俺はローブを脱ぎ、レヴィの屋敷でしたように、荷物を腰に巻きつけ腹回りを確保し、スーツを着る。手袋と足袋がいささか不恰好だ。


「手袋と靴は仕方ないとして……問題は頭よね」


仮面は本来耳のあるところまでしか覆われていない。頭の後ろと、首元が丸見えである。


「あ!いいこと思いつきました!」


ハルカが手を打ち、そう言うと、アイテムボックスから袋を取り出し、穴を開けると、それを俺の頭に被せてくる


「これでどうでしょう!」


「……麻袋を被ってるって……逆に怪しくない?」


「……そう、かもしれないです」


「まぁいい。適当な言い訳でも考えておこう」


俺は仮面をして、帯剣をする。月光剣を左腰に、右腰には人狼族とレヴィからもらった短剣をさしておく


「剣は置いていかないの?」


「どれも私の大事なものだ。ここに置いていくのは寂しい」


「そう。大事……ね」


レヴィが自分のあげた短剣を見て少し頬を赤くする。


(そう。どれもが大事で、欠かせない出会いの証だ)


俺は人狼の短剣、魔王の短剣、そして敬愛するものより授かった美しい剣を見る。





心地の良い太陽の光と、涼しい風が吹いている。周りには煌びやかなドレスを着たものや、しっかりとした装備をした冒険者らしき人物などがいた。俺たちは今、甲板へときている。


「綺麗な海ですね!」


「あぁ。とても美しいな」


目の前には、どこまでも広がる青い海。船が進み、できる波が静かに心地よい音を立てている


「ハルカは海を見たことがあるか?」


「前世ではありますが、ここでは初めてです!こちらのほうがずっとずっと綺麗です!」


「レヴィは?」


「私は空からしか見たことがないわ。この姿で見るのもいいわね……」


3人してうっとりしながら海を見ていると、見知った人物の声が真上から聞こえてくる


「旦那ー!ムルトの旦那ー!」


見上げると、帆の上のあたりに、双眼鏡をもった人物を見つける。カロンだ。

俺は手を振り、呼びかけに応える

カロンはもう一人に何かを言い、梯子を使って下へと降りてきた


「いやぁ〜人違いかと思いやしたよ〜」


カロンは俺を上から下まで見た


「仮面に見覚えと、侍らせてる美人に見覚えがありやしたので声をかけました」


「侍らせてるとは、なんだ?」


「え?違うんですかい?ってっきりあっしは」


レヴィがカロンの口元を抑える。カロンの顔はみるみるうちに青くなっていく


「レヴィっ!何をしている!」


「はぁ、はぁ、ムルトの旦那大丈夫です……よーくわかりました。ところで、ムルトの旦那はここでなにを?」


カロンは息を整え俺にそうきいてくる。

レヴィは悪びれしていないが、顔がほのかに赤くなっている。カロンのなにが気に入らなかったのだろうか


「ただ海を見ていただけだ。私たちは海も船も初めてなのでな。全てが新鮮で新しい」


「ほ〜旦那達は船が初めてでしたか!よければ船内を案内いたしやしょうか?」


「レストランなどは見てきたから大丈夫だ」


「いやいや、もっと奥の方の、機関室や制御室でやすよ」


カロンは声を潜めて俺にそう語りかけてくる。


「む、そういうのは客には見せられないのではないのか?」


「あっしと旦那の仲ですから!船長に許可を得ないといけやせんが……」


「むっ?」


俺は何かを感じ右を向いた。すると、その方角から、雷なようなとてつもなく大きな音が聞こえ


バッシャーン


海の底から噴き出しているように見える。大きな水柱が、海にできた。


「な、なんだありゃ!?」


「カロンさーん!!モンスターです!!恐らくクラーケン!!船長に連絡を!」


「クラーケン?!わかったー!!旦那!すいません!緊急事態です!すいやせん!船室へ戻ってください!!」


並々ならぬ事態が起こったらしい。

船員が甲板へと大勢来ており、乗客達を船室へと避難させているようだ。船内アナウンスも慌てながらも連絡をしている。


「何が起きている?」


「クラーケンって言ってましたね」


俺たちは不思議と冷静だった。甲板に残っているのは大勢の船員と、冒険者らしき人物が数名残っていた。


「クラーケン、Sランクモンスターね。さっさとやっつけちゃいましょうか」


「海上戦か、今日は、初めての事が多いな」


俺は月光剣ー月夜ーを握り、レヴィと共にクラーケンを目視し、船の端へと移動した


「ムルトの旦那ァ!!まだいたんですかい!レヴィアの姐さんもあぶねぇ!下がってくだせぇ!!」


サーベルのようなものを持ったカロンが戻ってきていた。後ろには、大熊犬と人間を足したらこれになるんだろうな。という大きな男が巨大な錨を持って立っていた。その男が口を開く。重く低い声だった。


「おまえら、冒険者か?」


「そうだ」


「おまえらにあれを追っ払うことができるか?」


「無論だ」


「私たちなら倒して晩御飯のオカズにだってできるわよ」


「はっはっは!!こりゃー大きくでたなぁ!Sランクモンスターを晩飯にかぁ!見た所……おまえらは強そうには見えねぇが?」


「人は見かけによらないと言うだろう?」


「そうか……そうだな。なら!おまえ達に依頼をする!クラーケンを倒してくれ!報酬はもちろん払う!」


「任せろ。ハルカはここに残り、カロン達と他のモンスターの警戒にあたってくれ」


「はい!わかりました!」


「では、行ってくる」


「あぁ!ムルトの旦那!」


俺はそう言いながら、船から飛び降りる。



★★★★★


名前:ムルト

種族:月下の青骸骨アーク・ルナ・デスボーン


ランク:C

レベル:47/50

HP3120/3120

MP1080/1080


固有スキル

月読

凶骨

下位召喚

下位使役

魔力操作

憤怒の大罪




スキル

剣術Lv7

灼熱魔法Lv2

風魔法Lv5

暗黒魔法Lv3

危険察知Lv8

隠密Lv10

身体強化Lv6

不意打ちLv6

カウンターLv3


称号

月を見る魔物、月の女神の寵愛、月の女神の祝福、月の使者、忍び寄る恐怖、心優しいモンスター、挑戦者、嫌われ者、人狼族のアイドル、暗殺者、大罪人、救済者

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