骸骨と焼肉

ベッドに寝そべる骸骨は、パチリと目を開け、天井を見た。


「……不思議な夢を、見た」


見知らぬスケルトンが人々を蹂躙し、軍勢をもって森を闊歩する夢だ。なんとも薄気味の悪いものだった。


両隣には未だ目を覚まさない美女2人がいる。窓の隙間から入り込んでくる光を見ながら、太陽が昇って、まだそれほど時間が経っていないことがわかる。


「ふむ」


俺は器用に左腕の関節も外し、両腕のない状態で窓から外を見る。

外にはすでに、商品を馬車に積み込み、品物を売っている商人や、店の準備を始める魚屋などがあった。

魔都が近いということもあり、魔都で見たほどではないが、亜人種も多いようだ。


「ん……ムルト?」


声をかけてきたのはレヴィだ。

まだ眠いのか、目をこすっている。


「起こしてしまったか?」


「んーん、今起きたところ」


微かに乱れたランジェリーからは、なんとも可愛らしい肩が見えている。これ以上紐が下にいってしまったら、大事なところまで見えてしまう。レヴィは俺の腕を引きづりながら俺のそばまでくると、俺の腰に手を回し、肋骨に顔を沈める


「ぎゅーって、して?」


甘えるような声に、無い心臓がドキリと音を立てたのがわかった。俺はレヴィを包み込むように抱擁したが、なにぶん肉も腕もない。俺は、肋骨の中にへ包み込むこととなった。


「んふふ、ひんやりして、気持ちぃ……」


レヴィはそのまま寝息を立て始めてしまった。


「立って寝るとは。器用だな」


俺はどうしたものか、と思ったが、レヴィの持っている左腕を右腕になんとか装着し、

肋骨をバラし、それを左腕に装着し、長い一本の腕にして、レヴィをベッドに運び、横にすることができた。

ハルカから右腕を取り戻し、元に戻す。

そして部屋にある席に座り、皆が起きるのを待つのだった。


(全く起きないな……)





「ねぇ。なんで徒歩なわけ?」


そう文句を言うのはレヴィだ。朝食を食べ、コットンと別れ、今は港町のカリプソに向かっている途中である。街を出て未だ10分ほどだが、飽きたのか、レヴィがそんなことを言ってきたのだ。


「旅というのは徒歩で行うものだろう?それに見ろ。この自然を、美しくはないか?」


「森なんてそこらへんにあるじゃない!」


「まぁまぁ、レヴィアも落ち着いて」


「私がひとっ飛びすればすぐに着くのに!」


「確かに空からの景色は美しいだろう。が、やはり徒歩に勝るものはない。飛ぶのは最終手段だ」


「〜〜わからずや!」


レヴィは文句を言っているが、なんだかんだ歩いてきてくれている。


「……ところで、レベル上げもしたいって言ってたけど、命は平等なんじゃあないの?」


「そうだ、だが、人を傷つけたり、襲ってくるものは倒す」


「ふーん」


それは俺の決めていることである。


「例えば、目の前に大熊犬がいたとしよう。だがそいつは襲ってこない。俺が手元にギルドの依頼書を持っていれば、そいつは討伐対象だから討伐しよう。だが、手元に依頼書がなければ、そいつが悪いことしたかどうかなどわからないだろう?だから見逃す」


「そう」


街を出る前、俺とハルカはレベル上げをしたいということで、極力レヴィがモンスターを倒さないように、とお願いをしておいた。

レヴィには魔法を中心にハルカに教えてもらい、俺は実戦。ハルカは魔法の試し打ちなどをしている。


「あ、目の前にパワフルボアがいるわよ」


「ふむ。問題は襲ってくるか、だな」


「突進してきましたよ?私に任せてください!」


ハルカはそう言い、突進してくるパワフルボアの前に立ち、杖を構える。


灼熱壁フレイムウォール


パワフルボアはスピードを緩めることなくその炎の壁に突っ込み、蒸発してしまう。


「ハルカ、その程度だったらファイヤーウォールで十分よ……素材も肉もとれないし、燃費悪いわ」


「えへへ、いいところ見せたくて」


「いや、いい魔法だぞ」


俺がハルカを褒めると、ハルカは少し照れ、レヴィは頬っぺたを膨らませていた。

それからしばらく歩いていくと、小さめの湖が見えてきて、時間もちょうどいいということで、ここで野宿をすることになった。

あの後もなんどかパワフルボアが襲ってきたり、よくわからない大きな鳥も襲ってきたので、その肉がある。


ハルカは鉄板を魔法で温め、薄く切った肉をそのてっぱんの上で焼いていく。

じゅう〜という音を立て、ばちばちと油が跳ねている。少し待った後、ハルカはその肉を裏返し、反対側も焼いていく。


「美味しそうね」


レヴィは肉を見ながら楽しみに待っているようだ


「焼肉、っていうんです。こうやって薄く切ることで、火が通りやすくなって、しかも、肉自身の油で焼けるので、味が凝縮されるんですよ」


「へぇ〜、もう食べてもいいの?」


「はい。大丈夫ですよ!」


「じゃあ、先にもらうわね。えっと、いただきます?」


「はい!召し上がれ!」


レヴィは肉を爪で挟み、口へと運んでいく


「っ……おいひぃわね。すごく柔らかくて食べやすいわ」


ハルカは皿を出し、街で買った砂糖と調味料、それと香辛料を入れ、それを混ぜていく


「私の世界には焼肉のたれっていうのがあったんですけど、このソースをこうすれば……それっぽいやつが出来ると思います。どうぞ!」


レヴィはそのソースの入った皿を差し出され、肉をそのソースにつけ、また頬張った。


「ん〜これもいけるわねぇ。辛味が少しあるけど、すぐに甘みがそれを抑えて引き立たせつつ、肉本来の美味しさが襲ってくるわ……」


「美味しいでしょう?まだまだ鳥の胸肉や皮などもあるのでどうぞ!」


「ありがと〜」


女子2人がキャッキャしながら肉をつついている。俺は月そっちのけでその光景を見てしまっている。


「美味そう……だな」


レヴィが散々騒いでいるのだ、嫌でも興味を持ってしまう。いや、実は食べたいのだが


「ムルト様もどうぞ!」


「うむ」


俺はハルカに肉を差し出され、その肉を口に運び、舌鼓を……うてない。舌もなければ、味もしない。


「……やはり味がわからないな。無駄にしてしまった。すまない」


肉は俺の喉を通り、恥骨へと落ちてしまう。

人間の街でしか食事をとる必要はないので、胃袋の布は未だハルカのアイテムボックスの中にしまってある。


「む、無駄じゃないですよ。ムルト様食べたお肉もらっちゃいますね?」


「あぁ、ハルカがよければ構わないぞ」


「いただきま〜」


「ちょっと!私もその肉食べたいんだけど!」


「わ、私が食べさせたお肉なので!」


「この、私が残飯処理してあげるって言ってるの!」


「残飯だなんて!この、ぜっぴ、いや、私が残飯処理したほうが相応しいんです!」


「よこしなさい!」


「さすがのレヴィアの頼みでもこれは渡せません!」


「きー!ハルカのくせに!」


ハルカとレヴィの肉の奪い合いはしばらく続いた。俺はそれを見ながら、肉を焦がさないよう、ひっくり返し、皿へとうつす。


(どんどん仲が良くなっていくな……俺も嬉しい)


俺は、誰にもわからないだろうが微笑んでしまった。


「あ!ムルト様、いま笑いましたか?ムルト様がどっちが食べたらいいか決めてください!」


「そうね!さぁムルト!私が食べるに相応しいでしょ?」


「ふふふ、さぁ、早く食べないと、冷めてしまうぞ、ほら、あーんだ」


「!あーん!んっ、ハルカ!私の勝ちね!」


すかさずレヴィは、俺が差し出した肉を目にも留まらぬ速さで口へ運び、咀嚼し、ハルカに指差していった。


「あぁ!なんて羨ましい!」


ハルカは膝から崩れ落ちて言った。すごく楽しそうだ。そんな2人を見ているだけで、温かい気持ちになる


「ハルカ、胃袋を出してくれ、俺も混ざりたい。ハルカ、あーんしてくれ」


「!はっい!!」


俺は胃袋を装着し、ハルカにあーんしてもらい、それを食べる。食べれないが、レヴィもそれに参加し、交互に俺の口へ肉を運び、胃袋に入った綺麗な肉を2人でまた食べる。というはたから見れば恐ろしい晩餐になってしまった


「楽しい。な」


「はい!楽しいです!」


「そ、そうね」


俺は、肉とこの幸せを噛み締めながら、空を見上げた。月も笑っているように見えた。

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